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【連載版】追放聖女は隣国の魔貴族に拾われる〜聖女の私がいなくなると王国が滅びるそうですがよろしいのですか?〜  作者: ギッシー


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45.過去編③

「ごめんなさい。私の力では痛みを和らげることしかできないわ……」

「……いえ、ありがとうございますミルフィーユ様。助かります」


 成果を得られなかった会議から数日、私とミルフィーユは人魚族の里を回り状況把握に努めた。

 倒れていない人魚族はミルフィーユとカステラの二人だけとなり、ほぼ全ての人魚族は床に伏してしまっていたのだ。

 私たちは周り苦しむ人魚族の家を周り、病状を和らげることしかできずにいた。


「クソッ、状況は悪化する一方か」

「ごめんなさい。私の力で癒せれば良かったんだけど、この病には効かなくて……」

「人魚魔貴族である君でも癒せない病か……一体何が原因なんだ」


 人魚魔貴族は人魚族の中で最も癒しの力が強い者から選ばれる。つまりミルフィーユは人魚族最強の回復術の使い手なのだ。

 そのミルフィーユが癒せないのであれば、魔族領でこの病を癒せる者はいないということになる。魔族領の癒しを司る者として、彼女はその事実に責任を感じ、深く心を痛めていた。


「あ~ら、誰かと思えば人魚魔貴族のくせに病人も癒せないミルフィーユじゃない。そんな体たらくで良く人魚魔貴族が名乗れるわね」


 私たちの前に現れたのはミルフィーユと人魚魔貴族の座を争ったカステラだった。彼女は尊大な態度でミルフィーユを見下していた。

 そして、その横には牢に捕らえていたはずの小竜の姿があった。

 だが、小竜は捕まえた数日前と比べると二倍は大きく成長していた。

 そして、神々しかったオーラは禍々しい邪気へと変貌していたのだ。


「カステラ貴方、その小竜はどうしたのよ? 牢にいたはずでしょ。それにその大きさは……?」

「ふふんっ」


 ミルフィーユの問いにカステラは得意気に胸を張る。


「この小竜はヨル。ヨルを牢に閉じ込めておくなんて馬鹿げているから私が出してあげたのよ。大きくなったでしょう? 私のサポートでこんなに成長したのよ」

「カステラ、貴方はこの小竜の邪気を感じないの? この小竜を見て確信したわ。人魚族のはやり病は小竜の放つ邪気が原因だったのよ」


 自分の手柄と言わんばかりに小竜を紹介するカステラにミルフィーユが言葉を投げかける。

 だが、カステラの反応は薄かった。


「ふ~ん、そうなのヨル?」

「その通りだ。我は人魚族の力を吸収して成長した。病気ではなく力を吸収したのだから、癒しの力で治らぬのも当然の事だ」

「人語を話す竜……やはり危険な竜だったか」


 ヨルと呼ばれた小竜は当然だと言わんばかりに答えた。

 竜は生まれながらにして強大な力を持つが、中でも人語を話す竜はより高位の存在となる。

 それに対してカステラは特に興味もなさそうに「へ~そうなの」と相槌を打つ。


「同じ人魚族の仲間が酷い目に合わされているのに、どうして平然としていられるの?」

「仲間? 貴方ばかりを尊重するあいつらが? 貴方が魔貴族に選ばれてから私がどれだけ辛い思いをしてきたかわかる? 奴らは貴方にバレないように私を散々虐めてきたのよ」

「虐め……? 信じたくはないけど、もしそんな扱いを受けていたなら私に言ってくれれば」

「貴方に負けて魔貴族になれなかった私がそんなこと言えるわけないじゃない!」


 自分に言ってくれればと話すミルフィーユにカステラは大声で反論した。

 辛い思いをしても他人に言わないのはカステラの矜持なのだろう。

 ましてやミルフィーユは魔貴族の座を争ったライバルだ。プライドの高いカステラは他人に弱みなど見せないだろう。


「ヨルは復讐の手助けをしてくれるって言うんだもの。私はその話に飛びついたわ。本当は貴方の力も奪いたかったのだけれど、平然としているなんてさすが人魚魔貴族ね」

「復讐……? そんなことのために人魚族全員を酷い目に合わせたというの? 人魚魔貴族として許すわけにはいかないわ」


 ヨルの話に乗り人魚族に復讐したカステラにミルフィーユは怒りを顕わにし、腰に差した短剣を抜き、鋭い眼光で見据えた。

 ミルフィーユの戦闘力魔族全体で見れば決して高くない。だが、人魚魔貴族としてカステラの暴挙を見過ごすことはできなかったのだろう。


「引くぞカステラ。今はまだ魔族全体を敵に回してはこちらが不利だ。まずは人族の国を襲い力を蓄える」

「ちっ、ならせめて生き残った人魚族を吸収しなさい。奴らはまだ生きているわよ」

「まったく、わがままなお嬢様だ」


 ヨルはカステラの言葉に呆れた様子で従い、周囲に放っていた邪気を吸収し始めた。


「くっ、なんという邪気だ……! だが、やらせはせんぞ!」


 私はヨルが邪気を吸収しきる前に制圧しようと駆け出した。


「もう邪気の吸収は終わったぞ。さらばだ鬼魔貴族に人魚魔貴族よ。次に会った時は貴様らの命をいただくとしよう。『ゲート』」


 ヨルは私が近寄る前にゲートの魔法でカステラを連れて逃げ出してしまったのだ。

 今の私ならば逃げられる前にヨルを捕らえることができただろうが、当時の鬼魔貴族になったばかりの私にその力がなかったのが歯がゆいな。


 ヨルとカステラが消えた人魚族の里に残った生命反応は私とミルフィーユだけだった。里を調べると床に伏していた人魚たちは全員白骨になって見つかった。


 こうして、私たちはカステラの復讐を止めることができなかったのだ。

 鋭い勘を持つ人魚魔貴族といえども、カステラの裏切りまでは見えなかったのだろう。

 だが、私たちがヨルを捕らえてこなければ、奴はひっそりと魔族領の魔物を捕食して力を付け、私たち魔族を滅ぼしていたかもしれない。

 あの時奴を捕らえた私たちの判断は、今でも間違っていなかったと思っている。

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