表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光 ~道しるべ~  作者: カガミモチ
8/11

三日目 SOS

今日も相変わらず忙しい店。

もう、ランチタイムも終るのに客足が途絶えない。

店長の斎藤さんは嬉しいだろうけどね。

俺は疲れてきた。


太陽は、斎藤さんの奥さんにベッタリだ。

休憩室でトランプ中な。


俺も斎藤さんも奥さんも

今日一度も昨日の話には触れてない。


昨日の夜の話。

引きずってるのは俺だけじゃないんだな。


俺は解るよ。

太陽に関われば関わるほど、こいつの笑顔を守りたい

きっとみんなそう思ってしまうんだ。


不思議だな。太陽って。


それが、太陽だからなのか。

そうじゃないのかは解らないけど。


漠然と思うのは、太陽は、今でも幸せなんじゃないかってこと。


良いも悪いも、子供は親のところにいるべきだろ?

あの女が太陽にとってどんな親なのかは知らないけどさ。


太陽は、ママ大好きじゃんか。


だからさ、このまま太陽があと4日で

ママのとこに帰るっつーなら、それで良いと思ってた。

正直、そうだよ。無責任なのかは解らんけど。

そんなに足を突っ込んで良いのか解らないしさ。


それにさ、あの女は今よりいい生活が出来るって

言ってたんだ。結婚するならお父さんも

出来るわけだろ。最初は慣れなくてもさ

段々と家族になっていくもんじゃないのか?

俺には解らないけどさ?


俺はずっと一人で生きてきたけどさ。

大人に守って貰えるなら。

親に守って貰えるなら。

それが一番良いに決まってるじゃないか。


間違ってないだろ?


頭の中がぐるぐる回る。

その時、手が滑って片付けようとしていた

皿を落としてしまった。


ガシャーン

床がタイルになっているのもあって

大きめな音が響いた。

咄嗟に斎藤さんが

「失礼しましたー。」


と叫んでくれた。


俺は斎藤さんに

「すいません、すぐ片付けます」

と言って。ホウキと塵取りを休憩室に取りに行った。


その時、休憩室に居た太陽の様子が変だったのが見えた。

斎藤さんの奥さんは太陽に寄り添って背中を擦ってる。

焦ってる様子はないけど、不安そうな顔だった。


奥さんと目があったから聞いてみた。

「太陽どうかしたんですか?」


「わからないけど、多分。お皿の割れる音。

それで、急に怖くなったみたい。」


「え?俺がやっちゃったんです。

ごめんな。太陽。

太陽?大丈夫か?」


斎藤さんの奥さんに背中を擦って貰っている太陽は

震えながら下を向いている。


「たまにね、大きな音に驚いてうずくまったり

私がちょっと手を上げた時に、頭や体を庇うような

動きをすることがあってね。

ちょっと気になって、昨日ヒロ君にあの話をしたの。」


そうか、斎藤さんの奥さんは太陽とすごす時間が

俺よりも長いから、太陽の事をよく見てる。

太陽が、抱えてる闇を俺よりも目の当たりにする機会が

多かったんだ。


「そうだったんですね。すいません。俺、

任せっぱなしで。


おーい。太陽?ヒロだぞ?」


俺の声が聞こえていないのか?

様子のおかしい太陽の側に行ってしゃがんだ。


「太陽?」


顔を寄せて、呼び掛けた。


「太陽?」


聞こえていない様子の太陽は床を見つめている。


無表情で、ただただ下をみている太陽。

あの日の、初めて声をかけたと時の太陽がいた。


俺は、胸をぎゅっと掴まれるような苦しさを感じたんだ。


だから俺は、太陽を抱き寄せた。

抱き寄せて、頭を撫でた。


太陽が下を向いたまま動かなくなったのが

何故なのかは、解らないけど。

今の太陽が一人ぼっちの暗闇に居ることは解った。


そこから、こっちに戻してやりたい。

俺が灯台の灯りのように、太陽を導く光になりたい。

こっちだよ。こっちだよ。

と思いながら。

頭を撫でて、体を撫でて、

「太陽。ヒロだぞ。返事しろよ。」

ゆっくりゆっくり。静かに呼び掛けたんだ。


何度も何度もゆっくりゆっくり。


少しして、太陽の手が動いて俺の服を掴んだんだ。

その手を俺も握った。


「太陽。ヒロだよ。」


「ヒロ?」

太陽の小さな声がした。

俺の服をつかむ小さな手に力がこもる。


斎藤さんの奥さんはそんな俺達を見て、

涙を流していたんだって。

これは、後から聞いた話だけどね。

この時の俺は、太陽の事で頭が一杯だったから

周りの事が全く見えていなかった。


「ヒロ?ごめんなさい。僕。



僕は、 僕ね。

本当は。 本当はね。 怖いの。」



「うん太陽。うん。何が怖いんだ?」


太陽は、俺の服を掴んだまま。

そのまま、俺に抱きついて。小さな声で言ったんだ。


「ママ」


太陽のその声を聞いたとき。

みぞおちの辺りが、ぎゅーっとした。

俺の眉間にシワが寄る。


俺は太陽が潰れない位の力でぎゅっと抱き締めた。

何て言ったら良いのか、さっぱりわかんないけど。

太陽は、今まで一度もママの事悪く言わなかったんだ。


それなのに、それなのにさ。

今のを俺に言うことが太陽にとっては

どれだけの勇気が必要だったのか。

俺は、俺達はそれを真剣に考えないといけないと思った。


こんな小さな体で、沢山の事と戦っている太陽が

初めて見せてくれた本当のSOSだったから。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ