四日目 僕の光
僕の名前は太陽。
ママが付けてくれた名前だよ。
生まれた時の僕を見て、太陽みたいって
思って付けてくれたんだって。
その話を聞いたときの事をはっきりと覚えてるよ。
ヒロと初めてあったときの事も
同じくらいよく覚えてるんだ。
だってさ、大人なのに他の大人とはちょっと違ってたから。
僕は、いつも一人で公園に居たの
だから、いろんな大人に話しかけられたんだよ。
大人から見ると僕は小さく見えるのかな?
いつも「ママは?迷子なの?」って聞かれたんだよね。
迷子じゃない!って言っていつも走って逃げてた。
でもヒロは、違くって。
隣に居るだけだったんだよ。
隣良い?って聞かれたのは
初めてで面白かったからよく覚えてるんだ。
僕は、お母さんに言われてるから
ちゃんと我慢が出来るんだよ。
お腹空いていても、静かにしていられるよ。
寂しくっても、悲しくっても、痛くっても
泣いたりしないよ。我慢できるよ。
だって、大きくなったからね。
ヒロがご飯食べよって言ってくれた時
我慢しなきゃって思ったんだけどね。
ママに怒られるとも思ったんだけどね。
暖かいご飯が手の中にあってね
ヒロが食べ方を教えてくれた時に
ふわって凄くいい匂いがしたから
その時は、我慢が出来なかったんだよね。
あのカツ丼は、凄く凄く凄ーく美味しかったんだよ。
カツ丼だよね?名前あってるよね?
また、食べたいな。カツ丼。
カツ丼食べた日は、もう帰れると思って帰ったんだけどね。
まだ、鍵開けて貰えなかったから
家の前でママが開けてくれるのを待ってたんだよ。
待ってる時も、いつもならお腹空いてね。寒くてね。
少しだけ泣きたくなったりするんだけどね。
カツ丼でお腹一杯だったから、寒くなくて
泣きたくならなかったんだ!
ヒロのおかげだね。
僕は、まだまだ失敗ばっかりするから
ママに怒られることも多いけど。
大きくなったからね。出来ることも増えたんだよ。
よくお願いされるのはお留守番かな。
お留守番していると、早くママ帰ってこないかなって
いつも寂しくなるんだ。
前に長いお留守番した時は、
僕の誕生日にはプレゼント用意して帰ってくるって
約束してくれたんだよ!
ご飯もいつもより多く置いていってくれたしね!
でも、ママがなかなか帰ってこなくって。
その時は困ったんだよ。
お腹も空いたしね。喉も乾いててさ。
鍵開けたまま出掛けちゃ駄目って言われてけど
家のお水は出したら駄目だから、
困ったな。困ったなって思ってたらね。
頭の中にヒロの顔が浮かんだんだよ。
そしたら、何か公園に行きたくなって。
ヒロに逢いたくなってね。
ママに怒られても良いやって思ったの。
あの時ね。不思議だったんだけど
ヒロに逢えるかな?って思いながら走ってたら
公園までの道が光って見えたんだよ。
びっくりだよね?
こっちだよ!こっちだよ!って言われてるみたいだったな。
公園に着いたのは夕日が見えるくらいだったから
まだ明るかったんだけど、ヒロは居なくて。
がっかりだった。
でも、公園に来たからお水を沢山飲んで
お腹も少し一杯になったんだ。
でも、ブランコに乗ったり遊ぶ気にはなれなくてね。
ペンチに座ってたの。
座ってたら暗くなって、やっぱりお腹空いてて
ベンチの後ろに草が生えてたから
食べられるかな?って思って考えてたら
もう、我慢できなくなっちゃって。
でも、野菜苦手だし勇気がでなくて
なかなか食べられなかったんだよね。
でも、大きくなったし食べられるかなって思って
えいって口にいれてみたんだよ。
そしたら、ヒロの声が聞こえたの。
ヒロの声を聞いたときね。
嬉しくて嬉しくて。僕は、泣きそうになったんだ。
なんでこんな気持ちになったのかは解らないけどね。
ヒロと逢うと元気になれるんだ。
ヒロが僕が口から出した草を一緒に
砂で埋めてくれた時。
また一緒にご飯を食べよって言ってくれた時。
僕は我慢できなくて泣いてたと思う。
泣いてたからだと思うけどね。
ヒロがパッて光って見えたんだよ。
とっても、とっても暖かい色に光ってたんだ。
僕にとって、ヒロは
ただ一人、光を見せてくれる人なんだよ。
色々お話したよね?
色々なことを教えてくれたよね?
色んな美味しいもの作ってくれたね!
僕はヒロに教えて貰ったことが一杯あるよ。
ご飯を食べると幸せな気持ちになること。
お話していると、楽しい気持ちになれること。
一緒に居ると安心していられること。
優しくされると泣きたくなること。
泣いた時に抱き締めてくれたのは、ヒロだけだったよ。
ママは、いつも僕の顔を見てなかったけど。
ヒロはいつも、僕の顔を見てくれたね。
ママは、一度も笑ってくれたことがないけど。
ヒロはいつも、僕に笑顔を見せてくれたね。
ママは、僕と手を繋いでくれたことはないけど。
ヒロは、いつも僕と手を繋いでいてくれたね。
ママは、あんまり優しくしてくれないけど、
ママは、僕のママだから。
笑ってくれるように、もっとイイコでいなくっちゃ。
ママが笑ってくれるように。
だから、あの時ね。
ママが公園に迎えにきてくれたとき。
凄く嬉しかったんだよ。
僕、イイコにしてたから。
だから、迎えにきてくれたんだよね?って思ったから。
ママに誉めて貰えると思ったから。
ヒロがこの時どんな気持ちでいたかなんて、
このときの僕はまだまだ小さくて、解らなかったんだ。
ヒロ。ごめんなさい。
それでも、僕の光はこの時もこの後もずっとずっと
ヒロだけだったんだよ。