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自作小説倶楽部 第26冊/2023年上半期(第151-156集)  作者: 自作小説倶楽部
第151集(2023年1月)/テーマ「繁栄」
5/26

04 らてぃあ 著  『魔女の都』

【梗概】

 とある博物館の出来事


挿絵(By みてみん)

©奄美「魔女」

「~遺跡は1916年。サー・レッドリーによって発見されましたが、その場所は原住民には『魔女の都』として恐れられていました。現地で言い伝えを聞いたサー・レッドリーは綿密な調査を行い。原住民とも信頼関係を築き。ついに300年以上ジャングルに眠っていた遺跡を発見したのです。調査によりかつてはかなり繁栄した高度な文明が存在していたことがわかっています」

 私はガラスケースの前で見学の小学生たちにいつも通りの解説を始めた。最低週一回、たまに三回くらい。博物館の総合カタログに載っている内容だが、当時の館長の蘊蓄がくどすぎて市立図書館でも埃をかぶっているくらい人気が無いから読んでいる人間はまずいない。

「遺跡には魔女が住んでいたのですか?」

 無邪気な瞳を輝かせて12歳くらいの女の子が疑問を投げて来る。うん、よい質問だ。

「『魔女』という通称はサー・レッドリーが書いた冒険記によるものです。『魔女』は原住民たちと対立した部族の長か巫女のことだと考えられています」

「なんだあ、つまんない」

 あっさり興味を失った様子の女の子。

「バーカ。魔女なんているわけないだろう」と男の子。

「なんですってえ⁉」

「えー、ーと。君たち喧嘩はやめてね」

 慌てて止める。あれ、引率のオールドミスどこに行った?

「サー・レッドリーが徴兵逃れで、大陸に渡ったって本当ですか?」

「サー・レッドリーが妻への慰謝料を踏み倒したって聞いたけど」

「現地妻がいたって聞いたけど」

「魔女って、どうせブスだよね」

「遊園地の方がよかったあ」

 男の子の発言を皮切りに次々と声が上がる。

 おかしいな。今日はしつけの厳しいことで有名な私立学校の見学会だったはずなのに。

 私の視線がやっと引率教師の姿をとらえる。彼女は眼玉展示のガラスケースの前て男性客と並んで立っている。男が解説しながら食い入るように黄金と宝石で出来たドクロを見つめている。オールドミスは男の横顔をうっとり見つめているようだ。そこだけ別世界になっている。

「こらあ‼ 静かにしなさい‼」

 高く鋭い声が一瞬ですべてを切り裂いた。しん、となった展示スペースの真ん中で殺戮の女神が仁王立ちで金色に見える瞳を光らせていた。受付で働くミス・ソーン、私の同僚、ということになっているが実は私を召使としてこき使うあるじだ。きっと後でものすごおく怒られる。


               ***


「まったく最近の子供は――」

 閉館後、館内でミス・ソーンは私が入れたお茶を飲みながら今日の不満を復活させた。

「そうですね。落ち着きがなくてうるさかったですね」

「違う。魔女をブスだの。蛙みたいな顔だろうだの。話していたのよ。あのクソガキども大きくなっても異性にモテない呪いをかけてやる」

「貴女が言うとシャレにならないです。やめてあげてください。ところで、私たちは何故居残りしているんですか?」

 恐る恐る聞いた。仕事で疲れているせいもあるが、私はすごく鈍くて察しが悪い。ちゃんと説明してくださいと言いたいが言えないでいる。

「来たわ」

 主は私の質問には答えず言った。同時に施錠されたはずの職員用通用口が開いた。

 30まで数えると主はパチンと指を鳴らした。


               ***


 展示室の外で倒れていたのは昼間、オールドミスに話しかけていた色男だった。あの時はジャケットにセーターという普通の格好だったはずなのに今は怪しげな黒ずくめだ。主の魔術でぐっすり眠っている。

 主は色男の頭に手をかざして、それから首を振った。

「コイツもはずれね」

「残念です。でもコレが盗賊だってどうしてわかったんですか?」

「このところ三日おきに来てはドクロをじっと見つめていたでしょう」

「そういえば」

 嘘である。まったく気が付いていなかった。

「あのう。博物館にお宝を置いて盗賊を待つっていうやり方は非効率じゃないですか? もう、ここに落ち着いて10年ですよ」

「うーん。でも、来月のバーゲン楽しみなのよね。駅前のケーキ屋も新作待ちだし」

「・・・」

 レッドリーという盗賊により持ち出されて酒代に替えられて行方不明になった主の「本物の」宝物は今も行方不明だが、かつてジャングルに都を築いたこともある「魔女」にして偉大なわが主は、すっかり都会暮らしに馴染んでしまったようだ。


               了

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