7 黒金。
商業ギルドを出て服屋へ向かっていると道が二又になっている所へ着く。
「あれ? 宿って此処じゃね?」
二又になっている道の間に、地図に載ってる宿があった。
「……あっ、本当ですね」
「じゃあ先に部屋取ってから服屋行くか」
「ですね、部屋が無くなるといけませんし」
宿に入るとすぐ受付になっていて、そこに茶髪の肩まである髪で、そばかすのある可愛らしい女性が座っていた。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「1人部屋を2部屋お願いします」
「はい、1部屋1泊朝食付で3200Gになります。会計は先にお願いします。ではこちらに名前の記入をお願いします」
そう言ってバインダーを出して来た。
俺とエルの名前を書きインベントリから3200Gイメージして出すと、銅貨2枚銀貨3枚が出て来る。
渡すと確認してから、鍵を差し出して来た。
「はい、こちらが鍵です、そこの階段を上がって奥の部屋になります」
「あっ、先に服屋へ行って来るんで後でお願いします」
「畏まりました。 では行ってらっしゃいませ」
笑顔で見送ってくれた。
「良い感じの宿だな」
「はい、内装も綺麗でした」
服屋は宿から歩いてすぐだ。
と言うか宿から見える場所にある。
ショウウィンドウには旅人のような服と、女性用のおしゃれな服が飾られていた。
店に入ると結構広めに服が沢山並んでいたり壁に掛かっていた。
受付へ行き店員の女性に声を掛ける。
「すみません、普段着が欲しいんですが、後下着も」
「いらっしゃいませー♪ あちらの一角が男性用になっていますが、私が選びましょうか?」
「いえ大丈夫です」
エルが断り俺の腕を引っ張って連れて行く。
「おい、引っ張るな」
ったく、何を対抗心燃やしてんだ。
俺は自分で2着程選び、1着エルが選んでくれた。
全部で15500Gになりました。
買った服を早速着ると店を出て飯屋を探す。
白の肌着に黒の上着で下は動きやすいように柔らかい素材の薄い青のジーパンのようなズボンにし、裾は黒のブーツに収まっている。
「何処にしようかね~」
「あっ、あそこにしませんか?」
看板にはラミーラ食堂と書いてある。
うん、良さそうだ。
頷き店へ入るとザ飯屋って感じの内装だ。
空いてる席に座ると店員が注文を聞きに来た。
「じゃあお勧めと酒で」
「私も同じ物で」
「お酒は何にします? ワインとエールがありますが」
「エールで」
「私もエールで」
注文を終えエルと雑談を始める。
「ちらほらプレイヤーが居るみたいだな」
偶に初期装備の者を見かけた。
「はい、セカドから来たプレイヤーですね、掲示板に情報は上げてないみいたいです」
ん? ああ、掲示板を見てるのか。
目の前で何かを弄っている手の動きだ。
「明日はどうします?」
「防具は当分いいかな、耐久力鍛える為にも、武器は……どうしようかな」
「明日、あの木材で作ってから状態を見て選べばどうですか?」
「そうだな、だとするとどっか作業する場所あるか? 道具も必要だし」
俺達がそんな話をしていると、後ろから声を掛けられる。
「すまんな兄ちゃん、木材がどうのって聞こえたんだが木材を探してるのか?」
振り返ると筋骨隆々で金髪がボサボサの大男が立っていた。
熊?
「いや、木材はと言うか木を持ってるから、加工するための道具と作業場が無いか考えてたんだ」
「ほう、ならうちの作業場と道具使うか?」
「ん? おたくの所?」
「ああすまん、自己紹介が遅れた、この街で大工をしてるダインだ、よろしく」
「異界者のミクトだ、よろしく」
「異界者のエルです」
ダインは自分の席からジョッキを持って俺達の席へ移った。
「作業場の広さってどれくらいある?」
「ん? ああ~、15メートル程の幅はあるぞ?」
「おふ……それじゃ足らないな、しょうがない作業は街の外でやるか、道具だけ貸してくれ」
「おいおいおい、俺の作業場で足らないってどんだけ必要なんだよ」
「100メートル以上は必要かな?」
「ですね」
俺の言葉にダインが口を開けて固まった。
「お、おお、お前、ひ、ひゃ、100メートルって、ま、まま、まさ、まさか……黒金か?」
コッキン?
「なんだ黒金って?」
「黒金は100メートル以上の高さと2メートル程の太さで、鉄より硬いとされている木で……この街の南に群生してるがほぼ切る手段が無いとされている木だ」
「あっ、それだな」
南の森で斬ったし間違いない。
「はっ? いやいやいやまさか……本当に黒金なのか?」
俺は頷きだけで答える。
「はぁ!? ちょ、お前!! 何やってんだよ!? マジで言ってんのか!?」
何だ斬ったらだめだったのか?
ダインが騒ぐので周りの人が興味を持っている。
数人の若い男達が近づいて来た。
「親方! どうしました!? こいつらが何かふざけた真似でも?」
おお、大工の弟子達か。
ダインはテーブルに肘をついて右手でこめかみを揉むようにしている。
「いや大丈夫だ気にするな、席に戻ってろ」
「でも! こいつらが何かやったんなら……」
「戻ってろって言ってんだろうが!!」
弟子達はビクッと身体を震わせると黙った。
「すいやせんでした親方!!」
頭を下げて戻って行く。
そんな事をしていると料理がやって来た。
並べられていく料理を見ているとどれも美味そうだ。
「ダインさん、他のお客さんに迷惑ですよ!」
「悪いなミコちゃん、ちょっと驚きすぎてな」
店員さんはミコちゃんと言うのか。
「2人もすまんな取り乱して」
「いやそれはいい、それよりあの木は斬ったらだめなのか?」
俺がそう聞くとダインは溜息を1つ吐いてから答えた。
「そもそもあの木は切れないんだ」
俺の頭の上にハテナが浮かんだ。
「いいか、直径2メートル以上もある太い木を切れる道具が無い、作ろうと思えば、ミスリルの長さ4メートルのノコギリになるが、そんな物いくらになると思ってんだ、よって切り出す事は不可能と言う事だ」
ん? 斬った事を無かった事にされてる?
「過去に1度だけ1本の黒金が市場に出回った事があるが、それは誰かが切り出した訳じゃねぇ、自然に倒れた黒金だ、その素材は闘技場に使われている」
おお、シンボルの闘技場に使われているのか。
「で? 黒金はどうすんだ? オークションに出すか?」
「へ? いやいや自分で使う為に斬ったんだぞ? 誰が出すか」
「1本1千万G以上になるぞ?」
「たかっ!」
「殆ど市場に出回らない上に最高の木材だ、それぐらいはする」
「金に困ったら斬ってくるわ」
ダインは苦笑いを浮かべた。
あれ? そう言えばあんな太い木なら加工する道具も合わないんじゃ?
……しょうがない、使える道具だけ借りるか。