9 無所属。
俺は確かめる為にもう一度試す。
……やっぱり。
俺は自分の中から溢れる興奮を必死に抑えていた。
「エル!」
「はい!」
俺がいきなり呼ぶとエルはビクッとなって返事をする。
「どうしました? すごい嬉しそうな顔をしてますが、何かありました?」
むっ、いかんいかん落ち着け。
「この木材とんでもない性能があるぞ」
「へ? 鉄のように硬いって事ですよね?」
「それだけじゃない」
エルは俺の言葉にキョトンとして次の言葉を待っている。
1つ咳払いし俺は説明した。
「この木材は魔力を流せば硬さを変えられるんだ」
俺の言葉にエルは更にキョトンとして首を傾げながら答える。
「魔力を流すと柔らかくなるって事ですか?」
「それもできる」
俺は頷きながら答えた。
「じゃあ、建築材や武器には使えないのでは?」
はぁ~、何を言ってんだこいつは……。
「俺は『変えられる』と言ったんだ、この意味分かるか?」
エルは暫く考えて答えた。
「どういう意味でしょう?」
「いいか? しっかり聞いとけよ」
俺は前置きをして説明した。
「俺がいつも技をやるときに魔力の性質を変えてるのは知ってるよな? この木材はその魔力と同じ性質になるって事だ、柔軟性のある硬い木材にもなるし、燃えない木材にもなる、逆に燃えやすくする事もできる。 更に言えば折れにくい性質にもなる」
俺の説明を聞いているとエルは段々と真剣な表情になっていった。
「例えばこの木材で弓を作れば、初心者用から上級者の弓もしくは、最強の弓を作れるかもしれないって事だ、まあ弦は……この木の繊維なら切れない繊維になるかも? それも試したいな」
説明を聞いていたエルが口を開いた。
「あの……相手に魔力を流されたら攻略されるのでは?」
エルの言葉に俺がキョトンとしてしまった。
こいつは……教えた事を忘れていやがる。
「俺が教えた事を忘れてるな? 物に魔力を流して……」
そこまで言うとエルは思い出したのか口に手を当て声を出す。
「あっ!! すみません! 思い出しました」
そう言って頭を下げた。
「じゃあ言ってみろ」
俺が言うと咳払いをして喋り出した。
「……魔力を流し馴染ませ性質を変え固定する。 これが基本でした、固定すれば変えられる事は無いですね……すみませんゲームが変わったので忘れてました」
「ゲームが変わっても同じ運営が出してるゲーム、しかも以前より世界の理がリアルになってるんだ、魔力がある時点でそこは変わらん、更に言えば以前より魔力と言うモノの自由度が増してるぞ」
魔力を感じれば分かりそうな……あっ、いつの間にか魔力感知の熟練度が上がってたのか、それで俺は気付けた?
「魔力感知の熟練度は?」
「えっ? 一応感知はできますよ?」
俺は腕を組みながら答えた。
「ん~? 魔力感知で感じ取れば俺は気付いたが、エルは気付かなかったのか?」
「えっ!? もう魔力感知できるようになったんですか!?」
「まあ気付いたら? これは経験の差なのかな? ……分からん」
「ミクトさんが異常なんですよ」
笑いながら言うエルの頭に手刀を打ち込む。
「あイタっ! いきなりひどいですよ~」
頭を抑えながら文句を言った後、何かを思いついたような顔をした。
「これって魔力を流せば、誰でも伐採できるって事じゃないですか?」
「いや、それは無理だろう」
「どうしてです?」
「この木は斬って死んでるが、森の木は生きてるからだ」
「あっ、なるほど確かに」
以前のゲームでも生きているモノに魔力を流す事はできない、生きているモノ全ては自分の魔力を持っているからだ。
ただ1つの魔力性質なら流せる、それが精神魔法。
まあそんな魔力を流しても木を切る事はできないけどな。
それからはエルに木の皮から繊維を取り出すように言い、俺は生産に没頭した。
途中で俺も繊維を作ったりし結構な量を生産する事が出来、昼になる前には街に戻った。
街に戻った俺達は、昼飯までまだ時間があったので役所へ行く事にした。
街の中には東西南北それぞれに役所がある。
そりゃあこんなに広い街で1つだけだと不便だしな。
ちなみに俺達が居るのは南区で、街の出入り口になる門も全体では8ヵ所ある。
この街は高い建物が多いが役所が1番高い建物になっている。
「立派な建物だな、現実っぽく無くてよかった」
「はい、現実の役所っぽかったらテンション下がります」
綺麗な白を基調にし、装飾が綺麗だ。
ロビーに入ると広く沢山の受付や雑談スペース、エレベーターのような物まである。
受付へ行き声を掛ける。
「すみません、異界者ですが身分証の発行をお願いします」
「いらっしゃいませ、異界者の方ですね、ではこちらのオーブに魔力を流して下さい」
出されたメロン程のオーブに触れて魔力を流すと微かに光った。
「はい、では少々お待ち下さい」
そう言ってオーブを何かに嵌めて操作すると直ぐにカードを差し出して来た。
「こちらが身分証になります、無くされると再発行に1万G掛かりますので気を付けてくださいね。 では1000Gになります」
インベントリから銀貨1枚出して渡すと完了した。
エルも身分証を発行していなかったみたいで、その間に貰った冊子を読んで待つ。
この身分証結構便利だな。
買い物の時に身分証で支払いができるカードの役割もあるみたいだ。
今度銀行に預けよう。
エルの身分証発行が終わったので、俺はついでに土地の事を聞いた。
「どこにも属さない土地ですか? そうですね、少しお待ちください」
そう言って奥に引っ込み、巻いた紙を持って直ぐに戻って来た。
「こちらの地図でご説明します」
「ありがとうございます」
広げた地図を見ると周辺地図のようだ、大陸の地図を見たかった。
「こちらがサキドになります。 ここからここまでは中立地帯と呼ばれ、何処にも属していない土地になっております」
説明を受けて吃驚した。
3つの中立都市国家がある地域が何処にも属してないと言う。
「えっ? でもこの辺りはサキドの国土では?」
俺がそう聞くと受付嬢はフフッと優しく笑い説明してくれた。
「ミクト様、中立都市国家とは都市が国なので、街以外の土地は誰の土地でもありません。 ただし、街の外壁から100メートルの範囲内は国と言う事になっています」
マジで?
「じゃあ、この辺りに自分の家を建てても良いって事ですか?」
「はい問題ありません、しかし魔物等は居ますが」
「なるほど……」
魔物が居るのは俺としては問題ない。
それより…………うん、悪くない。
既に地図を見ながら何処に拠点を建てるか考えていた。
「ありがとうございました。 参考にします」
そう言って役所を出た。
役所を出た俺達は昼飯を食べる為に昨日行った食堂へ向かう。
「土地の事聞きました?」
「ああ、後で飯食いながら話すよ」
そうやって食堂に向かってる途中エルにボイスチャットが入る。
「どうしたの? ……いま? サキドに居るけど……うん……そうだよ…………じゃあミクトさんにも聞いてみるね、じゃあ後で……」
エンかな?
話終わったエルが俺の方を向いて聞いて来た。
「エンが合流して相談したい事があるみたいなんですが、どうします?」
相談? 態々会って?
「ああ~……じゃあ飯食ったらセカドまで一旦行くか、ポータル登録もしておきたいし」
「分かりましたそう伝えます」
その後食堂へ行き飯を食べた後、交易都市セカドへと向かった。