8 弟子としての未熟さ。
Side:エン
「姉ちゃん!?」
倒れている姉ちゃんに近付いて見ると、既に息が無いのが分かった。
唯一の家族が居なくなってしまった。
俺達の両親は、俺が社会人になる少し前に、2人供事故で死んでしまった。
それからだ、姉ちゃんが良く俺を気にかけてくれるようになったのは。
たった2人の家族。
それが今は目の前で、胴体の半分辺りまで斬られて死んでいる。
俺は静かに魔法を使い、傷口を塞いだ。
師匠には、綺麗な姿を見て貰いたいだろ姉ちゃん。
「ちょっと待ってろ、すぐ終わらせるからな」
師匠のそんな言葉が聞こえて来た。
視線を向けると、刀を持ちあの化け物に向かって歩いている姿が見えた。
「し……」
師匠と呼ぼうかと思ったが、いつもの雰囲気じゃなかった。
今師匠を邪魔する者は直ぐに殺されるだけだ。
アルも驚いた顔で師匠を見ている。
姉ちゃん。
師匠が姉ちゃんの為に、めちゃくちゃ怒ってるぞ。
って、聞いたら泣いて喜ぶだろうなぁ。
はは、視界が滲んでよく見えねぇや。
袖で涙を拭いて師匠を見る。
師匠の戦いをしっかりと見ておかないと。
すると、歩いていた師匠の姿が消えた。
「えっ」
声を出したのはアルだ。
俺も声を出しそうになったけど堪えた。
師匠が消えたと思ったら、魔王の全身が斬り刻まれたのだ。
早すぎるでしょ。
全く見えないんですけど?
あっちこっちから青い血を流しながら魔王は雄たけびを上げている。
すると、斬られた傷が徐々に塞がっているのが見えた。
「再生……」
ネオワールドの時には無かった。
そして今度は、魔王が10本の剣を使い師匠に襲い掛かる。
猛攻と言える程の、10本の剣による攻撃。
「うそ……」
横に居るアルがそう呟く。
そりゃそうだ。
俺だって見るのは初めてだ。
ダンジョンの最下層に居たレイドボス。
それをソロで戦うには、他のプレイヤーは中に入れない。
師匠はよく『ちょっと剣の鍛錬に行って来る』と言って、そのダンジョンへ1人で行っていた。
それがどんな戦いを繰り広げているのかなんて誰にも分からない。
挑んだ全プレイヤーが、必ず1度は殺されているそんな化け物に、師匠がたった1人で勝ったと聞いた時は正直信じられなかった。
まあ、その後の色んな戦いで信じるしか無かったんだけどね。
「……流石師匠」
全ての剣を、躱し、受け流し、弾く。
どの剣で攻撃されるのかを瞬時に把握し、それに対応する。
直接武器や盾で受け止めると、麻痺の状態異常を受ける剣も中にはある。
そういう剣は全て触れずに躱しているのだ。
しかも、全ての攻撃を捌きながら、魔王の手や身体を徐々に斬り刻んでいる。
うわ……何であんな体勢から攻撃できんの?
今の一瞬で5回以上斬るって……。
おかしい、魔王の傷が再生していない?
さっきまで再生してたのに。
師匠の戦いを見てつくづく実感する。
「俺はまだまだ未熟だなぁ」
「……僕もです」
アルに視線を向けると、真剣に戦いを見ていた。
師匠にとっちゃ、俺達弟子は全員未熟なんだろうな。
姉ちゃん、この戦い見てるか?
やっぱ俺達の師匠はスゲーよ。
これからもっともっと、強く成りたかったよ……姉ちゃんも一緒にさ。
戦いを眺めていると、師匠が突然こちらにやって来た。
しかし後ろではまだ師匠と魔王が戦っている。
幻影?
「師匠?」
師匠が姉ちゃんの足元に来ると立ち止まり、手を翳すと姉ちゃんの身体が浮き上がった。
「師匠!?」
まだ戦っている中で師匠はいったい何をしようとしてるのか。
俺はただ黙って見ているしかできなかった。




