第一章7 『彼方の独白』
私は『いっくん』を、帝一君を見捨ててしまった。私はただあの場で、傍観していたのだ。恐怖で足が動かなかった。
あの時私が勇気を出していたら―――
あの時抗うことができていたのなら―――
500年たった今でさえ、あの光景が夢に出てきて頭がどうにかなりそうになる。
だから私は『いっくん』を蘇生させた。
500年という歳月をかけてようやく実現した。
長かった...
今まで何度失敗しただろうか。
「もう一回、もう一回、もう一回、もう一回、もう一回、もう一回...」
失敗するたびに涙が出てきた。
もう二度と、『いっくん』が目覚めることはないんじゃないかと思ったから―――
もう二度と、私を呼んでくれないと思ったから―――
だから、彼が起き上がったときは夢かと思った。
うれし涙を必死にこらえた。
『いっくん』は私のことを見て、誰だろうと思ったに違いない。
それもそうだ、私は500年前とは容姿が良くも悪くも変わった。遺伝子操作を繰り返し、生きながらえてきた。
分かるはずない。
だから、私が『小鳥遊』だと彼に告げ、そして謝りたかった。
いや、謝るべきだったのに―――
『私が小鳥遊だと知ったら、彼はきっと幻滅する』
そんな考えが頭をよぎった。一緒に過ごしたあの日々が消えてしまうような気がしてしまうのだ。
それを思うだけで胸が締め付けられて、空虚感に襲われる。
虫が良すぎるのもいいところ、そんなことは分かってる。
でも、どうすれば―――
そんな時思い立った。
『小鳥遊真波の人生はもう終わりにしよう』、と。
これからは、私は 『島波 彼方』 として生きよう。
そう決めた。
これからの私は今までの私じゃない。
変わろう―――
これから先ずっと私は『帝一くん』の為に尽くそう。
彼自身の幸せのために。
それは彼を見捨てた私への、せめてもの償いだ―――
―――さて、そろそろ家に帰ってくる頃だろうか。
うっかり『いっくん』と呼ばないようにしなくては。
「今日はどんなお話ししようかな。」
私は微笑み、そう呟いた。




