愛したいのに愛せない
妊娠したとわかった時は、死にたかった。
この子の父親とはとっくに別れてたし
両親も離婚してて、母方の祖母の家に居候していたから
相談する人も居なかった。
祖母は、厳しい人で笑わない。
そして、私はいつも一人だった。
祖母が妊娠に気づいたのは9か月の時。
もう、産むしかなかった。
祖母は、一言だけ私に言った。
「外で育てろ。」
それは、家から出ていけと言うこと。
私は生きてちゃいけないのかな。
なんで、母親は私を産んだんだろう。
この世私をに産み落とした母親を何度も恨んだ。
私を相手にしない祖母には何度も打ちのめされた。
祖母と離れて暮らし始めてからは、
不思議と楽だった。
本当に一人になったのはずなのに、気分は良かった。
陣痛が、来たときのことはよく覚えていない。
分娩台の上で力んだ記憶も曖昧だ。
それなのに、何故か。
あの子が、産声を上げた瞬間はよく覚えてる。
分娩室の明かりのせいだけど、
泣いてるあの子は光ってて
眩しくて、一人じゃないって思えた。
太陽みたい。
私の太陽なのかもしれない。
この子が居れば私は一人じゃない。
この子が私の救いなんだ。
本当にそう思えた。
ちゃんとした親になりたい。
立派に、育てたい。
そう、思ったんだ。
だけど。
赤ちゃんと言うものも、
愛されると言うことも、
慈しむ気持ちもなにもかも知らない私が
立派な親になんかなれるはずがなかった。
ちゃんと育てるなんてできるはずがなかったんだ。
ちゃんとって何?
愛ってどう言うことなの?
可愛いいと思えない。
うっとおしい。
煩わしい。
この子が居るから上手く行かない。
やりたいことが出来ない。
邪魔しないで。
近寄らないで。
話しかけないで。
でも、側にいて。
私が必要でしょ?
一人じゃダメなんでしょ?
太陽には、私しか居ないもんね。
頭の中はそんな事ばかりがぐるぐる回る。
ヒロ
初めてあの子から他人の名前を聞いたとき
よくわからない感情が産まれた。
この子も
私を置いていくの?
私の事、要らないの?
必要として欲しい。
あなたは、私の子供でしょ?
真っ黒だ。
私の中はいつも黒。
あの子の笑った顔が見られないほどに黒い。
あの子とヒロさんが一緒に居るところを初めて見た時
ダメだと思った。
私があの子の側に居たら駄目なのかもしれないと。
あの子のあんな自由な顔
初めて見た。
だから、尚見られなかった。
自分のダメさを思い知らされる様で苦しかった。
他人だから出来るんだ。
責任がないから。
私は必死なんだから
自分を守るために
頭の中で言い訳を考えて
目をそらした。
あの子と離れて過ごした一日目は
凄く解放感があって、楽しかった。幸せだった。
二日目には罪悪感で潰されそうになった。
三日目には耐えられなくなって、
四日目には迎えに行ってしまった。
奪われる。
私のなのに。
私も幸せになれないのに。
あの子だけ幸せになるの?
私も笑ってないのに
あの子だけ笑って生きれるの?
ズルい。
私の気持ちを分かるのはあの子だけなんだから。
そんな感情だった。
落ち着いてたけど。
冷静だったけど。
家まであの子を引っ張っていって
そのまま。
太陽の笑ってる顔を
壊したかった。
気がついたら、太陽は動かなくなっていた。
手が痺れている。
体が震えた。
息が切れてる。
動かない太陽をしっかりと頭で
理解したとき。
一気に涙が溢れた。
あ
あ
太陽
太陽
触ってみたら、手が動いた。
生きてる。
良かった。
でも、太陽を見てられなくて
一人で外に出た。
私は、やっぱりダメなんだ。
何をやってもダメ。
生きてる事が、辛い。
この世は地獄だ。
もう楽になりたい。
太陽は、私にとってこの世で
ただ一人寄り添ってくれる人間だった。
あの子だけが、私の笑顔を求めてくれた。
なのに。
あんなに。
動かなくなるまで。。
私は人じゃないのかもしれない。。。
太陽にしてあげられることは、これだけだ。
スマホを取り出して。
LINEを開いた。
ヒロ
ただ、普通に生きていければ良かったのに。
おはよう とか
おやすみ とか
いただきます
ごちそうさま
笑って過ごせれば良かったのに。
ふらふらと彷徨っていた。
一時間。
二時間。
どのくらいたったかな。
駅に着いた。
適当に切符をかってホームに向かって階段を上がる。
着信音
これは、LINEだ。
スマホを取り出して
LINEを開いた。
ヒロ
「太陽は、あなたの事をいつも大切に話していました。
太陽は、あなたの事を大好きだといつも言っていました。
太陽は、一度もあなたを悪く言うことはありませんでした。
太陽のために戻ってください。」
前が見えないほど目に涙が溜まった。
太陽。
太陽。
私の太陽。
ごめんね。
優しく出来なくて。
ごめんね。
愛してあげられなくて。
ごめんね。
愛したかった。
ありがとう。
大好きだよ。