48.過去編⑥
私たち魔族混成軍は、人族の難民から情報を得た王都が見渡せる小高い丘までやってきた。
ここから王都を確認し、突入の作戦を立てる予定だ。
「あれが王都かしら……? 禍々しい邪気を纏った黒い霧に包まれていて、ここからじゃ中の様子が見えないわね」
王都は中心に王城があり、その周りには城下町が円状に広がっていると難民たちから聞いていた。ミルフィーユが丘の上から様子を窺おうとするが、王都は黒い霧に包まれ中の様子を視認することはできなかった。
「大天狗、木の葉天狗ならば空から偵察できるか?」
「……無理だな。目のいい木の葉天狗でもあれだけ真っ黒じゃあお手上げだぜ」
「そうか、では大人数での突入は危険だな……」
天狗族の優秀な偵察役である木の葉天狗でも見えないほどに王都を隠す霧は濃かった。
どんな敵や罠が仕掛けられているかわからない以上、迂闊に攻め入るわけにはいかない。
「では今のうちにヨルムンガンド対策として武器に私の聖属性の魔力を付与するわ。魔貴族のみんなは武器を出して」
傷付けることで大地を汚染する毒を出すヨルムンガンド対策として、ミルフィーユの聖属性の魔力を武器に付与することがここまでの道中で決まっていた。
なぜ戦いの直前にしたかというと、ミルフィーユの付与は長時間与え続けることができなかったからだ。
つまり、未だに付与の続いているスフレの能力はミルフィーユを超えていることになる。
「ううぅ……」
「大丈夫かミルフィーユ!」
「ええ、大丈夫よネージュ。私はまだ倒れるわけにはいかないもの」
ミルフィーユは私たち魔貴族の武器に付与を施すとガックリと地面に膝をついた。武器への聖属性付与はかなりの魔力を消耗するようだ。ミルフィーユ意地で立ち上がるがかなり辛そうに見えた。
ミルフィーユは自分を含めた魔貴族五人の武器に付与を施すのが精一杯だったが、スフレはけろっとしていた。
人族として生まれ人魚族の血は薄くなっているはずなのだが、スフレの魔力はミルフィーユを超えているのだ。本当に凄い子だよ。
「できたわ。この武器ならヨルムンガンドを攻撃しても大丈夫よ。でも、付与の有効時間は短いわ。急ぎましょう」
聖属性の力を付与された武器を受け取った私たちは、ヨルムンガンドを逃がさぬよう王都を囲むように部隊を展開し、損害を減らすため魔貴族と一部の精鋭戦士だけを連れて潜入することにした。
ミルフィーユの予想ではヨルムンガンドの部下も毒を持つが本体と比べれば弱く、多少汚染されても回復することができるそうだった。
邪気を纏う黒い霧が立ち込める王都へ潜入すると、外観からは想像できないほど中の視界は鮮明だった。
中央広場に到着した私たちを待っていたのは配下の魔物が多数。その奥にはヨルムンガンドとカステラが待ち受けていた。
「待っていたわよミルフィーユ。今日こそ貴方と決着をつけるわ」
私たちを待ち構えていたカステラが勝ち誇ったように告げる。
「カステラ……私たちはこの世でたった二人生き残った人魚族でしょう? なぜそこまで私を嫌うの?」
「人魚族? もう人魚族のカステラはもういない。今の私は邪龍の巫女カステラよ!」
前回ぶつかった二人だが、ミルフィーユはまだカステラを諦めていないように見えた。
だが、カステラは自らを邪龍の巫女と名乗り、その身には人魚族の特徴である清廉な魔力はなく、邪龍の発する禍々しい邪気を纏っていた。
すでに人魚族ではなく、言葉通り邪龍の巫女になったということだろう。
「なぜ嫌うかって? 私は貴方のせいで人魚魔貴族なれなかった。私は私より優秀な奴が許せないのよ」
「そんな理由で……」
「もう話し合いで済む段階ではない。諦めろミルフィーユ」
あまりにも自分勝手な理由にミルフィーユは肩を落とす。
もう人魚族だったカステラはいない。ここにいるのは倒すべき敵だと言い聞かせるように私はミルフィーユに告げた。
「そう、私は欲望のために人魚族を皆殺しにした女。貴方は戦うしかないのよ!」
カステラはそう叫ぶと私たちに手を振りかざす。すると、周りにいた多数の魔物が私たちに襲いかかってきた。
ヨルムンガンドはそんなカステラを楽しそうに眺めていた。
「我ら魔貴族はヨルムンガンドを叩く。雑魚は任せるぞ!」
「はっ!」
私は各種族から選りすぐった戦闘力の高い戦士たちに雑魚の相手を任せ、魔貴族たちとヨルムンガンドに向かって駆けだした。




