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【連載版】追放聖女は隣国の魔貴族に拾われる〜聖女の私がいなくなると王国が滅びるそうですがよろしいのですか?〜  作者: ギッシー


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55.癒しの光

 ゲートの異空間を抜けると大きな広場に出た。そこには幾つもの仮設テントが建てられ、その中に入りきらなかったのか、外には病人や怪我人が寝かされている。

 広場全体から苦しそうな呻き声が聞こえる地獄のような光景が広がっていた。

 酷い……想像以上だわ……。


「おい、あの男の頭、角があるぞ……! 魔族だ!」

「魔族ってほんとにいたのかよ……でも、何でここに……!」


 突然現れた私たちを見た人たちが騒ぎ出す。だが、遠巻きに見るだけで近づこうとも逃げようともしない。

 ブールドネージュ様の言葉通り、人族は魔族を恐れている。それは自分たちを遥かに上回る力を持ち、見た目も違う得体のしれない種族と思われているせいだと思う。

 実際に付き合ってみれば、魔族は人族と変わらない心を持っているってわかるはずなのに……。


「ヨルムンガンドの振り撒く病は初代聖女ですら治すことができなかった。だが、今のスフレの力は初代聖女を超えている。君になら可能かもしれない」


 複雑な思いを抱く私にブールドネージュ様が声をかけてくれる。

 いつの間にか私の魔力は初代聖女を超えていたみたいだ。


「ありがとうございますブールドネージュ様。やってみます」


 私が精神を集中して魔力を高めると、身体から神聖な魔力溢れ輝き出した。

 輝く聖魔力の光は徐々に範囲を広め、やがて町全体を包み込んでいく。その光に触れた人々の傷は癒え、病で倒れた者の顔色も良くなっていった。


「……凄いなスフレ。想像以上だ。癒しの光は屋内にいる者まで癒されているぞ」

「はい。うまくいったようです」


 聖女の特性なのか、私には人の生命力を見ることができる。ブールドネージュ様も似たような方法で屋内にいる人たちまで回復したのを感じたのだろう。


「傷が治った……?」

「聖女……あの方は追放された聖女スフレ様だ!」

「ありがとう聖女スフレ様!」


 傷や病の癒えた民が私に気付いて騒ぎ出し、そこかしこから称賛の声が聞こえてくる。

 今だけは魔族への恐れも忘れ、みんな笑顔でこちらに手を振っていた。


「これで私のやるべき事は終わりました。行きましょうかブールドネージュ様」

「了解した。『ゲート』」


 魔族領を飛び出してまで人族を救いにきた成果を得られ、やるべき事を終えた私たちはゲートの魔法で領都を後にした。



◇◇◇



「あの光は一体何だったのだ?」

「わかりません……。ただ、とても神聖な魔力を感じる光でした」


 ブールドネージュたちが去った後の応接室でのこと。スフレが王国の民を癒した光を見た国王たちは状況がわからず戸惑っていた。

 以前のスフレにはできない芸当であったし無理もないだろう。謎の光について話し合う国王たちであったが答えは出なかった。


「陛下! 病人を集めた地域に魔族が現れたと報告がありました! その魔族は聖女スフレ様と共に現れ、スフレ様が民を癒す光を放った後、何もない空間に現れた扉に消えたとのことです!」

「何だとっ! ……ブールドネージュとは初代聖女の残した伝承の男だったのか」

「陛下、初代聖女の残した伝承とは?」


 兵士の報告に思うところのあった国王が呟いた言葉に大元帥が問いかけた。

 国王は「うむ」と、一呼吸置いてから口を開く。


「魔族領にはブールドネージュという名の強く優しい魔族の王がいる。もしも未来でヨルムンガンドが復活したならば、ブールドネージュと私の子孫を頼るように。と、王家にのみ伝わる伝承があるのだ」

「王家に伝わる聖女伝承……単なる噂話と思っておりましたが、本当に存在したのですね」


 王国には王家にだけ伝わる聖女伝承が存在すると噂されていたが、所詮噂話でしかないと信じる者は少なかった。

 大元帥も信じていなかったが、王である国王自身が言うのであればそれは真実になる。


「しかし、伝承は伝わっていても、魔族を信用できなかった歴代の王たちは誰も信じてはいなかったのだ。私も含めてな。だが、あのブールドネージュという魔族と会って、私は魔族の認識が変わった」

「ですが陛下、あのブールドネージュという魔族は非常に好戦的な印象でしたが」


 大元帥の疑問に国王は首を振ってそれは違うと示す。


「あれは本心ではなかろう。事実としてあの男は我らに何もしなかった。これは私の憶測だが、あのブールドネージュという男は我ら人族に危害を加える気などなかったと思うのだ。あのような男がいるならば、我々も魔族の認識を改めなければならぬかもしれん」

「そうですな。不思議な魅力のある男でした。我らは魔族を誤解していたのかもしれません」


 国王も大元帥も、魔族に対する認識に変化ができた。

 ブールドネージュの邂逅は、今後の魔族と人族の関係を変えるものになるのかもしれない。



◇◇◇



 遠く離れた王都にて、ヨルムンガンドとショコラも癒しの光を見ていた。


「あの光はまさか聖女の癒し? 今代聖女は人魚族の英雄を超えるか。ふふふっ、おもしろい」

「どうしたのですかヨル? あの光が何か?」


 ヨルムンガンドはショコラの質問に笑みを浮かべて口を開く。


「感じぬかショコラよ。あれは聖女の癒しの光だ」

「あれが癒しの光? そんなはずありませんわ!」


 ショコラは事実を認められず、感情をあらわにして否定する。

 無理もない。ショコラも過去にスフレが癒しの力を使う場面は見ている。確かに傷や病を治す際に光が発生していた。

 だが、あそこまでの規模の輝きは見たことはなかったのだから。


「我もあれほどの魔力を見たのは初めてだ。今代の聖女は化け物だな。初代聖女ですらあんなまねはできないだろう」

「スフレ……あの女が……!?」


 ショコラは歯噛みして悔しがる。プライドの高いショコラはスフレを絶対に認めることなどできないから。


「だが、あの場所の魔力反応は少ない。聖女とブールドネージュは少数でやってきたようだな。今が奴らを始末するチャンスでもある。出るぞショコラ。其方の望みを叶える時がきたようだ」

「望みを……そうですね。行きましょうヨル。スフレを亡き者にしてやりますわ」


 ヨルムンガンドの宣言にショコラは邪悪な笑みを浮かべ答える。

 全ての決着を付ける時がきた。その喜びを嚙みしめながら。

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