第一章 『雨の日Ⅴ ~逆襲~』
「ぐはっっっ!!!」
口から血を吐いて倒れるアレクシア。出血で地面が赤く染まる。これでは戦闘継続は不可能――― いや―――
「あはは、アレクシアってば初っ端から能力を使わないからそんなことになるんだよー」
システマは変わらずに余裕な表情を浮かべていた。
「そ、そうね... そんなことより...早く...してくれないかしら...」
「はいはい、りょーかい!」
システマが空中に手をかざすと、刹那、彼女を中心とした円形の光の球体が出現し、俺たちを飲み込んだ。
回避できるものではなかった。その広がりは光の速度を超えるもの。攻撃ではない、何らかの状態を世界に付与する魔法。
光球はやがて収束しまぶしさは消えた。
変化はない――― ただ一点をのどけば―――
「―――さあ、続きをしましょうか」
アレクシアが服についた土を払い剣を片手に立ち上がったのだ。そこには先ほどと変わらない彼女の姿があった。傷は癒え、まるで何もなかったかのように再び攻撃を仕掛けてきた。
俺たちは剣を交える。
「少しは驚いてくれたかしら?」
「ああ、見たところ回復系ではなさそうだな、世界に干渉する力か」
「ご名答。死にゆく貴方に教えて差し上げますわ。彼女の能力は『定義変換』。この世の理を変える力よ」
「なるほどな、俺に勝ち目はないと?」
「そういうことですわ。この空間において『人称は心臓を刺されても死なない』という定義付けが完了している、だから私は死ななかった」
アレクシアは続ける。
「さあ、早いところお終いにしましょう――― さようなら。総てよ滅べ、電子消滅!!!」
俺の周りに大量の魔法陣が形成され、まるで歯車がかみ合うかのように回転を始める。たった一瞬の出来事。
音が消えた―――
光の渦が収束して莫大なエネルギーへと変換される。
俺は動かない。
その光は一瞬で何もかもを消滅させた。木も大地も人工物も、皆等しく消し飛ばした。
突風が吹き荒れ後に残ったのは、噴煙を上げる大きなクレーターだけ。
「終わったわね。あなたの能力と、私の魔法があれば敵なしだわ」
アレクシアの攻撃の前、システマは攻撃は必ず当たるという定義付けを完了させていた。結果彼、皇帝一は攻撃を回避できずに万物と共に消滅した。
「それもそうね、あのスメラギも大したことなかった」
アレクシアは剣をしまうと歩き出した。システマもそれに続く。
二人は大穴を迂回するように先へと進んでいく。
「それと、システマ。そんなに大人ぶらなくてもいいのよ、あなたは今のままでいいの。過去のことは忘れましょう。この間自分で破いたって聞いたときは驚いたけれど、あなたは純粋よ。定義がどうであれね」
「うっさいわね、行くわよ」
システマは顔を赤らめると、そっぽを向いた。
彼女は優しい言葉に弱かった。いままでそうされてこなかったから。
向かうのは東亜軍の前線基地、そこを落としたのち領土奪還に向けて本格的に動き出す。
ちょうどクレーターの真ん中近くまで回ってきた。
噴煙が収まってきてあたりがよく見えるようになった。
ふと、爆発跡を見る。
「―――なっ!?」
アレクシアは驚いた、爆発の直撃を受けたはずの中心部が、崩れ落ちずに残っていたのである。
それと同時に戦闘はまだ終わっていないことを直感的に感じた。
再び剣を抜き、システマを下がらせる。
人影が見えた。誰であるかは言うまでもない。
鋭い赤色の眼光、後ろに手を組んで余裕の表情を浮かべている。
まるで遊ばれているかのような感覚。
この瞬間、アレクシアは本能的に理解した。
私たちは狩る側ではなく、かられる側である、と―――




