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【連載版】追放聖女は隣国の魔貴族に拾われる〜聖女の私がいなくなると王国が滅びるそうですがよろしいのですか?〜  作者: ギッシー


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39.王国からの使者

「なるほど、まさか二人が婚約するとはな。いつからそんな関係になっていたのだ?」

「いつからと問われればさっきですわね。ジェットのあまりにも情けない姿に母性本能がくすぐられたのかもしれません」

「シャルちゃん、それは止めてくれよ……」


 焦点を当てられ視線が集まると、オランジェット様は勘弁してくれと言わんばかりに頭を掻き毟った。

 まあ、自業自得だからしょうがない。私にあんな事をしたんだからしっかりと反省してもらおう。

 羞恥に顔を歪めるオランジェット様を微笑ましく眺めていると、ブールドネージュ様が突然険しい表情になった。


「ん? どうしたネージュ?」

「ああ、結界に反応がある。誰かが侵入したようだ。少し様子を見てくる」

「俺もついて行こうか?」

「いや、反応は微弱だ。皆はここで待っていてくれ」


 オランジェット様が問うと、どうやら魔族領の結界に反応あったようだ。

 気まずさに耐えきれなかったのか一緒に行くと提案するが、ブールドネージュ様はみんなに待っているよう話すと様子を見に出かけて行った。






 しばらく待つと、ブールドネージュ様は一人の王国兵士と一緒に帰ってきた。王国兵は怪我をしているらしく、ブールドネージュ様に肩を借りている。

 あの兵士さん、どこかで見たことがあるような気がするな……そうだ! 私を魔族領の入口まで連れてきてくれた兵士さんだ!


「聖女スフレ、やっと会えた……! 実は今王国がっゴホッガハッ……!」

「すまないスフレ、この男は魔物に襲われ怪我が深い。治療してくれるか?」

「は、はい!」


 私を見つけた兵士さんは安心したように微笑むが、すぐに苦しそうに咳き込んだ。

 ブールドネージュ様に頼まれ傷を見るが、魔物に襲われた兵士さんの怪我は思いの外深く、骨や内臓まで負傷している。

 ここに私がいて良かった。私でなければこの人は助からなかったわ。


 私はアタゴを救った時と同じように傷口をポーションで綺麗に洗い流してから聖女の妙薬を塗り、傷口に両手を翳して聖属性の魔力を流し込む。

 すると、暖かい光の粒子が傷を包み込み、傷ついた骨と内臓が再生を始め、傷跡も残さず綺麗に回復した。

 すると、傷の癒えた兵士は苦しみで歪んだ顔から安らいだ表情に変わっていった。


「凄い……さすが本物の聖女様だ。ありがとうございます!」

「当然のことをしたまでです。気にしないでください。それよりも、なぜ王国兵の貴方が魔族領に? 王国で何かあったのですか?」

「はい、その事なのですが――」


 落ち着きを取り戻した兵士さんは魔族領にやってきた理由を話し始めた。

 何でも王国ではやり病が蔓延し、その原因が邪龍ヨルムンガンドの復活による影響だった。

 そして、はやり病の治療に当たっていたショコラは王国を裏切り、邪龍の巫女としてヨルムンガンド陣営に加わり、王国を滅ぼさんとしている。

 国王の話ではヨルムンガンドの脅威を退けるには、過去に邪龍を封印した本物の聖女の力が必要である。

 王都を制圧された国王たちは近隣貴族の協力を得て王国軍を再編中で私に力を貸してほしいとのことだ。

 ブールドネージュ様曰く、魔族領の結界は魔族に敵意がある者は抜けられない。敵意がなくても普通は抜けられないのだが、魔族領に行きたい強い意志があれば結界を越える事があるそうだ。

 つまり、兵士さんは命がけで窮地を伝えにやってきた王国からの使者だったのだ。


「聖女様、どうか……どうか王国をお救いください!!」


 兵士さんはすぐにでも戻ってきてほしいと訴えるが、ブールドネージュ様は眉間に皴を寄せ難しい顔をしている。

 私の故郷の一大事だ。すぐ助けに行きたいんだけど何か問題があるの?


「すまないが、今すぐに向かうことはできない」

「なっ、なぜですかブールドネージュ様! 王国は私の故郷です。お世話になった人も沢山います。すぐにでも救援に向かいましょう!」

「……すまないスフレ。魔族領は戦の準備が整っていない。今はまだ出陣するわけにはいかないのだ。わかってくれ」

「そんな……!」


 ブールドネージュ様は申し訳なさそうに、だけど、意思のある声音で告げた。

 私の心は王国とブールドネージュ様への想いで揺れ動く。初めは感謝や尊敬の気持ちが強かったが、今はハッキリと自覚している。私はブールドネージュ様が好きだ。

 だが、王国の聖女として民を守る使命も強く感じている。これは私の聖女の血が原因なのか、心の奥底から湧き上がってくる抗えない気持ちだ。

 でも、ブールドネージュ様の主張も理解できる。準備が整わないまま王国に向かえば魔族領の被害は増えるし、それどころか下手をすればヨルムンガンドに負けてしまうかもしれない。


「私も魔貴族として兵を危険にさらすことはできんのだ。準備ができ次第王国には必ず向かう。それまで待ってくれ」


 ブールドネージュ様は続けて「色々あって疲れただろう。今日はここに泊まっていくと良い」と話を打ち切った。

 客間は多数用意されているため、王国の兵士さんは開戦までブールドネージュ様のお屋敷でお世話になることになった。

 兵士さんは始めは数人で魔族領を目指していたんだけど、たどり着けたのは自分一人だけだったそうだ。魔族領に繋がる森で魔物に襲われ、皆死んでしまったそうだ。

 今すぐではなくても魔族領から救援がきてくれる事に満足していると、心の内を話してくれた。命をかけて魔族領にやってきたことが報われた喜びが大きいのだろう。

 もっとも、私は今すぐ救援に向かえないことに納得できていないのだが……。


 こうして、天狗族との協力関係から始まり、シャルロットとオランジェット様の婚約、王国からやってきた使者と、今日は波乱の一日となった。

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