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18.邪龍の眷属

「私を知っているのか? 貴様何者だ?」

「我が何者かだと? ふははははははっ! 薄々感づいているのだろう? 我こそは邪龍ヨルムンガンド様の忠実なる僕。眷族の中でも幹部とされる者だ」

「そうか……やはりヨルムンガンドが復活していたのか……」


 邪龍ヨルムンガンドの僕と名乗る黒竜の話を聞いたブールドネージュ様は、怒っているような悲しんでいるような、複雑な表情を浮かべている。

 長生きしているブールドネージュ様のことだ。過去に因縁のある相手なのかもしれない。


 しかしヨルムンガンドか……。王国に伝わる伝説の邪龍じゃない。

 なんでそんなやばい奴が復活したのよ。


「何だってそんな野郎がここにいやがるんだ。ここは神聖な河童の遺跡だぞ! 出て行きやがれ!」


 チマキが遺跡を乗っ取ったヨルムンガンドの僕である黒竜に啖呵を切った。


「我が主よりこの遺跡の浄化装置の破壊を命じられたが、何だこの装置は? 頑丈で破壊できん」

「あたぼうよ! 古代河童族の技術を舐めるなよ!」

「ならばもう一つの命であるブールドネージュの抹殺を優先するとしよう。その後にそこの河童を拷問して浄化装置を破壊させるまでよ」

「ひいぃぃっ!」


 黒竜に睨まれたチマキは素早く私たちの後ろに隠れた。さすがはチマキ、こういう時の素早さは天下一品である。

 隠れたチマキに代わりブールドネージュ様が前に出た。


「ヨルムンガンドの眷族を生かしてはおけん。滅ぼさせてもらうぞ」

「本当にいいのか? 我はヨルムンガンド様の毒を司る眷族、傷を負わせただけでこの身の毒をまき散らす存在だ。もし殺せば我が身の毒がこの魔族領を汚染する。それでも貴様は我を滅ぼすと言うのか?」


 つまり倒すのはおろか、傷をつけるのもまずいってこと?


「おい、こいつはまずいぞネージュ。どうするよ?」

「くっ……」

「相談する暇など与えん! こちらから行くぞ!」


 対策を相談するブールドネージュ様とオランジェット様に、黒竜が襲いかかった。


「うおっ! あぶねぇっ!」


 黒竜の体当たりをオランジェット様が大剣で受けると、大剣を受けた身体から体液が飛び散る。飛び散った体液はジュワッっと壁や床を溶かした。

 なんて強力な毒液! なんでそんなのが身体に流れてて生きてるのよ? 邪竜恐るべし……。


 容赦なく攻撃を繰り出す黒竜に二人は防御に徹している。敵を傷つけないとは変な話だが、倒すどころか傷をつけただけで毒をまき散らすのだから仕方がない。

 攻撃できない相手をどうやって倒せばいいのよ。こんなの反則じゃないの!


「シャルロット、チマキ! 危険な戦いになる! こ奴の相手は私とジェットが引き受ける。スフレの守りは任せたぞ!」

「任されましたわ!」

「合点承知だぜ!」


 危険な戦いになると予想したブールドネージュ様がシャルロットとチマキをガードにつけてくれた。

 でもこのままじゃジリ貧だよ。


「貴様も沢の主と同じだな。力では我を越えようと、川を盾にすれば何もできまい」

「そうか、沢の主はイバラキの沢を守るためにその身を犠牲にしたか……。その願い、我らが引き継ごう」


 黒竜は余裕のある様子で二人を煽り出した。

 沢の主はイバラキの沢を守るために命をかけたのか……魔物とはいえ、その主ともなれば人や魔族と変わらない心を持っているのかもしれない。


 今は亡き沢の主のことを考えていると、チマキが今まで見たことのない、真剣な面持ちで話し出した。


「聖女さん、おいらに策がある。あいつの毒を無力化するには浄化装置を作動させるしかねえ。だが、おいらたちじゃダメだ。聖属性の力を持つあんたが浄化装置を作動させる必要がある。浄化装置に聖属性の魔力を加えることで浄化の力を高めることができるんだ。もちろんおいらとシャルがサポートするが危険はある。頼めるか?」

「ええ、私にしかできないならやらせて」


 守られてばかりではいたくない。私だって、お世話になったみんなの役に立ちたいんだ。


「さすが聖女さん、いい度胸だぜ! よっしゃ! 守りはおいらとシャルに任せときな!」

「ちょっとチマキ、これから隠密行動するのに声が大きくてよ。スフレ、守りは私たちに任せて貴方はしっかりとついてきなさい」

「ええ、任せたわよ」


 こうして、ブールドネージュ様とオランジェット様が黒竜の相手をしている隙に、私たちは浄化装置を目指して移動を開始した。

 隊列は前にシャルロット、後ろにチマキで私を挟んでガードしてくれている。

 よし、浄化装置までもう少しだ。


「むっ、奴ら浄化装置に向かっているのか? させん、そうはさせぬぞおおおっ!」


 順調に浄化装置に進んでいたが、それに気づいた黒竜が口から緑色のブレスを吐き出し攻撃してきた。

 濃密な瘴気を宿した毒のブレスだ。


「スフレの邪魔はさせませんわ! ガードするわよチマキ!」

「合点承知だ! 聖女さんは後ろに隠れてな!」


 シャルロットとチマキは私を守るため、前に出て毒のブレスを受け止めた。

 くっ……凄い衝撃……! せっかくシャルロットとチマキが防いでくれてるのに……身体が、持っていかれる……!?


「きゃああぁぁああっ!」

「スフレェェエエッ!」


 ブレスの衝撃で飛ばされた私は、ドボオオンッ! と、大きな水飛沫を上げて川に落ちてしまった。

 川に落ちる寸前、私を呼ぶブールドネージュ様の声が聞こえた気がする。

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