22.イバラキの沢解放記念河童の里スモウ大会①
イバラキの沢での事件から数日後、私たちはイバラキの沢解放記念の祭りがあるとチマキに河童の里へ招待された。
メンバーはあの時と同じで私、ブールドネージュ様、シャルロット、オランジェット様の四名だ。
お祭りって聞くとテンション上がっちゃうよね。魔族領でどんなお祭りがおこなわれるのか楽しみだな。
河童の里へ到着すると、里の入り口には大きな大弾幕と看板が出されており、そこには〖イバラキの沢解放記念河童の里スモウ大会〗と書かれていた。
おおっ! 今日は余興として噂のスモウをやるみたいだ。話には聞いてたから、ちょっと気になってたのよね。
入り口を抜けて里の中に入ると、大通りには多くの屋台が軒を連ねている。食べ物以外にもちょっとしたゲームが楽しめるような屋台も並んでいた。
これこれ、やっぱりお祭りといったら屋台よね。私も王国にいたころは一応貴族だったから、こういった屋台が出るようなお祭りには縁がなかったのよ。でも、楽しそうだな遊びに行きたいなって、ずっと思っていたから凄く楽しみだ。
「こういう祭りも活気があっていいものだな。スフレも好きなのか? 先ほどから楽しそうに見える」
「そっ、そうですね。昔から行ってみたいと思っていましたので……」
うぅ……。イバラキの沢での事件から、ブールドネージュ様の顔を見るとあの抱擁を思い出してどうしても照れてしまう。
私はこんなに意識しちゃうのに、ブールドネージュ様が涼しい顔で平然としてるのが何か腹が立つな。あの熱い抱擁は何だったのよ……。
ドギマギしながら立ち並ぶ屋台の中を歩いていると、その中の一軒から私たちに声をかける者がいた。
「ようっ! みんなお揃いだな。今日こうして祭りを開けるのもみんなのおかげだ。お礼もしたい、うちの屋台でぜひ食っておくれよ」
屋台から私たちに声をかけてきたのは、細身の身体に河伯の力を宿した河童の里の主、チマキ・イグサだった。
チマキは浅くつけたキューカンバ―に串を刺した食べ物の屋台を出店しているようだ。
「あらチマキじゃない。貴方も屋台を出しているのね。一ついただこうかしら」
「はいよっ! さすがは聖女さんだ。うちで出してるキューカンバ―の浅漬け串は美味いぜ」
チマキの言葉通り、瑞々しい光沢を放つキューカンバ―は凄く美味しそうだ。これは期待できそうね。
「本当美味しそうね。みんなに一本ずつちょうだい」
「毎度ありっ! 一つ銅貨一枚だ」
「ええっ! お金取るの!? さっきお礼って言ったじゃない」
「はっ? お礼なら河童の妙薬を渡したろ? こちとら遊びじゃねえんだよ」
お礼なら既に渡した。これは商売だとチマキに怒られてしまった。
くっそぉチマキめ、銭ゲバに正論パンチで殴られた。
「まぁ、おいらとあんたらの仲だ。一本おまけしてやるからそんな渋い顔すんなよ。せっかくの美人が台無しだぜ」
「うぅ……ありがとう」
手渡されたキューカンバ―の浅漬け串をボリボリ食べると、口の中に爽やかな味が広がる。
食べ進める手と口がやめられないとめられない美味しさだわ。お祭りの雰囲気が後押しして、余計に美味しく感じるな。
「みんなこの後のスモウ大会は見ていくだろ。今回は特別ゲストも出場する。トーナメントを勝ち抜いてチャンピオンのおいらと戦えば盛り上がること間違いなしだぜ」
「へぇ、面白そうね。観戦させてもらうわ」
「はっはっはっ! 特別ゲストを見たらきっと観客も聖女さんもビックリすると思うぜ」
特別ゲストには驚くと、チマキは楽しそうに笑う。
「私たちは知っていますが、そういえばスフレには話していませんでしたわ」
「おっとシャル、聖女さんには本番まで内緒にしといてくれ。その方が楽しめるだろ?」
しーっと人差し指を立てて教えるなとジェスチャーするチマキに「そうですわね」とシャルロットは納得したようだ。
この二人がそういうなら私は黙って楽しませてもらおうかな。
こうして私たちはスモウ大会が始まる時間まで、屋台で食べ歩きを楽しむのだった。




