57.決戦の始まり
黒雲が近づくと周りにいるワイバーンや狼の魔物が襲いかかってきた。
大地を汚染する毒を持つヨルムンガンドの眷族も単体ならたいした汚染はない。しかし、これだけ大量となれば話は変わってくる。
だが、今ここにいるみんなは私が聖属性の魔力を付与した武器装備している。
ブールドネージュ様の聖刀、オランジェット様のオランジェット様の聖槍、シャルロットの聖双剣、チマキの聖鎚、アタゴの聖分銅鎖。
ちなみに名付けは全部私。自分でも驚くくらいナイスネーミングだと自負してるよ。この武器なら毒を浄化することができるはずだ。
ブールドネージュ様たちは私を囲むように陣形を組み、襲いかかってきた魔物を蹴散らしていく。
このままヨルムンガンドのもとまで行って魔族大結界で封印する作戦だ。
「あまり雑魚に構うな! このまま黒雲に突入するぞ!」
「「「おうっ」」」
ブールドネージュ様の号令のもと、私たちは魔物を振り切り黒雲に侵入した。
「あれ? 真っ暗なのを想像してたけど意外と明るい」
「かつての戦いでもそうだった。奴の生み出す黒雲の中は視界があるのだ」
私の疑問にブールドネージュ様が答える。黒雲の中は外観からは想像できないほど視界は鮮明だったのだ。
これは私の推測だけど、黒雲に見えていた物はヨルムンガンドの邪気が膜を張った物で、その中には濃い邪悪な魔力こそ充満しているが視界は悪くないのだと思う。
広い黒雲の中を進んで行くと、外にいたものよりも一回り大きなワイバーンや狼の魔物が再び現れ襲いかかってきた。
「ちっ! 中にも魔物がいるのかよ!」
「気を付けろ! 中の魔物は外のものよりも手強いぞ!」
こうして中の魔物との戦闘が始まった。
外よりもサイズの大きい魔物は手強く、外のようなハイペースで進むことはできないが、それでも私たちは確実にヨルムンガンドの気配のする方向に進んで行く。
「くそっ! こいつら強え……!」
「孤立すると危ないですわチマキ。皆様よりも戦闘力に劣る私たちは連携して戦いますわよ」
「ああ、すまねえシャル。そうさせてもら――」
「チマキッ!!」
シャルロットと連携して戦っていたチマキを何もない空間から突然現れた光線が襲う。そして、それを庇おうとしたシャルロットまでをチマキと一緒に貫いた。二人は身体から真っ赤な血が噴き出しピクリとも動かなくなっていく。
えっ……チマキ、シャルロット……嘘でしょ? 演技……だよね?
私は目の前の光景を認めることができず、呆然と立ち尽くすことしかできずにいた。
「やはりきたかブールドネージュとその仲間たちよ。我の前に立つ資格のない雑魚は退場させた。存分にやり合おう」
「ひさしぶりねスフレ。今日こそ貴方を殺してあげるわ」
ブールドネージュ様の使うゲートと同じように空間を切り裂き、突如ヨルムンガンドらしき大きな龍と、以前よりも邪悪な顔になったショコラが現れた。
何か喋っているようだが私の耳には届かない。それほどに二人がやられたのがショックだった。
忘れたわけじゃなかったが思い知らされた。相手は伝説級の邪龍だという事を……。簡単に完全勝利できるような相手じゃないのだ。
「しっかりしろスフレ! シャルロットはとチマキはまだ生きている。回復を頼む!」
「は、はい!」
冷静に状況を判断したブールドネージュ様の言葉で我に返った私は二人の治療を開始する。
うん。傷は深いけど助けられると思う。
「手前シャルちゃんに何しやがった! ぶっ殺す!」
私が聖女の妙薬を使い治療を進めていると、オランジェット様が怒りを爆発させてヨルムンガンドに突撃した。
良かった。もしかしたらその場の雰囲気に流されて婚約したのかもしれないと思っていたけど、ちゃんとシャルロットを大切に思っていたんだ。
「うおおらああぁぁ……」
ヨルムンガンドに向かって突っ込んだオランジェット様だったが、途中で失速して動きを止めてしまう。
先程までの怒りの形相は鳴りを潜め、生気の感じられない虚ろな瞳をしていた。
「其方は今代の竜魔貴族だったな。邪龍である我は力量差のある竜族を操ることができる。フフフッ、ブールドネージュよ。今代の竜魔貴族は実力不足だったようだな」
確かに言われてみればヨルムンガンドは伝説の邪龍。竜の上位存在である龍ならば、格下の竜族を操ることが可能なのかもしれない。




