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【連載版】追放聖女は隣国の魔貴族に拾われる〜聖女の私がいなくなると王国が滅びるそうですがよろしいのですか?〜  作者: ギッシー


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47.過去編⑤

 邪龍ヨルムンガンドが人族の国を滅ぼした。その報告を受けた後の私たちの行動は早かった。

 喧嘩はあったが一つに纏まった魔貴族たちは、各領地に戻りいくさの準備に取り掛かった。

 カステラはミルフィーユに強い恨みの感情を抱いていた。ヨルムンガンドは必ず魔族領にやってくる確信があったのだ。

 ヨルムンガンドと戦えば周囲は毒で汚染される。奴らが魔族領にやってくる前にこちらから打って出る必要があるため、私たちは戦の準備を急いだのだ。

 僅か数日で戦の準備を整えた私たちは、ヨルムンガンドが滅ぼした人族の国へ打って出ることになった。




 魔族領全種族を集めた我々混成軍が人族の国に入ると景色が一変した。

 緑豊かだった草木は枯れ、毒の沼地が広がる地獄のような場所へと変わっていたのだ。


「酷い……豊かな大地の広がっていた人族の国がこんなことになっているなんて……」

「あそこに集落がある。行ってみよう」


 優しい心を持つミルフィーユは人族の国の現状に心を痛めていた。

 癒しの力を操る人魚族は基本的に優しい種族だ。同族を裏切ったカステラは異端な存在と言えるだろう。

 人族の集落を見つけた私たちはそこに向かうことにした。

 集落に到着すると、そこには武装した兵士に怪我人や病人が大勢集まっていた。


「ひぃっ! ま、魔族……!?」

「悪魔の竜の次は魔族かよ……。俺たちの命運もここまでか……」


 私たち魔族を見た人族は皆一様に驚き嘆く。

 人族の集落だと思った場所は、ヨルムンガンドから逃げてきた人たちが生活している避難民の集まりだったのだ。

 我々魔族は人族との交流を断ち、深い森を隔てた魔族領で暮らしている。人族は自分たちより遥かに身体能力が高く見た目の違う魔族を恐れ、嫌悪しているからだ。

 そんな魔族が目の前に大勢現れたのだから無理もない反応だった。


「みんな酷い怪我だわ。待ってて」


 ミルフィーユは私たちにそう言って避難民に向かって行った。


「ひぃっ! くるな魔族!」


 人族は近づいていくミルフィーユに石を投げてきた。

 しかし、魔族と人族では身体能力も頑丈さも違う。人族の投石などミルフィーユには効かなかった。


「治療をしますから動かないで」

「ひぃっ! 止めろぉぉっ! ……あれ、痛みが引いていく」


 ミルフィーユが人魚族の回復術を施すと人族の男の傷が癒えていく。

 傷が癒えるとミルフィーユを見る人族の目が変わっていった。


「傷が治っちまった……。まさか、貴方は伝説の聖女様か?」

「聖女様? が、どういう人かはわかりませんが、怪我人を放ってはおけません」

「おお……貴方様こそ我々の聖女様です……!」


 次々と傷を癒すミルフィーユを人族たちは聖女様だと両手を組み祈りを捧げ出した。


「人族の聖女伝説か、人族の作り出した神話の存在じゃな」


 タンフールが納得したように呟いた。

 聖女伝説は私も知っている。癒しの力を持つ聖女が人々を救っていくという内容の人族が作り出したお伽噺だ。

 人族は苦しい時に自分で解決しようとはせず、助けを求める性質があると聞く。そのお伽噺の聖女とミルフィーユを重ね合わせたのだろう。


「聖女様、我らの傷を癒していただきありがとうございます。後ろの方々は魔族とお見受けしたしますが、何故人族の国へ?」

「我らは魔族領から邪龍ヨルムンガンド討伐にやってきた。奴がどこにいるか知っているか?」

「邪龍ヨルムンガンド? もしやあの悪魔の竜のことですか!?」


 人族の中から一番高価そうな鎧を着た男が前に出て誰何すいかする。私たち魔族に恐怖しているのか、その足は若干震えていた。

 質問に答えると信じられなかったのか、高価そうな鎧を着た男は驚愕に目を見開いた。


「あの竜を退治などできるわけが……いや、魔族ならばあるいは……! 聖女様、奴は我らの国の王都を乗っ取り占拠しております。どうか我ら人族をお救いください……!」


 高価そうな鎧を着た男はミルフィーユに深々と頭を下げた。

 身なりを見るに、おそらくは高い身分の男のはずだ。そんな男が実年齢はともかく、少女の見た目をしたミルフィーユに頭を下げている。それだけこの男も必死なのだろう。


「王都だな。ヨルムンガンドは我らにとっても倒さねばなるぬ敵だ。必ず倒すと約束しよう」

「任せてちょうだい。私たちは強いんだから」

「ありがとうございます聖女様!」


 人族たちは私には目もくれずミルフィーユに向かって頭を下げる。それにミルフィーユは慈愛に満ちた表情を浮かべて答えていた。

 私はその光景に少し違和感を覚えるが、決戦前で気が張っているせいだと思ったのだ。

 この違和感を解消していれば、あるいは変わった未来になっていたのかもしれん。

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