32.アタゴを救え
ブールドネージュ様とアタゴの連携プレイによって銀色狼を倒すことはできたが、アタゴは戦いで重傷を負ってしまった。
アタゴの容態を見ると元々赤みがかっていた顔色は青白くなり、明らかに血を流しすぎている。
「どうだスフレ、治せるか?」
「これは……」
銀色狼の一撃を腹に受けたアタゴの傷口は深く、内臓まで達していた。
酷い傷……こんな状態であんな激しい動きをしていたの? 天狗族の誇り高さには本当に頭が下がる思いだ。
だが、その代償は大きい。肋骨はもちろん内臓までズタズタになっている。普通なら助からないだろう。
でも、ここには私がいる。聖女である私がいる限り、この誇り高き天狗族の戦士を死なせはしない!
私は治療道具が入ったポーチから小瓶を取り出す。
「そいつは河童の妙薬かい? 持ってきてたんだな。でも、ちょっと色が違うか……?」
「ええ、これは貴方からもらった河童の妙薬を改良した薬。名付けて聖女の妙薬よ」
「河童の妙薬を改良した聖女の妙薬……!? 凄ぇ、さすが聖女さんだぜ!」
そう、この薬は私が河童の妙薬を原料にして作り出した特別製だ。
ブールドネージュ様とアタゴが連携プレイで銀色狼を倒したように、河童の薬と聖女の知識の合わせ技でアタゴを救ってみせるわ!
私はアタゴの傷口をポーションで綺麗に洗い流してから聖女の妙薬を塗り、傷口に両手を翳して聖属性の魔力を流し込む。
すると、暖かい光の粒子が傷を包み込み、腹の傷が再生を始める。
ズタズタにされた内臓は新たな息吹を上げて生まれ変わり、辛うじて繋がっていた胴体は傷口も残さず塞がる。
そして、青白かった顔に赤みがさしていき、アタゴはゆっくりと目を開いた。
「……うぅぅ、んっ! 俺は、生きてるのか? ……そうか、スフレの嬢ちゃん、あんたが助けてくれたのか」
「無事で良かったわアタゴ。貴方の誇りある戦いには心打たれたわ。私はそんな貴方を死なせたくなかっただけよ。気にしないで」
「スフレの嬢ちゃん……天狗の矜持を理解してくれるのか? あんたが女神に見えるぜ。どうだ? 俺の嫁にならないか?」
「ん? それって、ええぇぇえええっ!?」
アタゴは目を覚ますと私の手を取りプロポーズしてきた。
いきなり何を言い出すんだこの天狗は? 一度死にかけて頭がおかしくなったのか?
「待てアタゴ! それはならんぞ!」
「おいおいっ! ちょっと待ちなよアタゴの旦那。聖女さんが困ってるだろ!」
アタゴの乱心にブールドネージュ様とチマキが割って入る。
ふう、今日会ったばかりの男性にプロポーズされるとは思わなかったよ。私に好意を持ってくれるのは嬉しいけど、さすがに急すぎるって。
二人の必死の説得でアタゴは徐々に落ち着きを取り戻した。
「すまねえスフレの嬢ちゃん、ちょっと急すぎたな。一旦忘れてくれ」
「アタゴの旦那ちょっとこっちにきな」
アタゴはそう言い残すとブールドネージュ様とチマキに連れられて少し離れた場所に移動した。
男同士で秘密の話があるみたい。
「まったく気をつけろよ。今日からアタゴの旦那もスフレスキーの仲間なんだから規約は守ってくれよな」
「はっ? 何だよスフレスキーってのは?」
「スフレスキーってのはおいらと鬼魔貴族様で作ったスフレ好きの会さ。アタゴの旦那で三人目だぜ。規約は抜け駆け禁止、最後は本人に選んでもらうからな」
「なるほどわかったぜ。恋愛でも勝負ってことだなブールドネージュ」
「ああ、そういうことだ」
「おいらもいるからな! 忘れんなよ!」
何やら男同士でこそこそ集まって会議してるみたいだ。小声だからこちらまでは何を話しているのかわからないが、なぜかしょうもない事を相談している気がする。
やがて話が纏まったのか、三人はこちらに戻ってきた。
「決めたぜ。俺たち天狗族はお前らに協力してやる。魔族大結界でも何でも手伝ってやるぜ」
「ありがとうアタゴ! 助かるわ!」
「へっ、他ならぬスフレの嬢ちゃんの頼みだからな、聞かんわけにはいかねえぜ」
アタゴはそう言うと照れくさそうに頭を搔いた。いかつい見た目のアタゴが照れると何だか可愛く思えてしまう。
初めはどうなることかと思ったけど、上手く話が纏まって良かったよ。




