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自作小説倶楽部 第26冊/2023年上半期(第151-156集)  作者: 自作小説倶楽部
第153集(2023年3月)/テーマ「インフルエンサー」
13/26

04 らてぃあ 著  『僕と彼女の景色』

【梗概】

SNSの一幕


挿絵(By みてみん)

(C)インフルエンサー

 皆彼女を誤解しているんです。

 彼女は内気で大人しい女の子でした。いいえ。大人になった今でもそうです。派手なメイクや服装も虚勢でしかありません。

 初めて会った時のことは今でもよく覚えています。ぬうっと、ゴボウのお化けが僕の目の前に現れました。ぼさぼさの髪に何故か前髪だけ斜めに切り取られ、日焼けしたはちみつ色の顔の中で目だけがぎょろりと動いて僕を見つめていたんです。思わず腰を抜かしそうになりました。

「なあに? コレ」

 痩せた色黒の少女は後ろにいたおばあさんに聞きました。

「コレ」という表現に僕はショックを受けました。実家の母の友達の女の子たちは当時の彼女よりは年上だったとはいえ、いい匂いがして、会うたびに優しく僕の頭をなでて微笑んでくれたものです。とても同じ人間の女性とは思えませんでした。

「今日からメイちゃんの弟だよ。名前は--」

「弟なんていらない」

 ぷうっ、っと頬を膨らませて彼女はそっぽを向きました。

 あまりのことに僕が抗議の声を上げると彼女は僕をひと睨みし、勝手口からサンダルを履いて飛び出して行きました。

 勝った。と思ったのもつかの間。取り残されたおばあさんは言いました。

「ごめんねえ。でも、悪い娘じゃないんだ。辛いことがたくさんあって、ひねくれちゃったんだよ。あの娘とたくさん遊んであげてね」

 おばあさんの言葉は本当でした。両親の離婚後に彼女はおばあさんの家で暮らし始め、学校になじめず家に引きこもっていたのです。おばあさんは高齢で足を悪くしていました。僕を引き取ったことはさらなる負担でしたが、それでも孫娘の心を少しでも和らげようとしていたのでしょう。

 それから、僕たちは一緒に暮らし、いつの間にか隣にいるのが当たり前になっていました。彼女は何とか進学しましたがそれでも学校になじむことが出来なかったようです。

 そんな彼女がSNSというものを始めてフォロワーという友達が出来たと聞いた時、僕はすごくうれしかったです。最初の投稿動画は僕と彼女の散歩道にある桜並木でした。春の暖かな日差しがうれしくて僕は花びらをまき散らして走り回っていました。

 以来、彼女は僕を出演させて動画を作るようになりました。僕のお気に入りのボールが売り切れになった時、彼女は「やった。あたしたちインフルエンサーだよ」と喜んでくれました。あの頃、彼女は本物の僕ではなく動画を見る時間が長くなりましたが、よく笑って幸せそうでした。

 それがおかしくなったのは彼女が『さいせいかいすう』というものを気にして、アドバイザーという男と友達になってからでした。

 アドバイザーは僕に芸をさせるだの、花火を引っ張るだの提案しましたが、もちろん僕はすべて拒否しました、アドバイザーは『駄犬』と僕を罵りました。ゴボウではなくなった彼女を時おり変な目つきで見るアドバイザーが僕は大嫌いでした。

 でも、アドバイザーを追いだすこともできず僕は自分の無力さに何度も歯噛みしました。

 彼女とアドバイザーが新しく作った動画は燃えてしまったようです。火遊びは危険です。彼女もようやく怖いことがわかったようでアドバイザーに投稿を止めると言って喧嘩になりました。

 僕はその時が彼女のために何かできる最後の瞬間だとわかったのです。僕は歯が折れるのもかまわず力いっぱいアドバイザーの脚に噛みつきました。


「うわ⁈ ネットで事件のことが変な方向に炎上してる」

 管内で起こった事件についてのSNS投稿を見た刑事は目をむいた。背後から先輩刑事が覗き込む。

「えっと、『迷惑男なんて犬に噛まれる価値もない』『ワンコ偉い。よくやった』『殺処分反対の署名を求む』。え? 殺処分なんて話どこから出たの?」

 かつてSNSで元気で癒される愛犬の姿を投稿して人気を集めていた女性がいつしか、自称投稿アドバイザーの男に乗せられて迷惑動画を投稿するようになったのが事件のきっかけだった。

 投稿された迷惑動画は当然炎上し、二人は批判の嵐にさらされた。仲たがいして女に暴力を振るったところ、怒った老犬が男に噛みつき、犬を振り払おうとした男は転倒、騒動で近隣住民に警察を呼ばれた。警察的には痴話喧嘩で終わらせようとしているが衆目が集まりすぎてやりづらい状況になっている。

「男はともかく犬の怪我はどうなったの?」

「あ、SNSに投稿されてますね。何とか無事だって、うわ、あの女性が泣きながら謝ってる」

 新しい投稿は見る間に再生回数を上げていた。


     『僕と彼女の景色』完

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