表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場の皇帝と呼ばれた少年 ~500年後に転生して学園に通う~  作者: 今汝
第一章 始まりは終わりと共に
5/28

第一章3  『育たない乳』

2話の続きです。

あれから俺は『東亜大学前』という駅に向かい、『有栖川 四葉(ありすがわ よつは)』と名乗る少女と共に電車に乗った。電車といっても、500年前とは全く違う形状になってる...どうやら空気抵抗をなくすため、真空のガラスの筒の中を走っているようだ。


 俺は彼女の隣に腰かける。


 (しかし、だ。 高校に行くとは言ったが、高校って何をするんだ?)


 俺は電車の窓の外の高層ビル群を見ながら考えた。


 ほとんどの時間を戦場で過ごしていたせいもあって、高校がどのような場所かピンとこなかったのである。俺が500年前に通っていた士官学校のようなところだろうか。


 そして何故か四葉は、先ほどからそんな俺にちょくちょく、不思議なものを見ているかのような視線を向けてくる。


 最初は気のせいだと思ったがしばらくして確信した。



 なるほどな、少しおちょくってやるか―――――


 (四葉はなかなかいいスタイルをしているのに、胸はあまりないんだな。)


 俺はそう心の中で呟いた。


 ちらと隣を見る。


 そこには顔を真っ赤にして、きつい目つきでこちらを睨んでいる四葉の姿があった。


 「やはりそうか、『伝心(サイコメトリー)』... いいものを持っているんだな。」


 相手の心を読める能力だ。先ほどから俺の心を覗いていたのか。


 「...」


 四葉はまだ怒っているようで、何も答えようとはしない。俺が彼女の表情を楽しんでいるうちに、『首都広場前』に電車が止まった。


 乗った駅から15分といったところか―――


 俺と四葉は改札を抜けると高校の方へと足を向けた。幸い、高校へのルート案内が電光掲示板に表示されていたため迷うことはなさそうだ。精算も、家を出るときに彼方に貰ったカードで簡単にできた。


 駅を出るとそこは広場だった。中央には大きな噴水がある。周りを高層ビルに囲まれているため、大きなコップの底にいるような感覚だ。


 平日だが、沢山の人でにぎわっている。


 人込みの中を通って俺たちは、終始無言のまま学校へと向かった―――――



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「着いたな。」

 

 「...ついた...」


 俺と四葉は順に呟いた。


 ここは高校の前。墨の字で『東亜国立高等学校』と書かれた立派な校門の奥には、大きなレンガ造りの校舎が悠然と佇んでいる。周りがコンクリートの高層ビルばかりということもあり、ここだけ昔にタイムスリップしたような光景だ。少し遅く来てしまったからか、生徒は少ない。


 「少し急ぐか。」


 「...うん...」


 案内板を見て、急ぎ足で入学式会場へと向かう―――――


 「機嫌は良くなったか?」


 「...少しは...」

 

 少々間を開けた後、出会った時から変わらない淡々とした声で四葉は答えた。そして同時に少しうつむき、神妙な顔つきになった。


 「―――――い、いやじゃないの?...」


 いきなりの彼女からの質問だった。


 「何がだ?」


 「―――――その... 心を読まれて...」


少し戸惑っているようだった。彼女自身、自分の能力を気にしているようだ。今までに、辛いことがあったのか―――――



 「少なくとも俺は気にしていないぞ。」


 俺は一度立ち止まり、四葉の目をしっかり見据えながら言った。


 (今までも色々な能力を見てきたからな。)


 少し口... ではなく「心」を滑らせてしまったが、まあいいとするか。


 迂闊に色々回想すると彼女に情報がだだ漏れになる。


 とっさに俺は頭の中の電気信号を暗号化させた。

 こうすればほとんど読まれることはないだろう。

 

 (俺の推測からするとこいつは俺の正体を知ってるようだから、心を読まれても別にいいんだが)


 「...怖くない?... 気にしない?... ほんとに?...」


 「ああ、本当だ。俺も少しおちょくりが過ぎたな、悪かった」


 「...ううん、いいいいの、ありがとう...」


 そういうと彼女は、ふふっと軽く声をもらし、少しばかり微笑んだのだった―――――



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「えー、以上を持ちまして入学式を閉式いたします。」


 司会の女子生徒が言った。場所は大きな講堂、入学式は俺が思っていたものとさほど変わりはなかった。いくら長い間戦場にいたとはいえ、学園ものの本の一冊や二冊くらい読んだことがあるからだ。


 生徒会長の「新入生の皆さん、入学おめでとう。」から始まる挨拶―――


 校長の長い話―――


 参列者の人たちのほぼほぼ同じような文の式辞―――



 そんなものが続き、入学式は普通に幕を閉じた。そして、俺の席の隣に座った四葉は、終始うとうとしていた。髪がぽわぽわになっている。


 「四葉、終わったぞ。」


 式が終わっても彼女は寝ぼけまなこであった。ほかの生徒は、もうとっくに出口に向かっている。


 「...ん...」


 目をこすりながら、きょろきょろと周りを見渡していた。


 「...うん...」


 彼女はようやく立ち上がった。



 出口では、在校生が何やら生徒一人一人に札を配っている。


 「はーい! そこの黒髪のイケメン君と、キュートで可愛いお姫様は二人ともF組ねー!」


 話しているのは出口にいた在校生らしき女子生徒だ。周りに他の生徒はいないため、俺らのことをいってるのか。


 それと、「キュート」と「可愛い」は意味がダブっている。


 「入学そうそう、お付き合いなんてぇー! もうっ! ラブラブなんだからー!」


 ちょっと言ってることがよく分からないが、とりあえず「F」と書かれたキーを受け取る。


 「どうも」


 「あぁーん! 言葉遣いが、冷酷ぅー! こんな彼氏さん持って幸せねー!」


 女子生徒は、目をハートにしながら今度は四葉の方を向いて言った。


 これは恋に恋しているといった感じだろうか...



 「...付き合ってなんかない...」


 そう言うと、四葉はあきれたのかスタスタと教室の方へと歩いて行った。



 「すみません、あいつはそういう...からかいとかが苦手みたいで。」


 「そっか――――― ごめんね... あの子にも謝っておいてくれないかな。」


 先ほどとは変わり、女生徒は少々申し訳なさそうな顔をした。



 「分かりました、言っておきます。 さて... 俺も行くか。」


 「ありがとう、引き留めて悪かったね。じゃ、頑張って!」



 「頑張って」の意味することがよく分からなかったが... 彼女を背にし、急ぎ足で四葉に追いかけた。


 まあ、追いかける必要もないか。 


 同じクラスだしな。


 そして...


 (四葉、どうせ聞こえているのだろう。 これから同じクラスだ。 よろしく頼む。)


 心の中でそう呟いた。

 勿論暗号化せずに。



 同時に、校舎の柱の陰で、やられたといわんばかりの顔をして、こちらを向いている四葉を見つけたのだった―――――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ