第一章8 『光陰の流れ』
7話の続きです。
俺は士官学校の跡地にやってきていた。勿論、彼方、いや真波を探しに来たのだ。このあたり一帯は歴史的価値が高いとして500年前とほとんど変わらずに残されている。
真波と過ごした日々が鮮明に残っている。この時代では珍しい背の低い校舎と屋外のプール、静寂とした教室。時が流れても思い出は色あせてはいなかった。
(まあ俺は500年間の記憶がないから、昨日のように覚えてはいるんだが。)
彼女は訓練場で虚空を眺めて立っていた。
あたりは薄暗くなってきていて、屋内の訓練場には僅かな月明りが窓から差しているだけだ。
「やっぱりここにいたか」
「...」
真波は何も言わなかった。
「なあ、久しぶりに模擬戦でもしてみないか?」
思い出の残る場所に来たせいか、彼女とまた戦ってみたいという願望があった。勝手な思い込みかもしれないが真波も何か思うことがあってここに来たのだろう。
「...無理だよ、私が君に勝ったことあった?一回もないじゃん」
彼女は俺に背を向けたままぶっきらぼうに言った。
「そうだな、お前はずっと俺に勝てなかった」
挑発ともとれるその言葉に彼女はピクリと反応する。
俺たちは幼馴染でもある一方、お互いに高めあい切磋琢磨する間柄でもあったのだ。
「―――分かった、乗ってあげる。もし私が勝ったら、私のことはもう放っておいて」
「了解した。負けるわけにはいかないな。俺が勝ったら?」
「悪いけど、私が勝つからその心配はいらないよ―――」
真波は続ける。
「合図はこれが床に落ちたタイミングでいい?」
床から石の破片を拾うと、彼女はそれを適当に放り投げた。タイミングの是非をこちらに委ねることなく戦闘が始まりそうだが―――
「いいだろう」
その間、コンマ一秒にも満たなかったであろう。
よく響いたカランという音と共に、真波は姿を消した。
刹那、何もないはずの場所から弾丸がはなたれ、俺に向かって飛んでくる。
(ステルス迷彩か―――)
俺は一発目の玉を避けるとともに鉄筋の柱に触れ、剣を創出した。原子の配列を並び変えたのだ。その間にもあらゆる方向からの攻撃が続く。
作り出した剣でそれらを薙ぎ払っていく。
特殊に改造された銃なのだろうか、玉が異様な速度で放たれているため空気を切り裂くような異音が耳を刺激する。
(そこか―――)
俺は玉の弾道から、彼女の位置を特定し反撃に出た。
攻撃の合間を縫って彼女に迫る。
しかしそこには見えない壁があった。魔法を使わなければ探知できないほど薄く、しかし強力な壁。彼女の能力である『強障壁』が発動していたのだ。
俺はそれ察知して後ろに身を引いた。
この時代では一人で魔法が複数使えるようになったと話では聞いていたものの、実際に目の当たりにすると少し驚いてしまう。
「さすがだね、帝一君。それ以上前に出ていたら体がはじけ飛んでいたかもね」
(なかなかに物騒なことを言うな、しかしそれも昔と変わっていない)
こうなっては俺はどうしようもできない。あの壁がある以上、その内部への攻撃や魔法の干渉は一切できないのだ。このまま彼女の攻撃を受け続けるしかない。
万事休すである―――




