40.私の想い
私も色々とありすぎて疲れていたため、お言葉に甘えてブールドネージュ様のお屋敷に泊まらせてもらうことにした。
シャルロットが「でしたら私の部屋にどうぞ」と言ってくれたので、シャルロットの部屋にお邪魔させてもらうことになった。
シャルロットの部屋はパステルピンクを基調とした可愛らしい少女趣味の部屋だった。
大きな天蓋付きのベッドに大小様々なぬいぐるみなど、シャルロットのイメージ通り可愛い部屋だな。
「何をジロジロ人の部屋を見ていますの。どうせ変わってるとか思っているのでしょう?」
「そんなことないわ。とっても可愛くて素敵な部屋じゃない」
「そ……そうですか、そんなことを言われたのは初めてですわ……」
物珍し気に部屋を見渡す私を訝しい表情で見ていたシャルロットだったが、部屋を褒めると嬉しそうに笑顔を見せた。
こんなに可愛いのに他の人には不評だったのかな?
「初めて褒められたの? ブールドネージュ様やオランジェット様は褒めてくれそうだけど」
「家族は別ですわ。以前友達を招待した時に変な部屋だとバカにされましたの。それで喧嘩になって、その友達とは疎遠になりましたし、それ以来他人を部屋に入れることはありませんでしたわ」
「そうだったの……。私は好きよ。可愛いシャルロットのイメージ通りだわ」
「ありがとうございます……。そんな風に言ってくれた方は貴方が初めてですわ」
シャルロットは私の言葉に顔をほころばせる。
今まで鬼魔貴族の義妹として気丈に振る舞っていたのだろう。オランジェット様を問い詰めた時の凛としたシャルロットも好きだけど、こんなに可愛い一面もあるのを私は知っている。
このギャップもシャルロットの魅力なのだ。
「オランジェット様との婚約のこと、みんなの前ではさっきそんな関係になったとか言ってたけど、本当はどうなのよ。前から好きだったんじゃないの?」
「まあ、私の剣の師でもありますし好きではいましたよ。ただ、恋愛対象ではなかったですわ」
シャルロットは私の質問に淡々と答えるとニヤリと笑い「貴方の方はどうなのですか?」と続けた。
「えっ、私っ!?」
「兄様が好きなのでしょう? 私は貴方なら……スフレになら、兄様を任せても良いと思っていますのよ」
「シャルロット……」
貴方、私をそこまで買ってくれていたのね。
初めて出会った時は差し出した手を叩き落とされた。でもあの頃とは違い、シャルロットはこんなにも私を信頼してくれるようになっていた。
その事実がとても嬉しく、私の心を震わせる。気付けば自然と瞳から暖かい水が頬を流れた。
「ちょっと、何で泣くのですか?」
「泣いているんじゃないわ。これは、貴方がそこまで私を認めてくれている嬉しさが零れているのよ」
「はぁ、何を言っているのやら……」
シャルロットは呆れたように溜息を吐くが、その顔には笑顔がこぼれていた。
しばらく二人で笑い合っていると、シャルロットは表情を真剣なものに変えて話し出す。
「ところでスフレ、貴方本当は今すぐにでも王国に行きたいのではなくて? 兄様の話しを聞く貴方は納得のいかない顔をしていましたわ」
「本当によく見ているのね。ブールドネージュ様の話も頭では理解しているの。でも、王国でお世話になった人たちが無残に殺されていくのに私には耐えられないのよ。……ねぇ、シャルロット。私はどうしたらいいのかしら……?」
私はシャルロットに秘めた心内を打ち明けた。
一人で王国に向かえば、大好きで大恩あるブールドネージュ様や魔族領の人達に迷惑をかけることになる。だが、準備を待っていたら王国は滅亡してしまうという板挟みに決断を迷っていた私は、シャルロットの意見を聞きたかったのだ。
シャルロットは目を閉じてしばらく考え込むと口を開いた。
「貴方の思うように行動しなさい。私はそれを応援しますわ」
「ええ、わかったわ。ありがとうシャルロット!」
シャルロットに悩みを打ち明け、意見を聞けたことで心のもやもやが引き飛んだ気分だ。
真面目な話をする時のシャルロットは本当に頼りになる。私の信頼できる女友達だ。
お互いの意見を話し合った私たちは床に就く。
寝息が聞こえてきた頃、一緒のベッドに眠るシャルロットを起こさぬよう静かにベッドを出た私は手紙を書く。
そして、書き終えた手紙をテーブルに置き、部屋の入口まで行くとシャルロットに一礼する。眠るシャルロットには気付いてもらえないだろうが、せめてもの感謝の気持ちを表したかったのだ。
顔を上げた私が見たのは寝ころんだまま手を振るシャルロットの姿だった。
「黙って行かせてくれてありがとう。必ず帰ってくるわ」
そう小声で言い残し、私はブールドネージュ様の屋敷を後にした。
聖女として王国を救うために。




