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【連載版】追放聖女は隣国の魔貴族に拾われる〜聖女の私がいなくなると王国が滅びるそうですがよろしいのですか?〜  作者: ギッシー


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49.過去編⑦

 魔族の精鋭戦士たちに任せた私たち魔貴族はヨルムンガンドとカステラと向かい合う。

 王都を魔族の大群に包囲され、全魔貴族を目の前にしているというのに、ヨルムンガンドとカステラは余裕のある笑みを浮かべていた


「奴らは我が眷族、並みの魔物とは違う。其方らが相手をしなくていいのか?」

「彼らは優秀な魔族の戦士だ。舐めてもらっては困る」


 雑魚の相手を任せた戦士たちは魔族領が誇る精鋭だ。ヨルムンガンドの眷族相手にも引けは取らなかった。

 眷族は傷付けると大地を汚染する毒を撒き散らすが、ヨルムンガンド本体と比べれば薄い毒だ。私たちが倒した黒竜や銀色狼のように強力なものではなかったよ。

 戦士たちは眷族と互角に戦い見事足止めしてくれた。任せられると判断したミルフィーユの勘は見事に当たっていたのだ。


「我が眷族と互角とは、良い戦士たちだ」

「褒めてる場合? 相手は魔貴族が勢ぞろいなのよ。本当に勝てるんでしょうね?」

「其方が強力してくれるなら負けはないが、どうする?」

「それは……」


 ヨルムンガンドは強力呼びかけるがカステラは戸惑っているようだった。

 確かにヨルムンガンドは魔族領で会った時より力を増している。だが、聖属性の魔力を付与された武器を持つ魔貴族全員で協力すれば倒せないほどではなかった。


「見たところ王国を滅ぼして大分力を付けたようだが、まだ私たちの方が上に見えるぞ」

「ほう。では、その身体で試してみよ!」


 こうして私たちの戦いが始まった。

 ミルフィーユはカステラと、私たちはヨルムンガンドと熾烈な戦いを繰り広げた。

 聖属性の加護を付与された武器のおかげで汚染こそされないが、王都を包んでいた黒い霧は吹き飛び、大地は裂け、周辺の建物は消し飛ぶほど激しい戦いだった。

 私たちは徐々にヨルムンガンドとカステラを追い詰めていった。


「くそっ! なぜ私が追い詰められているのよ! 邪龍の巫女になれば勝てるんじゃなかったのヨル!」

「こ奴らは思った以上に強い。もはや手段は選べぬな。カステラよ、契約を履行させてもらう」

「ちょっ、待って――」


 手段は選べぬと言ったヨルムンガンドは拒むカステラを無視し、その胴体を食いちぎった。


「ま……待ってって、言ったのにぃぃ……!!」


 ヨルムンガンドはカステラを強靭な顎で咀嚼していく。邪龍の巫女になっとはいえ、生命力の高い人魚族だったカステラは即死することもできず、自分が食べられる痛みに死ぬまで耐えるしかなかった。

 その痛みは、頭部を嚙み砕かれて死亡するまで続いただろう。


「なっ……カステラを食べた……!? なんで……?」

「危ないミルフィーユ!」


 カステラと戦っていたミルフィーユは目の前でカステラが捕食される姿を目撃し、硬直して動けずにいた。そこに、方向転換してヨルムンガンドが襲いかかったのだ。

 私は間一髪のところでミルフィーユを抱きしめてヨルムンガンドの攻撃を躱した。

 体勢を立て直して振り向くと、ヨルムンガンドの邪気がカステラを捕食したことによって跳ね上がり、身体も一回り大きくなっていた。


「しっかりしろミルフィーユ。ここからが正念場だぞ」

「ええ、ありがとうネージュ。助かったわ」


 ミルフィーユは何とか正気を取り戻したが、先ほどの恐怖に身体は震えていた。ヨルムンガンドの恐ろしさを見せつけられたのだから無理もないだろう。


「おいブールドネージュ。こいつぁ本物の化け物だぞ」

「ああ、わかっているさ大天狗。先ほどとは比べものにならぬくらい強くなっている」


 大天狗は私たちを心配して様子を見にきたようだ。

 奴が先ほど言っていたカステラの協力というのがこれなのだろう。自らを食べさせるのだから拒むはずである。

 協力してくれるなら負けはないと言うヨルムンガンドの言葉は、このパワーアップからくる自身だったのだ。


「だが、これで敵はヨルムンガンドだけだ。魔族大結界を使える。行けるかミルフィーユ」

「ええ、行けるわ。終わりにしましょう」


 カステラはいなくなり、眷族は魔族の戦士たちが抑えてくれている。

 魔族大結界はヨルムンガンドが私たちを上回る力を持っていた場合に備えてタンフールから授けられた秘策だったのだ。

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