第一章 『雨の日Ⅲ ~防衛戦~』
一時間後、俺の予想通り轟音と共に西欧の攻撃が始まった。
編隊を組んだ千機近い爆撃機が飛んでくる様は実に見事である。魔法防壁を纏い、その期待は青白く光って見えた。しかしその光景をあざ笑うかのように、空から数え切れないほどの歪な物体が、ものすごい速度で降り注ぎそれらを貫通していく。真っ二つに割れ、炎上する爆撃機たち―――
特別部隊副首席である蒼井悠斗の能力、『重力支配』によって地球の周回軌道を回るデブリを高速で落下させているのである。今から200年ほど前に考案されたという『神の杖』という兵器に通ずるところがあるだろう。物体を宇宙空間から地上に落下させることによって驚異的な威力と殺傷能力を生み出すことができる。
たとえ魔法防壁を展開していても防御できるのは魔法による直接攻撃だけである。魔法によって生じた物理的な攻撃は十分に効果を発揮するのだ。
後方から出方をうかがっていた戦車部隊はその動きを止めた。航空戦力の喪失は西欧側にとってかなりの痛手なはずだ。
それと同時に、戦場の地面から多数の噴煙が上がる。傍から見れば地中に埋めてあった対戦車地雷が爆発したように映るだろう。しかし否、それは地雷でもなんでもない。俺の能力『空間支配』によって生み出された粉塵である。これだけでも戦車の侵攻を躊躇わせ、良い牽制になるだろう。
小鳥遊の考えたこの作戦は成功と言っていい。
「問題は、二つ名持ちたちだね」
もちろん、西欧の強力な能力者たちのことだ。彼らが前線に出てくれば戦局が大きく変わってしまうことも十分にあり得る話だ。俺と小鳥遊は戦場の光景をじっと見つめていた。赤く染まった空見上げた小鳥遊は何処か不安そうだった。
「そうだな、そいつらが出てきたら俺と蒼井で対処する」
「分かった、くれぐれも無茶だけはしないでね」
俺は「ああ」とだけ返事をすると、戦場の中心へと足を向けた。さきほどから魔力反応が次第に大きくなっている。おそらく三人―――
俺は後方に待機している蒼井に通信を試みた。
『俺だ、蒼井。奴らが動き出した。お前は北側の一人の相手をしろ』
『了解。すぐに向かいます。そちらもご武運を』
しばらく歩いていると、黒煙に紛れて二人の人影が見え始めた。俺は煙を払いのけ視界を開いた。
長い金髪の女性と、もう一人も同じく金髪のショートカットの少女である。髪の長いほうは凛としたたたずまいで一切の隙が感じられない。短いほうもニコニコとしている割には戦場に立つ強者の匂いがした。
俺たちは向かい合うとお互いに足を止めた。最初に口を開いたのは長い髪の方だった。
「初めまして。お一人で来られるなんてさぞ大層なお方なのでしょうね。一応名乗っておきましょう。私の名は『アレクシア=レイ=スターリング』。殲滅帝と人は呼びます。貴方の相手になって差し上げますわ」




