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【連載版】追放聖女は隣国の魔貴族に拾われる〜聖女の私がいなくなると王国が滅びるそうですがよろしいのですか?〜  作者: ギッシー


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58.愛の形

「おいっブールドネージュ! 過去の竜王は普通に戦えたんだろ? あの小僧はそんなに弱えのかよ!」

「いや、オランジェットの力はかつての竜王と遜色ないものだ。恐らくヨルムンガンドの力が以前よりも強大になっているのだろう。しっかりしろオランジェット! 魅了を操るお前がヨルムンガンドの洗脳に負けてどうするのだ!」


 オランジェット様はブールドネージュ様の呼びかけにも反応することはなく、焦点の定まらない虚ろな瞳をし、だらしなく涎を垂れ流している。


「いくら呼びかけたところで無駄だ。もはやこの男には我の声しか聞こえんよ。さあ行け竜魔貴族オランジェットよ。自らの手で仲間を殺すのだ!」

「……かしこまりましたヨルムンガンド様」


 オランジェット様はヨルムンガンドの命令に頷き、踵を返してこちらに歩き出す。

 これは不味い事になった。いきなりチマキとシャルロットがやられてピンチな上、オランジェット様まで……。


「ブールドネージュ、お前が友をやれねえってんなら俺が代わりにやるぞ」

「いや、お前ではオランジェットを殺してしまうだろう。私が何とか無力化しよう」

「無力化ってお前……あの小僧も魔貴族の端くれだろ? いくらお前が強くても本気の勝負ってなったら無傷じゃあすまねえぞ。殺さねえように加減する戦いが難しいのは知ってんだろ!」

「ああ。だが、これは奴の友である私がやらねばならんのだ」


 アタゴと話すブールドネージュ様からは悲壮な決意を感じる。

 ヨルムンガンドと戦う前にダメージを負うリスクはもちろん、友であるオランジェット様と戦いたくないのだろう。でも、誰かがやらなければならないのなら、せめて自分がやる。

 ブールドネージュ様からはそんな思いが伝わってきた。


「まったく……あの方は本当にどうしようもない人ですわ」

「シャルロット! 貴方、意識が戻ったのね」


 急転する事態の中で回復を施し続けていたシャルロットが意識を取り戻した。チマキの方も薄っすらと意識が戻っているようだ。

 良かった……心配したんだよ。


「ええ、ありがとうスフレ。貴方に命を救われましたわ。兄様に任せては互いに無事ではすまない。ここは私にお任せなさい」

「えっ? ちょっとシャルロット!」


 シャルロットはそう言って立ち上がるとオランジェット様に向かって歩き出す。

 そして、両者手の届く位置までくると互いに足を止めた。


「ジェット、貴方は決める時には決められず、大事な場面でこんな失態を晒すどうしようない人……」

「……シ、シャル……ちゃ、ん」


 シャルロットの呼びかけにオランジェット様が反応を示す。

 ブールドネージュ様の呼びかけにも答えなかったオランジェット様が、シャルロットの言葉に反応を示した。

 それって、オランジェット様の気持ちがシャルロットに傾いたってこと? 流されて婚約したようにも思えたが決してそんなことはなく、しっかりと愛していたんだな。

 あんなに長い間ブールドネージュ様を愛していたオランジェット様が、シャルロットをより愛するようになるなんて凄い事だよ。


「シャ、ル……シャルゥゥ……」

「まだ寝ぼけているようですね。今目を覚まさせてあげます!」

「がはっ……! ――痛えっ! 何すんだよシャルちゃん! って、あれ? 俺は今まで何を……?」


 反応を示したとはいえ意識が朦朧としているオランジェット様に、シャルロットが大きく溜めを作ったフルスイングの平手打ちをぶちかました。

 ひえ~痛そう……でも平手打ちの効果でオランジェット様の意識が戻ったみたいだ。私の親友はやっぱり凄い子だよ。

 そして、シャルロットは意識を取り戻し状況を把握しようとしているオランジェット様の胸に飛び込んだ。


「やっと戻ってきましたねジェット……あまり心配させないでくださいまし……」

「すまねえシャルちゃん。ありがとう……シャルちゃんが俺を呼び戻してくれたんだな」


 先程と打って変わり、シャルロットは胸に顔を押しつけ弱々しく呟く。そんなシャルロットの頭をオランジェット様は愛おしそうに撫でる。二人ともお互いを本当に愛している事が伝わってくる抱擁だった。

 初めはブールドネージュ様を愛していたオランジェット様も、今ではシャルロットを愛するようになったようだ。

 こんな愛の形もあるんだな。


「フフフハハハハッ、茶番としては面白かったぞ。だが茶番はここまでだ」

「茶番ですって? 貴方にあの二人の何がわかると言うの!」

「スフレ、奴の相手は私に任せてくれ。深い因縁があるのだ」


 シャルロットとオランジェット様の愛を茶番と嗤うヨルムンガンドに怒りが込み上げる私をブールドネージュ様が制し、真剣な表情でヨルムンガンドを見据えてた。因縁とはみんなが聞いたっていう昔話のことだろう。

 そんな私たちのやり取りさえ茶番と言わんばかりにヨルムンガンドは嗤い、周囲の眷族たちの生命力を吸収していく。

 一瞬で眷族の力を取り込んだヨルムンガンドの身体は一回り大きくなり、より強力な存在感を持つ龍になった。


「フフフッ、其方が相手かブールドネージュ。神の龍と呼ばれる我が力に震えるがいい!」

「ヨルムンガンドよ。貴様が神ならば私は神を殺す鬼となろう。長い因縁に蹴りをつけるぞ」


 こうして、神の龍と神殺しを狙う鬼の戦いが始まった。

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