第一章 『雨の日Ⅱ ~首都総攻撃戦~』
上層部からの指示はその場で待機とのことであった。撤退ではないのが妙に気にかかる。他の部隊との通信が取れないことも不自然だ。
「蒼井、臨戦態勢をとるよう皆に伝えろ」
「え、敵襲!?」
小鳥遊が割って入る。驚くのも無理はない。普段なら上層部から敵軍の位置などのデータが送られてくる。東亜連合国軍が開発した次世代型人工衛星『天眼』によって、一個人に至るまでの詳細なデータの取得が可能なのだ。そのため、ゲリラ戦というのは殆どなく、戦闘発生予想場所、敵軍の戦力、時間予測は今まであらかじめ伝えられていたのだ。
「そうだ、西欧が組織編成を始めた。前方の魔力反応が先ほどから大きくなっている」
「でも、上からその情報は来てないよ」
先ほどから通信自体は復旧しているものの、戦闘準備の連絡は来ていない。
「―――俺たちは捨て駒にされた可能性が高い」
「「っ!」」
小鳥遊やそばにいた蒼井、そのほかも事態を察した。
他の部隊と連絡が取れない理由も、彼らがすでに敵軍飲まれたとみるべきだろう。今まで上から連絡がなかったのも、俺たちの逃亡を阻止して敵の進行を抑える壁の役割をさせようとしていたからかもしれない。上層部は敵の反撃を予見していたが、それが予想をはるかに上回ったのだろう。俺たちを犠牲にしていったん体制を立て直し、再度首都陥落を実行するということである。
「あくまで仮定の話だ。戦闘準備をして損はないだろう、それに指示を無視して退却したとしても背後から攻撃を受けるだけだ。それは避けたい」
「そうですね、今は目の前の敵に集中しましょう」
そう蒼井が相槌を打つ。
「敵の兵力はどのくらい?」
「それがかなり多い。10万人規模なのは間違いない、厄介な奴らもいる」
敵の中には魔力量が突出しているものも数名いた。
彼らについては聞いたことがある―――
『殲滅帝』 『神出帝』 『破滅帝』
西欧ではそのように二つ名で呼ばれている軍人が存在している。俺が知っているのはこの三人だけだが他にも多数いるかもしれない。
彼らの特徴は圧倒的なまでの力である。一人で数千人と渡り合えるほどの戦力―――
(少なくとも2人はいる、多く見積もっても3人といったところか)
俺の魔力探知も万能ではない。特に人が密集している場所だと、個人個人の魔力を測定しにくいのである。
と、そんなことを考えながら俺は続ける。
「それに魔装戦車と爆撃機がそれぞれ1000機ほど、俺たちのいるところを爆撃した後に戦車で蹂躙するといった算段だろうな。小鳥遊、何かいい手はあるか?」
「私が参謀だもんね。分かった3分時間をちょうだい」
そういうと彼女は机へと向かい作戦を練り始めた―――




