第一章 『雨の日Ⅵ ~逆襲~』
「お前たちの敗因は二つ」
その人かげ、皇帝一は私たちに暗く語りかけてきた。
「一つ―――」
そういうと同時に彼は懐から拳銃を取り出し、あらぬ方向へと射撃した。言葉通り適当に。
普通なら当たることなど絶対にありえない。
しかしダメだ――― 分かっている。
銃声と共鳴した弾丸は理解不能な軌道を描き、システマの太ももを貫いた。
叫び声をあげ、倒れるシステマ。
「システマ!早く能力の解除を!!!」
「ご、ごめん、無理かも... 計算が...追いつかない」
息絶え絶えになりながらもシステマが答える。
彼女の魔法の能力は莫大な計算量が必要になる。よって、その解除にも発動と同程度の時間がかかってしまう。
「俺には先ほどの攻撃は通じなかった」
彼は独白を続ける。
(分かっている!!反撃、反撃しなくてはッ!!!)
剣を持つ手が震えている。
私は彼に切りかかった。攻撃は当たる。
しかし、それを避けようとも防ごうともしない。
(き、切り刻んであげるわ!!!)
数え切れぬほどの連撃、当たっている、当たっているにもかかわらず傷一つつかない。否、とてつもない速度で肉体の再構築が行われているのだ。
分かっている、先ほどの攻撃がアレクシアが出せる最大火力の魔法――― それそれ以下の攻撃でいくら仕掛けようと、それは意味をなさないことを。
不条理。
この言葉が適当だろう。
無防備な彼と、それを痛めつける私。
しかし、その内実は彼が強者であり、私は弱者。
「二つ―――」
再び彼は拳銃を掲げた。
「や、やめッ―――」
「システマの定義は人物を特定できない。つまり『攻撃が必ず当たる』というのも、その場にいる全員が対象だということだ」
銃声の鳴ったその瞬間、私の意識は途絶えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(一応急所は外したが―――)
「それで、どういうつもりだ?」
俺は倒れて気を失っている二人を横目に、後ろを振り返って言った。
「見ての通り、としか」
(合成音声か―――)
そこに立っていたのは、仮面をかぶった小柄な二人。
西欧軍ではない。俺たちの国、東亜連合の軍服。
無地の漆黒が、曇った空と共鳴し異様な雰囲気を醸し出している。
彼らの手には拳銃が握られており、銃口が向く先は俺。
「我々は東亜連合国軍零番隊、最高人民議会からの要請により貴方を処刑致します」
この日、世界から一人の兵士の名が消えた―――
彼の名前は『皇帝一』。
その様子を怯えながらただ見ていた少女がいた。
以降、彼女を見たという人もまた、いなかったという―――
過去回想編、一度ここで終わりです。長くなってしまいましたが、次回から本筋に戻ります!




