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1.婚約破棄からの聖女追放

完結保証します

「スフレ・ハーベスト公爵令嬢、君との婚約は破棄させてもらう! 君との婚約は王が決めたこと、私の意思ではない。私は真実の愛に目覚めたのだ!」


 とある夜会のパーティー会場にて、私の婚約者であるアルス・プディング殿下はそう宣言した。

 確かにアルス殿下から私に対する愛情を感じたことはない。でも、私たちの婚約は家同士が決めたこと。

 王侯貴族に政略結婚はつきものなのに、今更何を言っているんだこの人は?


「ごめんなさいお姉様、アルス殿下は私と婚約することになりましたの」


 ざわつくパーティー会場を見慣れた少女がツカツカと歩いてくる。

 異母妹のショコラだ。

 ショコラはアルス殿下の腕を取り、その豊満で形の良い胸を押しつけ、ニヤリと私に邪悪な笑みを向ける。

 ニチャアって擬音が今にも聞こえてきそうだわ。そういえばこの間ショコラが……。

 その言葉と邪悪な笑みを見て、先日のショコラのセリフを思い出した――



◇◇◇



 数日前、ショコラが「お姉様~」と、猫なで声を上げて私を呼び止めた。

 ショコラが私を呼ぶ時は決まっている。私の持ち物を欲しがる時だ。

 だけどその時ショコラが欲しがった物は――、


『私、お姉様の婚約者のアルス殿下が欲しいわ』


(また妹の欲しがりが始まった。でも、今回ばかりは貴方の思い通りにはいかないわよ。だって、アルス殿下との婚約は王家から正式に認められたものだもの)


 妹のそのセリフを聞いた時、私はそう軽く考えてしまったのだ。



◇◇◇



 これほど早く話しが進むということは、妹が両親にお願いしたのだろう。

 両親は黒髪黒目で地味な見た目の私より、金髪碧眼で美しい人形のような見た目の妹を溺愛している。

 同じく金髪碧眼の美しい顔立ちをしたアルス殿下とはお似合いだと考えたのかもしれない。


 なぜ私と妹の見た目がこれほど違うのかと言うと、妹は父の再婚相手の連れ子だからだ。所謂義妹である。

 女好きの父は外で遊んで家に帰らないことが多く、それが原因で私の生みの親である母との関係は冷え切っていた。

 その後母が病に倒れ病死すると、すぐに今の母である継母と再婚したのだ。


 あまりに早い再婚だったため、二人は以前から不倫関係だったのでは? そんな噂が流れたほどだ。

 死んだ母と同じ黒髪黒目の私に対して、ショコラの金髪碧眼は父と同じだもの。

 もしかしたら噂は本当なのかもしれない。

 それなら仲の悪かった母の娘の私を嫌い、実の娘でもあるショコラを溺愛するのも頷けるわ。


 両親からしたら前妻の娘である私より、ショコラが殿下の婚約者になった方が嬉しいものね。

 だからって「はい、そうですか。殿下はお譲りしますね」なんてなると思うなよ!

 私はお飾りの貴族令嬢じゃないんだから!


 別にアルス殿下を愛している訳でも妃になりない訳でもないが、私は一度決めたことを曲げたくない。

 だって婚約って結婚の約束でしょう?

 私は約束を破るなんてダサいマネをしたくないんだ!


「アルス殿下、私たちの婚約は家同士が決めた事です。どうせ私の家はショコラの味方をするでしょう。ですが、陛下やお妃様はこの婚約破棄をお認めになったのですか?」

「フンッ、もちろんだ。君の悪行の調べはついている! 何が王国の聖女だ! よくも今まで我々を騙してくれたな!」


 アルス殿下に婚約破棄について問い正すと、逆に怒り出してしまった。

 確かに私は癒しの力を持って生まれたため、王国の聖女とされている。

 でも、騙したって何?

 この癒しの力で散々国民を救ってきたじゃない!


 ふと悪意ある視線を感じそちらを見ると、ショコラが嫌らしく見下した顔で私を見ていた。

 そう……貴方の仕業なのね。

 何を吹き込んだのか知らないけどこの喧嘩、買わせてもらうわよ!


「しかしながら殿下、王家と聖女の婚姻は陛下の望みだったはず、なぜいきなり婚約破棄など? それに、ショコラは聖女ではないのですよ?」

「ショコラが聖女ではないだと? 君は姉でありながら妹の力も知らないのか? ショコラには君と同じ癒しの聖女の力がある。そして、君は聖女の力を利用し、癒した民から多額の金銭を請求しているそうではないか? 我々王家が知らないとでも思ったか? 君の悪行は全てショコラとハーベスト公爵夫妻から聞いているのだぞ!」


 えっ!? 貴方に聖女の力があるなんて聞いたことがないわよ! どんな手品を使ったのよ!

 それに、私は聖女の力を使うのにお金を要求したことなんてないわ!


「失望したよ。君がそんなに金に汚い人間だとは思わなかった。それに比べ、義妹のショコラは君が金をむしり取った民に施しを与えていたのだ。君は……姉として恥ずかしくないのか!」


 失望の色を覗かせる瞳で私を叱責するアルス殿下。

 その様子を歪んだ笑みで楽しそうに見ていたショコラが、一瞬で目に涙を溜めてアルス殿下にしなだれかかった。

 あざとい! さすがショコラ、あざといわ!


「アルス殿下、それ以上姉を悪く言わないでください。例えお金に意地汚い人でも、私にとってはたった一人の義姉なのですから……」

「ショコラ……君はなんて優しい心の持ち主なんだ。私はそんな君の優しさに惚れたのだろうな」

「嬉しいです。アルス殿下……」


 そして、二人の世界に入り強く抱きしめ合うと、会場から歓声や拍手が沸き起こった。

 なんだこの茶番は? 私を悪役に仕立てて勝手に盛り上がってるわ。

 でも、どうやらこの茶番劇は周到に準備されていたようね。

 誰か私に味方してくれる人はいないの?


 そう思い周囲を見渡すが、お友達だと思っていた令嬢も、私に告白してきた令息も、視線を向けると皆一様に俯き顔をそらした。

 根回し済みってことか……どうやらここまでのようね。


「私が何を言っても無駄のようですね。わかりました。婚約は破棄しましょう」

「ふふふっ、お姉様、まさかこれで終わりだと思っていますの?」


 私は両手を上げて降参を認めるが、ショコラは鼻で笑う。

 何? まだ何かあるって言うの?

 私は負けを認めたんだから、後は若い二人でイチャコラしたら良いじゃないの。


「スフレ・ハーベスト、君を聖女の力を悪用した罪で国外追放とする!」


 アルス殿下は高らかに宣言した。

 あまりの重い罪に愕然とする私にショコラが寄ってきて、


「本当にバカねスフレ、とっとと殿下を譲れば国外追放じゃなく百叩きくらいですましてあげたのに、意地を張るからよ。まあ、殿下も私がちょっと色目を使ったらイチコロだったけどね。貴方のことなんてちっとも愛してないって言ってたわよ」


 耳元で囁いた。

 完全にハメられた。

 そう理解したと同時に怒りが湧いてきた。


「ショコラー! 貴方よくも!」

「スフレ嬢が乱心したぞ! 取り押さえろ!」


 言いたいことだけ言って去って行くショコラに掴みかかろうとするが、寸前で兵士に拘束されてしまう。

 こうして暴行の現行犯まで加わり、私は裁判にかけられることもなく、その場で兵士に連行され、国外に追放されることになったのだ。

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