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【連載版】追放聖女は隣国の魔貴族に拾われる〜聖女の私がいなくなると王国が滅びるそうですがよろしいのですか?〜  作者: ギッシー


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23.イバラキの沢解放記念河童の里スモウ大会②

 やってまいりましたイバラキの沢奪還記念スモウ大会。私とオランジェット様はなぜか解説席へ招待された。

 イバラキの沢を奪還した英雄である私とオランジェット様に特別ゲストとして解説をしてほしいそうだ。ブールドネージュ様とシャルロットには別のお願いをしているらしい。


「さあいよいよ始まりますイバラキの沢奪還記念スモウ大会! 解説にはイバラキの沢奪還の英雄である竜魔貴族オランジェット様と、聖女スフレ様をお呼びしております!」


 解説河童の私たちの紹介が終わると選手入場が始まり、その選手の中には意外な人物が混じっていた。


「えっ! ブールドネージュ様……! それにシャルロットまで! まさかあの二人も大会に出場するの?」

「あれ? 聖女様は知らなかったんですか?」

「スフレちゃんには秘密にしてたのさ。その方がリアクションを楽しめるだろ」


 オランジェット様はヘヘッといたずらっぽく笑って見せた。

 良かった。いつものオランジェット様だ。あの時見せた冷たい視線は感じられない。あれは私の勘違いだったのかな?


 しかし……みんな上半身裸で腰に布を巻いているだけの半裸だ……!?

 鍛え抜かれた河童たちの肉体も凄いが、それ以上にブールドネージュ様のビルドアップされた筋肉が凄い。ムッキムキの筋肉の鎧を纏い、その身体には良く見なければわからないほどに薄っすらと、何かの模様が刻まれていた。

 いつも着ている服の下にあんな肉体美を隠していたのね……!? でも、ブールドネージュ様の身体の模様は何なのかしら? 何かのおまじないかな?


 ちなみにシャルロットをはじめとした女性選手は上着を着ている。健全な力試しの大会らしいからね。


「それにしても、みんなが腰に巻いてる布は何ですか? 一体何の意味が?」

「あれはマワシってぇ衣装だ。相撲はマワシを利用した技が多いし、腹を締める事で身体を守る効果もある。それにスモウは河童族の神事だからな。神具みたいなものさ」


 オランジェット様がマワシについて説明してくれた。

 スモウは神事か、なるほどね。それなら私も聖女として王国で何度もやったことがあるからわかる。


 そう思っていた時代が私にもありました。

 聖女がおこなう神事をイメージしてたんだけど、スモウは河童たちの血と汗が飛び交う激しい格闘技だった。河童族は基本的に可愛い見た目をしてるから、そのギャップがスモウ大会の魅力の一つだそうだ。河童族の間ではギャップ萌えって言うんだって。その気持ち、私もちょっとわかるかも。


 ブールドネージュ様、シャルロット、チマキの三人は順調に勝ち進み、遂に私の友達同士の対戦となった。準決勝戦はスモウ大会チャンピオンのチマキとシャルロットの対戦だ。

 因みにブールドネージュ様はここまで圧倒的な強さで決勝進出を決めている。


「これは面白い組み合わせです! 我らがスモウチャンピオンチマキ対鬼魔貴族の妹様シャルロット嬢の戦いだ!」

「おおっと、こいつは見ものだぜ。俺の見たところ力はチマキ、スピードではシャルちゃんだが、果たしてどうなるか」


 オランジェット様でも二人の戦いは予測できないみたいだ。


「おいらシャルとスモウで戦う日を楽しみにしてたんだぜ」

「あら、それは光栄ですわ。ですがチマキ、貴方が私に勝てたことがありましたかしら?」

「普通の戦闘じゃあシャルには勝てねえが、おいらはスモウ大会チャンピオンだ。こいつで負ける訳にはいかねえんだよ」


 試合前に言葉を交わす両者の気合は十分だ。特にチマキにはチャンピオンとしての矜持を感じる。逆にシャルロットは余裕な態度を取っているが、内心焦っているように見えた。


「先手必勝! 行きますわよチマキ!」


 試合開始と同時にシャルロットが仕掛けた。自慢のスピードを活かした速攻で勝負するようだ。


「そうくるのは予想済みだぜシャル!」

「なっ!?」


 正面から突っ込んだシャルロットはスモウで許された打撃技ハリテで攻撃するが、それを予想していたチマキに躱されガッチリとマワシを掴まれた。


「ちっ! 離しなさいチマキっ!」

「離すわけがねぇ。スピードで上回るシャルに勝つには、マワシを掴んで力勝負だろ!」

「キャウンッ!」


 マワシを掴んだチマキはシャルロットのハリテの勢いを利用してドヒョウ(舞台)の下までぶん投げた。


「決まったぁぁああ! 勝ったのはチャンピオンのチマキだぁああ! なんと、肉体的には遥か上と言われる鬼族の、それも鬼魔貴族の妹様に勝利したぞぉぉおお! 決まり手は下手投げだ!」

「チマキの奴やるなぁ。スモウの試合とはいえシャルちゃんに勝つとはな。河童魔貴族は伊達じゃねぇってことか」

「やるじゃないチマキ! かっこよかったわよ!」


 チマキは称賛を送る私にグッと親指を立ててサムズアップした。


「ありがとうな聖女さん! この勝利をあんたに捧げるぜ!」

「キィィイイイイッ! スフレにアピールする出汁にされるなんて悔しいですわぁぁあああ!」


 チマキに負けたシャルロットは地面に拳を打ち付け悔しがる。

 まったく何のアピールなんだか……。




 そして少しの休憩時間をおいてから決勝戦が始まる。

 組み合わせはスモウ大会チャンピオンのチマキ対鬼魔貴族ブールドネージュ様だ。


「さあ決勝戦がいよいよ始まります! 我らが河童魔貴族チマキは最強の魔貴族と謳われるブールドネージュ様に勝つことはできるのでしょうか! オランジェット様は友人の視点からどう思われますか?」

「ネージュは伊達に最強の魔貴族とされてねぇ。その理由も昨日知ったしな」


 チラリとこちらを見るオランジェット様に私は頷きで答える。

 そう、昨日私たちはブールドネージュ様が伝説の古代魔貴族だった事実を聞かされたのだ。そのブールドネージュ様相手にチマキはどう戦うのか……。

 向かい合う二人は体格もオーラも段違いだけど何故かチマキは自信ありげな表情を浮かべている。

 大丈夫かなぁ。怪我したら私が治してあげるから二人とも頑張って。


「ありがとう鬼魔貴族様。まさかあんたが大会に出てくれるとは思わなかった。おかげでイベントも盛り上がるし、売り上げもウハウハだ。礼を言うぜ。だが、聖女さんの前でかっこ悪いところは見せられねぇ。この勝負勝たせてもらうぜ」

「スフレの前で……? そうか、お前もスフレを愛した男ということか……、私も負けるわけにはいかんな」

「ああ……お互い愛した女の前ではいいかっこしたいからな。勝負だ鬼魔貴族!」

「こい、チマキ!」


 ブールドネージュ様とチマキは舞台上で何やら会話していたが、どちらも小声だったのでここまでは聞こえなかった。

 そして二人の戦いがいよいよ始まる。


「いくぞ鬼魔貴族様!」

「むっ!」


 シャルロット戦とは逆に、試合開始と同時にチマキが仕掛けた。素早くブールドネージュ様の懐に入り込むとマワシを掴んだ。


「さあチャンピオンのチマキがマワシを掴んだ! マワシを掴んだチマキは強いぞ! どうする鬼魔貴族様!」

「あのネージュの懐に入るとは、チマキの奴本当に凄えぞ」

「でも、動かない……?」


 懐に入りマワシを掴んだチマキはそこから動かない。それどころか滝のような大汗を流している。


「どうしたチマキよ。お前のスフレへの思いはその程度なのか?」

「クソッたれがぁぁあああ! おいらはスモウで負けるわけにはいかねぇんだっ――」


 無理に投げに行ったチマキだが、それを受け止めたブールドネージュ様は逆にチマキを舞台の外まで投げ飛ばした。


「決まったぁぁあああ! 我らがチャンピオンのチマキの連勝記録もここまで! 優勝はブールドネージュ様だ! 鬼魔貴族様は河童相手でも容赦なしだ!」

「確かに鬼族と河童族では基礎能力が違う。しかも相手は鬼族の長であるネージュだ。普通に考えたら勝てる相手じゃねぇ。だが、その発言は戦士にとって侮辱だぜ」


 オランジェット様は負けたチマキを高く評価しているようだ。解説河童の言葉を訂正している。それはチマキの戦士としての矜持を守るための発言だろう。

 やっぱり普段のオランジェット様はそういった気遣いのできる人なんだよな。イバラキの沢で感じたあの怖い視線はいったい何だったの?


「チマキ、いい勝負だった。ありがとう」

「へっ、よしてくれよ鬼魔貴族様。こちらこそ勝負を受けてくれてありがとな。スモウは負けちまったが、スフレをかけた勝負はまだ終わってねぇぜ」

「ふっ、望むところだ」


 チマキとブールドネージュ様はお互いを称え合い何やら会話しているようだ。怪我もなさそうだし、遺恨を残さない戦いができたようで良かった。

 こうしてイバラキの沢解放記念河童の里スモウ大会はブールドネージュ様の優勝で幕を閉じた。

 明日からは天狗族の領地にヨルムンガンドを封印するための話し合いに行くことになる。お祭り気分もここまでだ。気を引き締めて頑張らなきゃ。

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