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【連載版】追放聖女は隣国の魔貴族に拾われる〜聖女の私がいなくなると王国が滅びるそうですがよろしいのですか?〜  作者: ギッシー


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20.抱擁

 私とチマキの合わせ技で皺くちゃにされた黒竜にブールドネージュ様が話しかけた。

 黒竜に聞きたいことってなんだろう?


「絶対絶命の状況から我を倒した貴様らであれば話すのもやぶさかではない。何を聞きたい?」

「ヨルムンガンドについでだ。奴は王国で厳重な封印を施したはず、本当に復活しているのか?」


 質問はヨルムンガンドについてだった。

 そうだよね。伝説級の邪龍が復活したら大変なことになるもの。っていうか、ヨルムンガンドって王国に封印されているの! そんな話は聞いたことがなかったわ。

 重要な情報だから王国上層部のみが知ってるとか、そういう話なのかもしれない。


「我が主様についてか……。ヨルムンガンド様が復活したなどと我は言っていないぞ。あのお方はまだ復活してはいない。今はまだその準備段階だ。だが、近いうちに必ず復活する。我ら眷族の幹部はヨルムンガンド様と魔力での繋がりがあり、あのお方の声を聞くことができる。そして指示を受けてイバラキの沢を襲った。かつてヨルムンガンド様を封印した一人であるブールドネージュ、貴様を抹殺するためにな」

『喋りすぎだ黒竜』

「――ヨッ……ヨルムンガンド様……!?」


 黒竜がヨルムンガンド復活の話をしていると、突然遺跡に死を予感させるような気配と共に、低く威厳のある声が響いた。

 怖い……これが、伝説の邪龍ヨルムンガンドの声なの? お腹の底から恐怖が沸き起こってくるような、そんな威圧感のある声だった。


「ヨルムンガンドなのか? 貴様は私とあの方で厳重に封印したはず、どうやって復活しようというのだ!」

『ブールドネージュか、あれから何千年経つと思っているのだ? 貴様らの施した封印も弱まっている。それに、我には王国に協力者がいる。我に施された封印を解き、貴様との決着をつける時も近いぞ』

「王国に協力者だと……!? 人族め、時の流れで奴の恐怖を忘れてしまったのか……!」


 ブールドネージュ様は人族から協力者が出たことに動揺しているようだ。

 それに、あれは人族に対して怒っているなぁ。

 思い返せば、初めて出会った時もそうだった。私の王国追放話を聞いてくれたときも、ブールドネージュ様は人族に怒りを向けていた気がする。

 長い時を生きる魔族だから、過去に何か人族との間に確執があるのかもしれない。


『黒竜よ。喋りすぎた貴様に褒美をやろう』

「はっ! ありがたき幸せに存じます……」


 竜の表情になど詳しくはわからないが、黒竜は褒美をもらうにしては喜んでいないというか、明らかに怯えた表情をしている。


「う……あぎゃぁぁああばばぁぁあああっ!」


 嬉しくないのかな? そう思った瞬間、黒竜の身体が膨れ上がり爆散した。

 あの暗い表情の理由がわかった。黒竜には自分の未来が予想できていたのね。自分の眷族、それも幹部に酷いことを……。


「自分の眷族を躊躇いなく殺すか……貴様! 仲間を何だと思っている!」

『黒竜は苦しませず即死させた。死はそれ以上の苦しみから解放されるという意味で救いでもある。ではブールドネージュよ。いずれ決着をつけよう。再会を楽しみにしているぞ』


 ヨルムンガンドがそう言い残すと、あの死を予感させる気配が消え去った。

 か……帰ったのかな? ヨルムンガンド……伝説の邪龍の名に恥じない、本当に怖ろしい存在だった。


「行ったか。……スフレ」

「はい。なんでしょうかブールドネージュ様っ――」


 ブールドネージュ様呼ばれて振り返る。するとその瞬間、ブールドネージュ様に抱きしめられた。

 えっえっえっ……!?


「……川に飛び込んだのを見た時は、生きた心地がしなかった。もう……二度と、そんな無茶はしないでくれ。君を失いたくないんだ……!!」

「ブールドネージュ様……。はい。無理はするかもしれませんが、無茶はできる限りいたしません」


 ブールドネージュ様は心から私を心配してくれている。そのことが私を抱きしめる腕から……身体から伝わってくるのだ。

 だけど、ブールドネージュ様から抱擁されていることを意識してしまい、私の鼓動は早鐘のように鳴り響いている。

 だってしょうがないじゃないか。私は男性に触れられた経験なんて殆どないのだから。ましてや抱擁されたことなど……。

 でも、ありがとうございますブールドネージュ様。私を心配してくれるその気持ちは本当に……凄く嬉しく思っております。


 ブールドネージュ様に強く抱きしめられていると、突然寒気がするような視線を感じた。その視線の主は、私たちを氷のように冷たい瞳で見つめるオランジェット様だった。

 えっ……オランジェット様……!?

 その瞳は、私を射殺さんばかりに睨みつけるものであった。


「もうっ! お兄様! 皆の目があるのですから、そろそろ離れていただけるかしら?」

「むっ、シャルロット。――はっ!? すまないスフレ!」

「い……いえ、不快ではありませんので……」


 私を抱きしめるブールドネージュ様をシャルロットが呆れた様子で注意する。

 ブールドネージュ様も私も、頬を少し赤らめ離れた。

 心を落ち着けてもう一度オランジェット様を見ると、その表情にはいつもと同じ少し軽薄そうな笑みが張り付いていた。

 さっきの冷たい瞳は何だったのだろうか?


 邪龍ヨルムンガンドが復活間近、オランジェット様の冷たい視線など色々な問題は残ったが、こうしてイバラキの沢での事件は解決したのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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