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自作小説倶楽部 第26冊/2023年上半期(第151-156集)  作者: 自作小説倶楽部
第153集(2023年3月)/テーマ「インフルエンサー」
10/26

01 奄美剣星 著  『エルフ文明の謎 03』

【概要】

 カスター荘の事件を解決した考古学者レディー・シナモンと、相棒バディーを組むブレイヤー博士は、王国の特命を受けて飛行船に乗り、惑星の裏側にある新大陸へ向かう。新大陸には滅亡した〈エルフ文明〉遺跡が点在していた。ミッションはエルフ文明が滅亡した理由を調査することだった。そこで殺人事件が……(ヒスカラ王国の晩鐘 38/エルフ文明の謎03)


挿絵(By みてみん)

挿図/(C)奄美「密林にて」

    03 インフルエンサー


 ――先住民エルフの王都〈死都〉比定地――


「火災跡?」

 特命遺跡調査官レディー・シナモン少佐に、そう呟きかけた私だったが、前言を撤回した。

 すると、横にいたガスパーレ大尉が、

「ドロシー博士、自分も、ここ〈死都〉が火事に見舞われたと思いましたよ。違うんですかね?」

「遺跡を密林が覆うことで、遺構群が保護していた。だが撮影や測量といった調査を行うには、樹木や植物は邪魔になる。そのため現地開拓村で雇った作業員に命じ、鉈で払ってもらい、処々で焼いた痕ができ、あたかも火災があったように見えるのです」

 護衛役の大尉は得心したようにうなずいた。


 深緑に白い筋が入って、蛇の鱗のようになった変成岩を蛇紋岩という。旧大陸ノストでは各種族を問わず古来より魔力があるとされてきたが、暗黒大陸群シルハ大陸〈ステージェ〉における、滅亡した、エルフ文明においても同様だったのだろうか。外壁の前を列柱で飾る切り出した蛇紋岩を積んで構築した大型建物は、神殿跡と推定されている。


 眼鏡をかけた団長補佐の調査員フェリペ・セラノの案内で、少佐と大尉そして私の三人が通された〈神殿〉の広間が、調査団長ケサダ・バコ博士殺しの現場だった。

 建物の外には発電機が置かれている。そこからコードが引き込まれ、内部の照明器具に接続、ライティングされていた。フェリペ氏によると、殺人事件が起きた状態のままだという。

 広間に通じる入り口は、外から見て右に寄った場所に設けられている。中へ入ると正面に祭壇と考えられる施設がある。


 団長の遺体は、金属のような有機物のような、錆びていない未知の物質でできた円盤の前で、屈んだ格好で、横向きに倒れていた。団長はその円盤を観察するために屈んだ。そこで何者かに背中からナイフで心臓を刺され、致命傷を負わされている。――明らかに犯人が、団長を刺殺した後、抜き取った痕だ。


 シナモン少佐は天井を見上げた。

 広間の中央の床には、天井から落ちたと思われる燭台が落ちている。燭台を吊り下げる青銅製鎖の先端についたフックが朽ちて壊れていた。かなり昔、燭台は風化によって落ちたのだ。

 若い貴婦人から脚立を持ってくるように指示を受けた、偉丈夫のガスパーレ大尉が、部屋の外にあったそれを運んできて、燭台の横に立てる。

 少佐に、私が、脚立を上って天井の吊り下げフックを観察すると、真新しい擦痕があるのが判った。

 ――違和感がある――


 少佐は、さらに内壁を回り、四面に設置された壁掛け式になっている補助的な燭台にも目を通した。すると、出口から見て左奥の壁に設置された燭台のアームにも、真新しい擦痕があった。


 ――なるほど!――


 黄金の髪を後ろで束ねた貴婦人は、もう、犯人のトリックを見抜いたようだった。だが、小首を傾げた。

「変ですね、普通に後ろから団長を刺せたはずなのに、犯人はなぜこんな、トラップを仕掛けたのでしょう?」

 彼女が言う「なぜ?」こそ、恐らく、この殺人事件を解く鍵の一つなのだろう。


               ***


 レディー・シナモン少佐が、団長補佐の調査員フェリペ・セラノを介して、遺跡調査団全員を集めて事情聴取を始めた。

 団長が殺害された時刻は、昼食・シエスタ・タイムになろうとする午前一一時ごろで、団員四〇名が、殺人現場である〈蛇紋岩神殿〉に近い屋外で、作業をしていた。

 第一発見者は測量士のカシニ・エルミートという青年だ。カシニの話しによると、助手の作業員と遺構の一つを平板測量していたところ、悲鳴を聞いて犯行現場である、広間に入ったが、すでに団長はこと切れていた。周囲に誰かいたかを聞いてみたが、誰もいなかったと答えた。

 他の団員たちは、面食らったカシニが外に飛び出してきて、惨状を報せるまで屋外にいた。

 各団員たちから個別に話しを聞くところによると、殺害された団長ケサダ・バコ博士に、恨みを抱いている者は、団長の御内儀でカメラマンとして調査に参加しているナディア・バコという女性と、測量助手のアンドレス・バルスという中年の男を挙げた。

 二人は、屋外の作業現場にいたというアリバイがあるが、近ごろのナディア夫人は団長と不仲になって口論が絶えなかったとのことだ。次に、測量士補アンドレスだが、発掘中の遺物が紛失したとき、窃盗を疑われてやはり口論となり、以来、仲間に不平を漏らしていたとのことだ。

 カシニ青年に話しを戻すと、彼にはアリバイがない。しかもナディア夫人とできている。――密林に埋もれた未調査エリアの遺構を逢瀬の場所としているところを、団員たちが時折見かけたというのだ。

 

 捜査に立ち会ったガスパーレ大尉が、

「帰納法的に、測量士カシニ・エルミートが、不倫相手・ナディア夫人との仲を被害者である夫・団長ケサダ・バコ博士に咎められ、殺害に及び、第一発見者となった」

「けれども広間にはトリックがあった。カシニを犯人に見せかけるための偽装に違いない。――姫様はそうお考えでは?」

 紺碧の双眸をしたその人が肯首した。


 そんな我々三人の後ろで、

 眼鏡の団長補佐フェリペ・セラノが、

「――なんてことだ。《蛇紋岩神殿》は、エルフ文明|《死都》の目玉なんだ。こんな形で世界に発信されたくない」

 と呟く声が聞こえた。


 ノート20230328

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