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自作小説倶楽部 第26冊/2023年上半期(第151-156集)  作者: 自作小説倶楽部
第154集(2023年4月)/テーマ「永遠」
14/26

01 奄美剣聖 著  『エルフ文明の謎 04』

【概要】

 カスター荘の事件を解決した考古学者レディー・シナモンと、相棒バディーを組むブレイヤー博士は、王国の特命を受けて飛行船に乗り、惑星の裏側にある新大陸へ向かう。新大陸には滅亡した〈エルフ文明〉遺跡が点在していた。ミッションはエルフ文明が滅亡した理由を調査することだった。そこで殺人事件が……(ヒスカラ王国の晩鐘 39/エルフ文明の謎04)


挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「密林の神殿」

   04 永遠


 〈蛇紋岩神殿〉の広間で発見された遺跡調査団長ケサダ・バコ博士の遺体。背中から鋭利な刃物で刺された団長が、死の直前、しゃがんで見つめていたと考えられる金属のような有機物のような、錆びていない未知の物質でできた円盤とは何のだろうか? 円盤は、直径が人の丈ほどもある大きなものだ。


 事件発生の翌日、大きな円盤について、眼鏡の団長補佐フェリペ・ゼラノ博士が、〈死都〉の外れにある奇妙な地下施設に、特命調査官レディー・シナモン少佐、副王親衛隊ガスパーレ大尉、そして少佐の助手である私・ブレイヤー博士の三人を案内してくれたことで、皆が得心した。


 地下施設には、屋根の軒先に設置される雨樋あまどいくらいの幅の狭い溝が五条、規則正しく並んでいて、水が流れていた。――ところどころ破損し、横倒しになっているところがあるものの――問題の円盤とよく似たものが、溝一条につき五枚ずつ配列されていて、いまだに回転しているものがあった。

 つまるところ円盤は、樋の水流で回っていたのだ。

 では何のために?


 ――水車の一種だろうか?――


 少佐はうなずくと、我々に、円盤外縁を縦に見るように言った。

 円盤の厚みは人の手の幅と同じくらいある。外縁には、確かに水車の〈水受け〉がついていた。特筆すべきは、円盤の芯棒をはめ込んだ両側の支柱で、そこから細い、銅線のようなものが伸び、部屋の一隅にある配盤に向かっていた。


 眼鏡の団長補佐は、我々三人をさらに、地下施設に近い塚に案内してくれた。

「破損した円盤の廃棄場のようです」

 落ち葉や腐葉土を除けると、おびただしい数の円盤が現れたわけだが、その中には、円盤になり損ねて複眼のような突起がついたもの、巨大昆虫の蛹のようなものもあった。


 ――円盤は金属じゃなくて巨大昆虫の成虫。恐らくは遺伝子操作で、人工的に生み出された生物なんだ!――


 すると我々が〈蛇紋岩神殿〉と呼んでいる建物跡は、宗教施設とは異なる用途で機能していた可能性が生じる。


 我々は〈蛇紋岩神殿〉の発掘現場に戻った。

 遺跡発掘調査は、団長を荼毘にふした後、団長補佐フェリペ・ゼラノの指揮のもとで再開されることになっている。それまでの間、関係者は若干、暇になる。――できれば調査再開までに事件を解決したいものだ。シナモン少佐は、関係者を集めて殺人事件発生時の状況を再現するため、調書を取り始めた。


              ***


 遺跡調査のルーティーンは、遺構に被った土砂を除去することから始める。その過程で、遺物があれば念のため、写真を撮り、位置情報を図面に記録。そして構造が露わとなった段階で、改めて写真や図面で記録にすることになるのだ。


 カメラ撮影は、屋外であれば陰影コントラストの弱い曇り日に行い、室内であれば、ライトや反射板を用いて明るくする。


 他の関係者たちからの話しだと、昨今、カメラマンであるナディア夫人は、殺害されたご亭主の団長と不和であったとのことだ。容疑者としてリストアップされていた三人のうちの一人だ。


 〈蛇紋岩神殿前〉でシナモン少佐が、

「ナディア夫人、この度はご愁傷様です。――御心中お察しいたしますが、御主人が亡くなった時間帯、何をなさっておられましたか?」

 未亡人となったはずの彼女だが、目を腫らしている様子はなく、謎の笑みまで浮かべていた。顎をしゃくり上げた先には、真鍮製パイプを組んだ櫓が立っている。二・五メートルの高さの階段を上ると足場ステップにたどり着き、一段となる。それが五段にもなっている。頂は地上よりも風が強く、櫓のフレームが軋む音がする。気の弱い男が一二・五メートルもの高さに上ると、足がすくんでしまうものだが、ナディア夫人は気にもとめずに、撮影をしていたようだ。


「――その時刻、私は、櫓の上から|《蛇紋岩神殿》前から伸びている大通りの撮影をしておりましたわ。道路跡のような長い遺構は、道の端と反対端から撮影するのがお決まり。ちょうど反対端撮影を終え、降りようとしたところで、作業員さんのお一人が事件を報せて下さいましたの」


 頭にバンダナを被っていた夫人は、モスグリーンのつなぎ作業着で、スニーカーを履いていた。撮影用具一式は、数台のカメラを収めるギャジットと、三脚撮影台。これらを作業員さの手を借りて、櫓の頂にある足場に上げ、そこから撮影するのだ。


 周囲にいた作業員たちに訊くと、確かに夫人は櫓の上にいたとも、自分たちは手伝っていたとも証言した。――文句なしのシロだ。


               ***


 図面作成は、全貌を投影する百分の一から詳細な十分の一縮尺で描かれ、もっぱら二〇分の一縮尺が、平板やレベルといった測量機を用いて、方眼用紙に描かれる。


 カシニ・エルミート測量士とアンドレス・バルス測量助手は、《蛇紋岩神殿》内部にある小部屋に散らばった遺物を測量していた。小部屋は、通路を挟んで、問題が生じた広間にあった。

 すでに遺物は、カメラ撮影がなされており、一個一個整理番号が付され、位置が測量されると同時に、作業員が、番号を付けた小箱に収めていく。――これにより図上復元が可能になるというわけだ。


 ――遺物分布図作業は中断され、遺物回収も当然、中断されたままだった――


 カシニやアンドレス、遺物回収を手伝った二人の作業員たちから話しを聞くと、犯行時刻、通りの向こうの広間で悲鳴が聞こえ、平板測量をしていたカシニが鉛筆を置いて、広間に駆け込み団長の遺体を発見することになる。


 ガスパーレ大尉が、

「すると、犯人はカシニ君か?」


 第一発見者であるカシニ測量士は、夫人と不倫関係にあったことが夫である団長にバレており、最重要参考人だ。

 また、カシニに続いて広間に入ったアンドレス測量助手は、数日前、団長から遺物窃盗の嫌疑がかけられ、揉めていた。カシニと共謀した可能性も否定できない。


 シナモン少佐は、ガスパーレ大尉や私を使って、補則やメジャーから得た数値を、野帳フィールド・ノートにドット(点ノ刻)を落としてゆき、略図を作っていった。


              ノート20230430

【登場人物】

01 レディー・シナモン少佐:王国特命遺跡調査官

02 ドロシー・ブレイヤー博士:同補佐官

03 ガスパーレ・ドミンゴ大尉:副王親衛隊士官

04 ケサダ・バコ博士:〈死都〉遺跡調査団長

05 フェリペ・ゼラノ博士:団長補佐

06 ナディア・バコ:団長夫人,カメラマン

07 カシニ・エルミート:測量士

08 アンドレス・バレス:測量士補

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