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自作小説倶楽部 第26冊/2023年上半期(第151-156集)  作者: 自作小説倶楽部
第155集(2023年5月)/テーマ「喜び」
18/26

01 奄美剣星 著  『エルフ文明の謎 05』

【概要】

 カスター荘の事件を解決した考古学者レディー・シナモンと、相棒バディーを組むブレイヤー博士は、王国の特命を受けて飛行船に乗り、惑星の裏側にある新大陸へ向かう。新大陸には滅亡した〈エルフ文明〉遺跡が点在していた。ミッションはエルフ文明が滅亡した理由を調査することだった。そこで殺人事件が……(ヒスカラ王国の晩鐘 39/エルフ文明の謎04)


挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「密室」


    05 喜び


 蛇紋岩神殿祭壇広間。

「シナモン少佐、調査団長殺しのトリックが解明できたんですね?」

「解明というよりは実験です、ゼラノ団長補佐」

「ドロシー博士、では始めましょうか」

 私はうなずく。

 天井には、かつてシャンデリアがあったが、フックが朽ちて床に落ちてしまっている。

 女王の特命遺跡調査官である〈姫様〉、レディー・シナモン少佐は、新大陸副王庁から派遣されたガスパーレ大尉率いる副王親衛隊隊員らに護衛されている。調査団長殺しの捜査指揮権はこの人にあるわけだが、大尉はレディー・シナモンの考古学者としての名声と同時に、探偵としても名声を得ているということを知っていた。ゆえに大尉は、少佐に捜査の指揮権を託した方が、事件は早く片付くということを承知している。

 大尉は、部下の兵士に命じ、落ちたシャンデリアの横に脚立を置かせた。

 調査団長ケサダ・バコ博士が殺害された後、眼鏡のゼラノ団長補佐が、〈死都〉遺跡調査団のトップになっている。

 澄んだ発声はまるで歌劇のヒロインのようだった。黄金の髪を後ろに束ねた貴婦人が、

「ゼラノ団長補佐、脚立に上って懐中電灯を照らしてみてください。錆びた銅製のフックに、真新しい擦痕があります。ピカッと光りませんか?」

「はい、おっしゃるように、ありますね。これと事件にどんな因果関係が?」

「犯人は、かつてシャンデリアを吊っていたフックに、ナイフを結わえた糸をくくりつけたのです」

 ゼラノ団長補佐が脚立から降りながら、

「少佐、殺人犯のトリックなのですね!」

 その人が笑みを浮かべると、今度は、壁に備えつけた燭台の前に進み、燭台を支える青銅製アームに指さし、

「団長補佐、こちらにも同じく真新しい糸によるものと思われる擦痕がありますね?」

「確かに……。これは?」

「中継点として糸を引っかけた痕跡です」団長補佐が壁の燭台に近づいたとき、すでにレディー・シナモンは、団長が倒れていた地点の床に移動、しゃがんだ。―― 一連の所作は流れるようで、ガスパーレ大尉をして、「まるで舞いを見ているようだ」と言わしめるものだった。団長が倒れていたのは、甲殻虫製円盤の前だった。たぶん団長は、これの前でしゃがみこもうとした。そこで仕掛けられたトラップの糸に足を引っかける。トリガーの役割になる壁架け燭台にセットされていたナイフが外れる。ナイフは天井から吊り下げられた糸にくくりつけられている。それが円運動を描いて遠心力をつけ、円盤前でしゃがみこんだ団長の背中から心臓に向かって、グサッと刺さった――ということになる。


 レディー・シナモン少佐の指示のもと、私・ブレイヤー博士とガスパーレ大尉が手伝って、トラップ仮説から、発動を再現してみた。――実験は成功――だが〈姫様〉は少し不満のようだった。

「ナイフにくくりつけた糸の遠心力を利用して、被害者を負傷させることは可能ですが、致命傷を負わせるにはやや威力が弱い。――とはいえ、これに代わるアイディアは、今のところ見い出せません。さしあたりは、この仮説を犯行の手段としておきましょう。それにしても……」


 紺碧の瞳をした貴婦人が、傾げた小首の頬に片手を当て、困った顔をした。

「犯行現場であるこの密室に、トラップの糸やナイフは残されていません。犯行直後、犯人は、トラップの糸やナイフを回収し、どこかに持ち去ったということになります。するとこの密室には、測量士カシニ・エルミート氏と測量士補アンドレス・バルス氏が平板測量をしていた位置から見えるはずの、正規の入口ではない、隠し扉のようなところから、脱出したことになります。――そして、そもそも、なぜ犯人は凶器を放置せず、回収して逃げる必要があったのでしょうか?」

「確かに変な話しだ」

 ノッポなガスパーレ大尉と眼鏡の団長補佐が同時に呟いた。

 ガスパーレ大尉が、「貴様ら、《隠し扉》がないか壁や床をよく探せ」

 親衛隊員が、慌ただしく動き出す。


               ***


 遺跡調査団テント村。

 作業従事者たちの夕餉支度ができている。査察役であるレディー・シナモン少佐と私・ブレイヤー博士、そしてガスパーレ大尉は、団長補佐および団長殺しの嫌疑がかけられている三人と同席することになった。

 テーブルには、トリの揚げやソテーを山盛りにした皿があった。

「ゼラノ団長補佐、これはまた豪華なお料理ですね。これだけのトリ肉をどこで調達なさったのです」

「近くの村から分けてもらいもしましたが、発掘作業が中止になったので、手の空いた者達で狩りに行ったようです」

 エルミート測量士が、我がことのように自慢げに、

「僕の横にいるバルスは、弓矢競技の選手で百発百中。水辺で飛び発った水鳥を三羽も仕留めたんですよ」

 中年になりかけているハンサムな測量士は、助手である小太りした若い測量士補の背中を叩いた。

 測量士補は、

「ナディアさんの投石にはかないません。ナディアさんは五羽も仕留めたんですからね」

「投石ですか?」レディー・シナモンが目を丸くしつつ、団長夫人の方へ目をやる。


 ナデイァ・バコは、銅色に焼けた、長身で四肢がすらりと伸びたアスリート体型の女性だった。遺跡調査団のカメラマンをしている団長夫人は、さすがに、夫をなくしたばかりなのか、物憂げな表情だった。


 食後の余興として、ナディア夫人に、投石の実演をしてもらうことになった。

 直接投げるのではなく、棒についた細長い布に石を載せ、振りかざすときの遠心力で、勢いをつけて遠くへ飛ばすのだ。――旧大陸ノストにあるヒスカラ王国本国ではマイナーだが、同大陸の大半を占める連合種族帝国によって滅ぼされたいくつかの王国では、メジャー競技だったところもある。夫人は投石競技の選手だったという。


 ナアディア・バコは、祖国が帝国に併合される直前、彼女は家族とともに、ヒスカラへ避難した。王国では美術学校写真科でカメラ操作を学び、新大陸エルフ文明研究者だったケサダ・バコ博士と出逢い結婚。夫が〈死都〉の調査団長を拝命すると、二人してステージェ大陸群にある、副王領シルハへ渡ったのだ。


                                   ノート20230525

【登場人物】

01 レディー・シナモン少佐:王国特命遺跡調査官

02 ドロシー・ブレイヤー博士:同補佐官

03 ガスパーレ・ドミンゴ大尉:副王親衛隊士官

04 ケサダ・バコ博士:〈死都〉遺跡調査団長

05 フェリペ・ゼラノ博士:団長補佐

06 ナディア・バコ:団長夫人,カメラマン

07 カシニ・エルミート:測量士

08 アンドレス・バレス:測量助手

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