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【連載版】追放聖女は隣国の魔貴族に拾われる〜聖女の私がいなくなると王国が滅びるそうですがよろしいのですか?〜  作者: ギッシー


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46.過去編④

「何っ!? 人魚族がミルフィーユを残して全滅したじゃと……!! 邪気を操る小竜か、昔聞いたことがあるのう……」


 人魚族全員の遺体を回収して埋葬した後、私たちは魔族領の生き字引と言われるタンフールの家に相談に行った。

 事情を話すとタンフールは裂けるのではないかと心配になるほど大きく目を見開いて驚愕していた。無理もない。魔族領の一種族がトップを残して全滅してしまったのだから。

 そして、タンフールはヨルについて心当たりがあるようだった。


「カステラと一緒にいた邪気を操る小竜、それは龍かもしれん」

「龍? ヨルの見た目は小竜でしたが竜ではなく龍ですか?」

「ああ、おそらく毒を司る龍。邪龍ヨルムンガンドじゃろう」


 タンフール曰く、ヨルは小竜の見た目をしているが竜ではなく龍であり、本当の名前は邪龍ヨルムンガンドであるとのことだ。

 龍とは竜の上位存在であり、神に近しいと噂される伝説上の生物とされる存在である。

 私とヨルムンガンドとの因縁はここから始まっていたわけだ。


「伝説の邪龍ヨルムンガンドが現れ害をなすならば、我ら魔族同士が争っている場合ではない」

「ではもう一度魔貴族に招集を?」

「邪龍に対抗するには、我らが手を取り合う他ないじゃろうな」


 私の問いにタンフールは難しい表情をしながら答えた。

 無理もない。前回の会議でわかるように、当時の魔族領は天狗族と竜族が戦争中で、とてもまともな話し合いができる情勢ではなかったのだから。

 だが、今は私たち魔族が争っている時ではないのだ。魔族領全体が一枚岩となり、打倒ヨルムンガンドに向かわねばならぬ時だった。

 すぐに伝令を出し、翌日には再度魔貴族が集まることとなった。




「この間呼び出したばっかだってのに何だってんだ! くだらねえ用だったらただじゃ置かねえぞ!」

「まったく騒々しい天狗だ。お前の声を聞いていると頭が痛くなる。少し静かにしてくれるか?」

「何だとこのトカゲ野郎!」


 ぞろぞろと兵隊を引き連れてやってきた大天狗と竜王は顔を合わせた途端に喧嘩を始めた。


「止めなって旦那たち。タンフール爺が今日は大事な会議があるって言ってただろ」

「ちっ、しょうがねえ」

「河伯が言うなら引こう」


 喧嘩を始めた二人を河童魔貴族河伯が仲裁した。

 河童族はコミュニケーション能力の高い種族だからか、大天狗も竜王もなぜか河伯の言葉は素直に聞き入れるのだ。誰とでも仲良くなれるところはチマキと似ているな。


 二人が落ち着いたところでタンフールはカステラの裏切り、邪龍ヨルムンガンドについて説明する。

 事の重大さに皆真剣に耳を傾けているが、大天狗と竜王は眉間に皴を寄せ渋い顔をしていた。


「二人とも納得いかんようじゃのう?」

「ああ、理由はわかった。手を組まなきゃいけねえのも頭では理解してる。……だがな、俺らは理屈じゃ動かねえ」

「まさか天狗と同じ意見とはな」


 人魚族が全滅した話を聞いても大天狗と竜王は強力する気はなかった。


「今は魔貴族が争っている場合ではない。このまま放っておけば、人族の国を滅ぼしたヨルムンガンドはさらに力を付けて我らを攻めてくるんだぞ」

「何だ? 魔貴族になったばかりのヒヨッコが俺らに意見か? 鬼族の天才だか何だか知らねえが、魔貴族のルールは知ってるよな?」

「魔貴族は強い者に従うだろう? 承知した。表に出ろ大天狗」


 同じ魔族としてこんな時に意地を張って協力できない二人に激しい怒りが沸いた私は大天狗と衝突し、お互いの意見をかけて戦うことになった。

 私は好きではないが、魔族は強い者が尊重されるからな。

 私たちはタンフールの屋敷から被害が出ない所まで移動して戦うこととなった。


「行くぞブールドネージュ!」


 戦える場所に移動して向かい合うと大天狗は間髪を入れずに地を蹴る。大きな黒い翼を羽ばたくことで加速し、地を這うような低空飛行で巨大な分銅鎖を振り回し、真正面から突撃してきた。

 大天狗はアタゴと同じように直情的な男だ。先輩魔貴族として小細工などせぬと言う気持ちが伝わってきたよ。

 しかし、大天狗は気持ちを表に出し過ぎた。戦いとは相手の思考を読み裏をかくものなのだ。


「――なっ!?」


 分銅鎖を躱し、空振りでバランスを崩した大天狗を足払いで転ばせる。

 そして、起き上がろうと振り向いた大天狗の眼前に鬼族の宝刀を突き付けた。


「ちっ……俺の負けだ……」


 宝刀を突き付けられた大天狗は悔しそうに顔を歪ませ負けを認めた。一種族の長が素直に負けを認めるのは簡単なことではない。これができる大天狗という男を私は好きだったよ。

 この時点での私と大天狗の実力に差はほとんどなかったと思う。

 だが、私は大天狗の戦いを幼い頃から見ていた。逆に大天狗は私がどんな技を使うか知らなかっただろう。これは戦闘において大きなアドバンテージなる。

 勝敗を分けたのは情報の差だ。現在の天狗族が各地に木の葉天狗を送り、情報を大切にしているのはこの戦いが原因だったのかもしれないな。


「見事だブールドネージュ。俺ではお前には勝てないと今の戦いを見て確信したよ。大天狗が認めるのであれば俺も認めるしかないな。俺たちはお前に従おう」


 大天狗に続いて竜王も私に従うことを約束してくれた。

 こうして、激しい戦いの末に勝利した私は大天狗と竜王に認められたのだ。

 当時の大天狗は確かに強かった。だが、現天狗魔貴族のアタゴはすでに大天狗と同等の強さを持っているぞ。今の魔貴族たちも、決して過去の英雄たちに劣っているわけではないのだ。


「まったく、ネージュは無茶をするわ。でもさすがね。これで貴方が魔族領最強になったんじゃない?」

「戦いは水物だ。勝負とは必ずしも強い者が勝つとは限らない。今日は私が大天狗を知っていたから完勝できたが、大天狗が私の研究対策したらわからんさ」

「やっぱり真面目ねえ。でも、それはネージュの美徳だと思うわ」


 ミルフィーユは溜息を吐いた後に真面目な顔で称賛してきた。

 私は当時の偽らざる気持ちを答えた。真面目と言われようと、この生き方を変えるつもりも気持ちもない。この私の性格を肯定してくれるミルフィーユの存在はありがたかった。

 戦いが終わると、上空から木の葉天狗が慌てた様子で下りてきて私たちの前に片膝をついた。


「大天狗様、タンフール様! 只今偵察に出ていた木の葉天狗から人族の国が落ちたと報告が入りました!」

「何だと!」


 ヨルムンガンドとカステラが人族の国へ行ってまだ数日しか経っていない。だが、短期間のうちに人族の国を滅ぼしてしまった。

 私たちは神に近しいとされる伝説の邪龍の力を見せつけられたのだ。

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