51.鬼魔貴族の昔話その後(ブールドネージュside)
「以上が過去に行われたヨルムンガンドとの戦いと、それを封印した英雄たちの真実だ。タンフールたち戦に参加した魔族は呪いによって一年以内にみな亡くなってしまった。私は戦後、魔族領と人族の国の境界に結界を張り、人口の減った魔族領の復興に尽力したのだ」
私の昔話を聞いた皆の反応は様々だった。
過去の英雄の子孫であるジェットとアタゴは眉間に皴を寄せて考え込み、シャルロットとチマキは頬を紅潮させて興奮している。
同じ話を耳にしてもこれだけ違う反応を見せてくれるのは面白いな。
「俺がガキの頃に大天狗様が死んじまったのは短命の呪いのせいだったんだな。お前はヨルムンガンドの呪いを克服したのか?」
「大天狗の呪いは完全な物だったからな。私とミルフィーユの呪いは不完全な物だった。今は呪いを反転させ、逆に寿命を延ばしている」
アタゴは私を除けば魔族領で一番長生きしている魔族だ。
当時はまだ子供だったため戦には参加していなかったが、戦後の魔族領を知る人物の一人である。大天狗の死因を知り「なるほどな、腑に落ちたぜ」と納得したようだ。
「でもよ。ミルフィーユは人族の国で亡くなったんだろ? 寿命を延ばせなかったのか?」
ジェットから質問が飛んできた。
私と同じで完全な呪いを受けていなかったミルフィーユが亡くなったことに疑問があるのだろう。
「ミルフィーユは人族と結婚し子供を作った。それによって人魚族の力は子に受け継がれ、力を失ったミルフィーユは長く生きることはできなかったよ。そして、長く生きれなかったミルフィーユは人族の魔族に対する認識を変えることはできなかったようだ」
「俺の魅了が効かなかったのはその人魚族の力を色濃く受け継いだってことか……。敵わねぇわけだぜ……」
ジェットは私の話を聞くと納得したように深く頷いた。
「そんな過去があったんだな。その……ネージュはミルフィーユのことが好きだったのか?」
効いていいものか不安そうにジェットは私に問いかける。
「ミルフィーユは私にとって姉のような存在だった。あの愛情は家族に対して抱く物と同じだ。私が愛する女性は、今もこれからもスフレただ一人さ」
これから命を預ける仲間に隠すような事ではない。私は正直な気持ちを打ち明ける。
すると、ジェットは一瞬呆けたような顔をした後、楽しそうに笑い出した。
「はっはっはっ! お熱いことで! 魔族領の気温が高くなっちまうぜ! ったく……お前ら兄妹、血の繋がりはねえのに、真っ直ぐに熱いところはそっくりだな。って痛ぇ!」
「まったく、ジェットは喋りすぎですわ」
楽しそうに笑うジェットの尻をシャルロットが力いっぱい抓り上げた。
シャルロットの強みがスピードにあるとはいえ、鬼族は竜族よりも種族的に力がある。そのシャルロットに思いっきり抓られたのだ。下手をすれば尻肉が引き千切れるだろう。
「痛えよシャルちゃん! ったく、勘弁してくれよ」
シャルロットと婚約したジェットはさっそく尻に敷かれているようだ。あの子は気が強いからな。
だが、嫁が強い方が夫婦関係は上手くいくと言う説もあるし、いいのではないだろうか。
「おいおいシャルに竜魔貴族様、人前でイチャイチャすんのは止めてくれよ。こっちが照れちまうぜ」
「だな。シャルの嬢ちゃんはともかく、オランジェットお前、いい歳して恥ずかしくねえのか?」
「なっ! チマキ、アタゴ、お前ら……!」
二人のやり取りにチマキとアタゴが突っ込んだ。
チマキとアタゴは元々仲がいい。連携プレイでジェットをいじって楽しんでいた。
「詳しくはわからんが、ジェットは昨日やらかしたらしいからな。甘んじて受けろ」
「なっ……! ネージュお前まで……! ああわかったよ! もう好きにしてくれ!」
現状を受け入れたジェットは好きにしろと両手を上げて降参のポーズを取った。
やらかしたジェットにはいい薬になるだろう。
だが、
「遊び気分もここまでだ。各種族をNo.2に任せ、私たちだけで王国に向かうぞ」
私の言葉に皆は真剣な表情で頷く。
王国では昔以上の激しい戦いが予想される。過去の英雄たちは私を残し皆死んでしまった。だが、今回は死なせたくない。仲間の死を見るのはもうたくさんなのだ。
私たち魔貴族四人は戦準備をNO.2に任せ王国に向かう。先行して向かったスフレと合流し、今度こそ完全にヨルムンガンドを封印するために。




