表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作小説倶楽部 第26冊/2023年上半期(第151-156集)  作者: 自作小説倶楽部
第156集(2023年6月)/テーマ「大願成就・神の祝福」
22/26

01 奄美剣聖 著  『エルフ文明の謎 06』

【概要】

 カスター荘の事件を解決した考古学者レディー・シナモンと、相棒バディーを組むブレイヤー博士は、王国の特命を受けて飛行船に乗り、惑星の裏側にある新大陸へ向かう。新大陸には滅亡した〈エルフ文明〉遺跡が点在していた。ミッションはエルフ文明が滅亡した理由を調査することだった。そこで殺人事件が……(ヒスカラ王国の晩鐘 40/エルフ文明の謎06)


挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「問題警視」

    06 大願成就なるか?


 古代エルフ文明〈死都〉遺跡。


 遺跡は密林を蛇行するアケロンテ川沿いにある。そこに浮かべたガスパーレ大尉指揮下にある親衛隊所属のドルニエ型輸送機を介して、小隊通信兵に連絡が入った。

「先任の団長ケサダ・バコ博士の殺害を受けて、植民地シルハ大陸同名首都から、後任の団長及び、専門捜査班が派遣されることが決定したそうです。調査団長はロドリゴ・ラサロ博士、シルハ警視庁からの専門捜査班六名、班長は、グラシア・ホルム警視……」


 特命遺跡調査官レディー・シナモン少佐の副官である私・ブレイヤー博士は話に割り込んだ。

それにしても、レディー・シナモン少佐、不思議です。エルフの〈死都〉遺跡に関しては、副団長フェリペ・ゼラノ博士が、最も把握している。私は、副団長が、後任団長に繰り上げ就任するとばかり思っておりました。きっと副団長は意気消沈することでしょう」


 私の問いには、少佐ではなく、大尉が答えた。

「小官が思いますに、学術会議アカデミアは、発掘の遅滞を嫌い、調査の早期再開を図り、ベテラン考古学者に現地指揮を任せたかった。調査の早期再開には速やかな事件解決が必要になる。ゆえに新大陸首都のお偉方としては、可能な限りのスぺシャリトを派遣してやったつもりなんでしょう。――ラサノ博士は学術会議の重鎮、ホルム警視は敏腕だという定評があります」

 そんな話しをしていると……。


 ブロロロ……


 複数のレシプロエンジンの音が天空からだんだん近づいてきて、大きくなってきた。

 上下に二枚ある銀色の主翼。下翼に取り付けられたフローターが水煙を上げ、滑走した。

 ガスパーレ大尉のドルニエ型輸送機が停泊している桟橋の隣に、新たに舞い降りた同型の輸送機が接岸してきた。

 複葉機の上主翼に五つ並んだプロペラが止まり、タラップから降りてきたのは、白い顎髭の老人と、すらりと背の高い、赤毛髪をダウンテールにした女性だった。


 新団長ラサロ博士は、副団長から貰った調査概況を記した日誌を受け取り、そこに記された進捗状況を確かめるため、各遺構が建ち並ぶ〈死都〉遺跡内部に立ち入ろうとした。


 対するホルム警視は……

 挑発的な吊り目、瑠璃色の瞳、ピンクの口紅、肩や胸まわりがはだけたドレスで、革首輪レザーチョッカーをはめている。――どうみても警察官のようには見えない。


 シナモンとガスパーレが、タイピングしてまとめた操作概況を渡そうとすると、ふっと笑って、ダウンテールを宙に舞わせた。

「私は、毎日上がってくる親衛隊輸送機の報告を元に、シルハ警視庁内でプロファイリングほか、机上捜査を済ませている。とどのつまり犯人の目ぼしは、すでについているというわけです。――犯人は、第一発見者、測量士のカシー・エルミート!―― そのくらいおわかりにならなくて、レディー・シナモン少佐?」

 女学生のような言葉遣い。


 ホルム警視の横柄な態度に、横で聞いていたラサロ博士は驚き呆れた。

「レディー・シナモン少佐は、《才媛》の二つ名を証明するかのように、これまで、警察が匙を投げた難事件をいくつも解決、考古学の世界でも、若年にして、学界史に残るいくつもの論文を提示してきた。――捜査に関し、ホルヘ警視が独自の見解を持っていても、敬意を払って余りあると思うのだがね」

 ラサロ博士は日に焼けた肌、頭の頂きが剥げているが、周囲はまだ白いものが残っている。少し出た腹。サングラス。――この人の学識や社会的な地位というものを知らな刈れば――どこにでもいるような初老の男性だった。

 

 挑戦的な令嬢警視が、

「お気に障ったかしら? これは申し訳ないことをしたわね。レディー・シナモン、わがホルム家とスタンリー家は宿敵同士。でも挨拶くらいはちゃんといたしましょう」


 ザ・ライト・オノラブル・レディー・グラシア・バルバラ・ホルム・オブ・ナゴタ。


 敬称を包み隠さず名乗るのが紳士淑女のマナーだ。

 警視は、小馬鹿にしたかのように、警察式の敬礼ではなく、少佐に向かってスカートの両袖をつまんだ宮廷風のお辞儀〈カーテシー〉をした。


 グラシア・ホルム。――ホルム家。レディー・シナモンの実家スタンリー家と同じ旧大陸の伯爵家か。――名前は忘れていたが、あのホルム家にも〈才媛〉と呼ばれる令嬢がいると聞いていたことがある。王立法科大学を首席で卒業し、警視庁に入ったという。だが、警視庁というのは旧大陸本国ではなく、新大陸だったのか。なぜ王都の警視庁に入らなかったのだろう? 都落ち? いや、あの服装からして破天荒さがよく判る。格式ばった王都では収まりきらなかったのに違いない。


 シナモン少佐と私・ブレイヤー博士は、ヒスカラ王都(旧大陸同名王国王都)の学術会議及び交流パーティーで、新団長ラサロと何度か言葉を交わしたことがあった。――人好きのする頭の禿げた新団長は、比較的協力的なようだ。その新団長ラサロ博士の口から、学術会議の意向が少佐に告げられた。


 ――特命調査官レディー・シナモン少佐とその一行は、三日以内に〈死都〉遺跡を発ち、次の遺跡に向かわれたし。


 それまでに、事件を解決しなくてはならない。


               ノート20230630

【登場人物】

01 レディー・シナモン少佐:王国特命遺跡調査官

02 ドロシー・ブレイヤー博士:同補佐官

03 ガスパーレ・ドミンゴ大尉:副王親衛隊士官

04 ケサダ・バコ博士:〈死都〉遺跡調査団長

05 フェリペ・ゼラノ博士:団長補佐

06 ナディア・バコ:団長夫人,カメラマン

07 カシニ・エルミート:測量士

08 アンドレス・バレス:測量助手

09 ロドリゴ・ラサロ博士:後任の〈死都〉遺跡長団長

10 グラシア・ホルム警視:新大陸シルハ警視庁から派遣された捜査班長。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ