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自作小説倶楽部 第26冊/2023年上半期(第151-156集)  作者: 自作小説倶楽部
第152集(2023年2月)/テーマ「思いやり」
6/26

01 奄美剣星 著  『エルフ文明の謎 02』

【概要】

 カスター荘の事件を解決した考古学者レディー・シナモンと、相棒バディーを組むブレイヤー博士は、王国の特命を受けて飛行船に乗り、惑星の裏側にある新大陸へ向かう。新大陸には滅亡した〈エルフ文明〉遺跡が点在していた。ミッションはエルフ文明が滅亡した理由を調査することだった。(ヒスカラ王国の晩鐘 37/エルフ文明の謎02)


©奄美「ドルニエ」

挿絵(By みてみん)

   02 〈思いやり〉というか思惑


 ステージェ地中海を囲む形をなしたセレンティブ、タプロバネ、シルハ新大陸群は、ノスト旧大陸の真裏に位置している。新旧両大陸間八〇〇〇キロを三日間で結ぶ定期便飛行船の国際空港は、シルハ大陸ディテ州同名州都梗概のマジョーレ湖畔に臨んでいた。

 国際空港には、飛行船一三機を収容できる格納庫群があり、すぐ横には、ドルニエ飛行機三〇機分を収容する格納庫群が並んでいた。飛行船から降りた乗客は、いったん市街地のホテルで宿泊し、それからドルニエ水上機で、各大陸各州へと散って行くことになる。

 特命遺跡調査官シナモン少佐と私・ドロシー・ブレイヤー博士が乗るドルニエ便は、明後日の出立となる。

 公用車のリムージンが出迎えに来たので、それに乗ってまずはホテルでドレスアップ。待たせていたリムージンに再び乗って、副王閣下に挨拶に出向く。


 副王府に臨む中央広場から放射状に延びたメインストリート。町屋は、山吹色の屋根が特徴的な木造二階建てのベランダが特徴的な植民地様式の屋敷が主体で、それにバロック、ネオクラシック、モデルニズムといった様式の公官庁、ホテル、金融・商社オフィスが、雑然と混じりあっていた。


 シルハ副王府官邸は、ネオクラッシック様式の大理石宮殿だった。

 副王というのは、上級植民地総督とでもいうべきもので、一般植民地の総督よりも格式が高い。当然、総督領よりも領域は広大だ。

 現在のシルハ副王は、四半世紀前に滅びた旧大陸ガウディカ王国の王族ドン・ファン・ガウディカといい、旧大陸の大半を掌握した連合種族帝国との航空戦では航空中隊を率いて奮戦、英雄になった。

 ――英雄、色を好むという。彼の御仁もそうらしい。


「おお、旧大陸随一の才色兼備淑女、レディー・シナモン。まずは歓迎の花束をどうぞ。今宵の歓迎舞踏会では、ぜひ、私にエスコート役を御命じ下さいませ」旧大陸王家はお互いに、勲章と一緒に爵位を交換し合う。ヒスカラ王国におけるドン・ファン副王閣下の爵位は侯爵だ。そんな高貴な方が、格下の伯爵令嬢であるシナモン少佐に片膝をついて、手袋の上から口づけするあたり、殿方の下心が透けて見える。そして、閣下は、少佐の後ろにいた私を見やると、驚いた顔をして、「これはこれは、レディー・シナモンの副官殿も女性でありましたか、従者を宿に派遣し、花束を届けます。ご容赦下さいませ」

 後で、レディー・シナモンに教えられたのだが、ドン・ファン閣下の母国ガウディカでは、女性を口説かないのは失礼に当たるとのことだった。


 副王府官邸での祝賀会は、赤絨毯の大ホール中央を舞踏会場に、壁際に長机を置いて料理を並べ、ビュッフェスタイルでの会食をとる趣向にしていた。並んでいた料理は、ハム料理〈ハモンセラーノ〉、イワシのマリネ〈ポケロネス・エンピナグレ〉他いろいろ。アルコールは、ワインとウィスキー。客たちはストレートか、炭酸で割ったりして飲んだ。


 ドン・ファンは、姫様、レディー・シナモンにご執心なようで、先ほどから踊りまくっている。――モテない私は、ウィスキー・ソーダを片手に、ひたすら姫様の舞いを観賞することに徹しようとしていた。――私が軽く酔いが回ってきたころ、横から声をかけてくる酔狂な殿方がいた。

「ドロシー・ブレイヤー博士ですね? 自分は、副王親衛隊のガスパーレ・ドミンゴ大尉であります」

「私と踊るのをご所望?」

「光栄であります、ブレイヤー博士。――踊りの後は、自分の部下一〇名ともども、姫様と博士の護衛任務に就かせて戴きます」

 ガスパーレ大尉以下親衛隊は容姿端麗な偉丈夫たちだった。

 歓迎会が終わり、私たちが宿に戻ると、早速彼らは交代で任務に就くことになる。翌日、国際空港でドルニエ機に乗るわけだが、姫様と私意外の乗客はガスパーレ一党で占められていた。

 ドン・ファン閣下は、姫様を口説かれたのだろうか、私たちが水上機のタラップを昇り、飛び発つまで、お見送りして下さった。

 それに合わせて、機銃を取り付けたカーチス飛行機小隊四機が、護衛についた。


               ***


 小型飛行機とほぼ同じ翼幅をもつ、巨大トンボに遭遇したが、幸いにも単体だったためか交戦することなくやり過ごすことができた。

 ガスパーレ大尉によると、

「《トンボ》の雌の中には、子孫をつくるために生むんじゃなくて、攻撃のために卵を酸弾化させ撃ってくる奴がいる。群れだったら確実に襲ってきた。今回はセーフだな!」

 水上機は、密林を蛇行するアケロンテ川を遡って、南に飛んだ。


 副王領で、発見された全ての遺跡は、遺跡台帳に登録される。ケツァルコアトル州0023番〈死都〉。

 シナモン少佐が地図を拡げる。

 我らが乗るドルニエのチャーター機が向かっているのは、地図上の廃寺を結んだ線の終点にある先住民エルフの王都〈死都〉と推定地だ。

 遺跡と、遺跡の上空に浮かぶ阻塞気球そさいききゅうが見えてきた。

 遺跡はアケロンテ川右岸にある。飛行機が、テント村に近い川岸に着水した。

 遺跡調査団団長は、ケサダ・バコ博士という人だという。私たちが挨拶に行こうと、飛行機を降りる。普通は、誰かしら出迎えに来るものだが、誰一人やってこない。

 テント村に着くと、恐慌状態になっていた。

 眼鏡をかけた団長補佐の調査員フェリペ・セラノ氏をどうにか見つけて、事情を聞く。


  ――たいへんです。団長の博士が何者かに殺されました!――


 遺跡調査は大きく、事前調査、本調査、整理調査のプロセスを踏む。

 事前調査は遺跡を発見する調査だ。航空機、電磁波、はたまた直に密林を踏査して、密林に隠れている石造建造物を見つける。そして遺跡があると判ったら、試掘坑トレンチを穿って、遺跡の規模と性格について、アタリを付ける。

 本調査は、遺跡を覆う樹木を伐採、表土と埋没土を取り去って、遺構と遺物とを往時の状態にした上で、写真や図面の記録をとる。

 整理調査は、遺跡から持ち帰った遺物を洗浄・接合・復元し、写真や実測図の記録を取り、本調査現場の遺構図とともに、調査報告書にまとめ、刊行する。

 旧大陸本国、ヒスカラ王国アカデミーは、特命遺跡調査官シナモン少佐に先立ち、新大陸に、二百名からなる考古学と関連学研究者、技術者を派遣していた。

 レディー・シナモンの任務は、新大陸先住民エルフ文明の最新情報を把握し、本国に概要と所見を伝えることにあった。


 新大陸での遺跡調査に、ヒスカラ王国本国が必死になるのには理由がある。

 旧大陸ノスト大陸は、サピエンス系人類の国家は今やヒスカラ王国のみで、他の王国は亜人系諸族からなる連合種族帝国に滅ぼされてしまった。牙城のヒスカラが落ちたら、サピエンスは、新大陸に逃げ込むほかないではないか。

 だが、巨大な虫がいる新大陸には、先住民エルフたちの遺跡はあるが、先住民たちの姿がない。彼らはどこに消えたのか? 天災や疫病で全滅したのか、それとも、人類未踏の地へ移動したのか。――もし、天災や疫病が原因ならば、来たるべき遷都と大移民に備えて、対策をとる必要があるというものだ。


 ノート20230227

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