28.聖なる武器
クラマの山で暴れる銀色狼を倒すため、武器に聖属性の魔力を付与することになった。
やり方は何となくわかる。聖女は物心がついた頃、頭の中に魔力の使い方が流れてくる。これにより誰に教わることもなく、聖属性の魔力を扱うことができるのだ。
「それでは皆様、武器をこちらに」
「ああ、じゃあまずは俺から頼むぜ嬢ちゃん」
武器を出すように促すと、まずはアタゴが名乗りを上げる。
アタゴが手を突き出し開くと、ジャラッと金属が擦れる音を立てる。それは大きく長いチェーンの先に分銅が吊るされた物だった。
これがアタゴの武器? 随分と変わった武器ね。
「不思議そうな面してやがるな。無理もねえか、こいつは分銅鎖つう珍しい武器だ。小さい物は暗器(隠し武器)としても使われるが、俺のは特別でかい特注品だぜ」
私が不可思議な顔をしているとアタゴが武器について饒舌に語り出した。
さてはこいつ、自分の好きな分野だと話したがりになるタイプだな。まぁ気持ちはわかるよ。人間そういうものだ。
あっ、アタゴは魔族だったわ。
「おい嬢ちゃん聞いてんのかよ! まだ話は終わってねえぞ!」
「あぁはいはい、わかったわよ。じゃあ武器を地面に置いてくれる?」
「おいおい、この嬢ちゃんいきなり遠慮がなくなったぜ。ま、その方がやりやすいからいいけどよ。はっはっはっ!」
やばっ! つい素が出てしまったと思ったが、アタゴは面白そうに笑い出した。
あれ? アタゴって案外悪い奴じゃないのかもしれない。チマキとも仲良さげだったし、ただ単にブールドネージュ様が嫌われてるだけなのかな?
あんなにいい人を嫌う理由が以前戦いに負けたからってのがちょっとダサいけど、付き合ってみれば仲良くなれそうなタイプだわ。
「地面に置いたぜ。これでいいか?」
「ええ、じゃあ始めるわよ」
地面に置かれた分銅鎖に聖属性の魔力を通していく。すると、黒い金属だった分銅鎖が銀色に輝く金属へと変わっていった。
分銅鎖からは聖なる魔力を感じる。成功だわ。
「おおっ! 俺の分銅鎖が洒落た色になりやがったぜ!」
「ねえアタゴ。その分銅鎖に名前はあるの?」
「いや、特に決めてねえがせっかくだ。スフレの嬢ちゃん、あんたが付けてもらえるか?」
私はアタゴの提案を聞きニヤリと笑みを浮かべる。
新しい武器の名付けなんて面白そうじゃないか。
「それじゃあ新しい武器の誕生ってことで名前を付けてあげるわ。そうねぇ……聖分銅鎖なんてどうかしら?」
「うおおぉぉおおおっ! 凄えかっこいいじゃねえかよ! ありがとよスフレの嬢ちゃん!」
「えへへ、どういたしまして」
アタゴは私の名付けに大仰に喜んでいる。
気に入ってもらえたみたいで良かった。私的にも自信のある名前だったから真っすぐな反応が素直に嬉しいわ。
聖なる力を付与した聖分銅鎖を満面の笑みで弄っているアタゴを微笑ましく見ていると、突然大きな音が鳴る。それは防壁の大扉が破壊された音だった。
大穴の開いた大扉からは小型の狼が数十匹、大きな銀色の狼が一匹現れた。
「何だってんだ! 見張りの木の葉天狗は何してやがる!」
「すみませんアタゴさん! 鬼魔貴族を注視してまして、それに奴ら獣道を走ってきやがって発見が遅れました!」
アタゴが怒声を飛ばすと見張りの木の葉天狗が謝罪する。
それはごめん、私たちのせいでもあるね。
「ちっ、ならしょうがねえ! 小型はお前らに任せる! 大型は俺に任せろ!」
「よっしゃあっ! 狼どもが、烏天狗を舐めるなよ!」
自らを鼓舞する雄たけびを上げて烏天狗たちが小型狼に向かって行く。
「ブールドネージュ! ここは俺ら天狗の里、自分の領地は自分で守る! お前らは黙ってそこで見物でもしてな!」
アタゴはそう宣言すると大きな銀色狼に向かって行く。
「どうしますかブールドネージュ様? 私たちも手伝った方が……」
「いや、アタゴという男は誇りを優先する男だ。ここは手を出さん方がいいだろう」
「おいらもそう思うぜ。ああなったアタゴの旦那は頑固だからな」
ブールドネージュ様もチマキも同じ意見のようだ。
それは誇り高き天狗族の矜持なのだろう。他種族の手など借りず、自分たちだけで里を守るつもりのようだ。
「それに、もしピンチになればその時に助ければいい。アタゴといえども里を救ってくれた恩人の頼みなら聞く耳を持つだろう」
ブールドネージュ様は口端を吊り上げてニヤリと笑う。
自分の領地を持つ魔貴族だけあって、ブールドネージュ様も策を弄するんだな。
でも、この人なら危ない時はしっかり助けてくれるって信頼できる。私を助けてくれた実績もあるしね。
そう確信する私はアタゴたち天狗の戦いを見守ることにした。




