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光 ~道しるべ~  作者: カガミモチ
1/11

一瞬の希望

この角を左に曲がって、

少し歩くと見えてくる滑り台。


その反対側にあるブランコ。

電灯からの灯りがスポットライトのようで

そこだけを、明るくしているように見えた。


うそだろ。

今日も居る。


座ってもらっては居るものの、動けないブランコ。

座ったまま、地面を見つめているのはいつものこと。


まだ春とは呼べない季節なのに、裸足にビーチサンダル。

薄めの長袖に膝より少し下のズボン。

前髪でどんな表情かはわからないのに、

いつも、泣いてるように見えるのは自分だけなのだろうか。


こんなことを想いながら、帰宅するのは

もう何回目だろうか。


前を歩く人もチラッと見て通りすぎる。


そりゃそうだ。

皆、面倒なことは嫌いだ。

そのうち、誰かがきて。

そう、そうに決まってる。


だって、俺は今日は遅番だ。

今はもう、22時を過ぎてる。

遅番は、初めてでこれでも早く帰れたらしい。


それにしても、この時間に一人で居るなんてありえないだろ。

どう見ても小さな子供だ。

小学生かな?

おかしいだろ。


何かに巻き込まれるのは面倒。

俺は疲れてるんだ

料理人は体力勝負だし、まだ慣れない職場だし


明日は、


休みだけれども


ゆっくりしたいじゃないか。


あいつは、明日は学校じゃないのか?

明日は月曜日。


迎えがくるよ。



そう頭では思っていたのに、

俺の足は、あいつの隣のブランコに向かっていた。


隣のブランコを通りすぎて、あいつの前にしゃがみこんだ。


視界に俺の靴が入ったのか

ビクッとしてこっちを向いた。


その目には、一瞬希望が見えた気がした。


気がした だけで、すぐにふっと反らした。


悪かったな、待ってた人じゃなくて。

やっぱり通りすぎて家に帰れば良かった。

ただでさえ、疲れてるのに

わざわざ、もっと疲れるようなことを。


なんて、言葉にはできないけどね。


ふー とちょっと大きめに息を吐いて

「誰か、待ってるの?」

聞いてみた。


「おじさん、警察?」


しっかりした口調だ。

男?女かな? 子供の性別は分かりにくい。

こいつ、髪の毛長いし。


「違うけど、何で?」


「帰れって言われても帰れないから」


やっぱり、声かけなきゃ良かった。

結構な面倒事じゃね?


ん~。

困った。


「隣いい?」

子供に何いってんだ。

自分で自分に突っ込む。


「別にいいけど」


絶対おかしな絵面だよ。

こんな夜中に子供の隣でブランコに乗るアラサー。


どうしよ。

今になって、どうしようもなく

警察ってワードが妙に頭をよぎる。

今、警察が来たら


俺、不審者じゃね?


あ、こっち見てた。


「どした?」

つくろったけど、ちょっとぎこちなかったかも。


「何か、いつも近くに来る大人はお母さんは?とか

聞いてくるけど。おじさんは聞かないんだね。」


「え? あ、あぁ 帰れないって言ってたじゃん。」

違うこと考えてたなんて言えない。


【ぐぅるるる~】


え?俺?腹の音。


反射的にあいつを見たら、腹を押さえて下を見てた。

腹減ってんのか。

ちょっと寒いしな。


「すぐ戻るから」


俺は何故か、そんなことを言って公園を出た。

公園を出て、俺の店と反対方向にに歩くとすぐ

にコンビニがある。


男の独り暮らしには最適の場所。

コンビニ近し、最高。


これで銭湯とかあれば尚さら良し。

コロナ禍だけど、銭湯はどーなってんだろ。


今度探してみよ。

とか、考えながら 俺は少しウキウキしながら

コンビニに入った。


心なしか疲れも飛んでいたように感じる。

何故だろう。

あいつと話すまでは、何もやる気が起きないくらいだった。

風呂も入りたくない位の疲労感だった。


今は、もう一品何か作れそうな感じがする。

腹のなったあいつの為に。

そうだな、オムライスとか。いや、ハンバーグか?

子供は好きだろ。そういうの


なんて、何考えてんだ俺は。


とりあえず、ビールを取って

あいつは、水か?お茶にするか。

いや、オレンジジュースかな?

王道だ。


やっぱりカツ丼かな?

腹にたまって暖まれば気持ちも緩むよ。


俺はデカか?


俺のツマミはおでんだな。

もう、終わってるか?

終わってるわ。


唐揚げが棒に刺さってるやつとコロッケにしよ


買い込んだ食料を持って、公園に向かう。


いや、ちょっと待てよ。

いつまで帰れないとか言ってないし、

待ってるとも言わなかったよな。


もう、居ないんじゃないか?

居ても、しらない人から食べ物貰うって

怖くない?


いや、いーや。

居なきゃ、持って帰って食えばいい。

要らないって言われても同じだ。


買ってきちゃったし、勢いだ勢い。


公園に向かう足取りは、心なしか重かったと思う。

緊張?って言葉が一番。しっくりきたかもしれない。


こんなことするのは、勿論初めてだ。

子供に話しかけることなんて、俺の日常にはないんだから。


あいつは、いつもそこに居たよな。

早番で入ることが多かったから、

いつもはあいつが ブランコに居ても気にならなかった。


あぁ、それは嘘だ。

気にならなかった訳じゃないよな。

俺いつも見てたし。


だって、あいつブランコこいでないし

いつも、一人だし遊んでる感じじゃなかった。


ただ、ただそこに居たんだ。あいつは。

いつも、ひたすらに地面を見つめて。

上を向けば光があるのに、

いつも、暗い方を見ている気がしてた。


俺は、そんなあいつを見てたんだ。


そんなことを考えていたら公園に着いてしまった。

とんでもなく近いんだよ。

男の独り暮らしには最適の場所なんだ。


ブランコにスポットライトがあたっていて

そこに、あいつがいた。

何時ものように。


あいつが、まだそこに居ることに

安心したのか、

それとも、まだ帰れないのかと同情したのか

自分でも解らなかった。


すごく静かだ。

コンビニ袋の音が、すごくでかく感じる。


なのに、こんなにガサガサしてるのに

あいつは、まるでこっちを見ないんだ。

外の事は自分とは全く無縁と思っているようで

暗い世界にいるようで。


何故だろ、俺は

無性にこっちを向いて欲しい。

そんな暗い所に居るなよ。

俺はお前を見てるよ。

そんなことを思ったんだ。


あいつの隣のブランコに座って、

ふーと大きめに息を吐いた。


「まだ、帰れないのか?」


「多分」


どういうこと?

あんま、ないだろ

こんな子供が。

夜に、家に帰れないって。


ま、あれだ。あんまり色々聞くのもね。

重たいないようだったら、飯冷めるしな。

とりあえず。


「俺、飯食いたいんだ」


「。。。」


無反応か。

どうしよ、気持ち悪いかな。


「買いすぎたし、一緒に食わない?」


思いきって言ってみたけど。

怖くて、あいつが見られないよ。


感じる視線。


あいつは、こっちを見てたんだ。

俺の表情。ビニールの袋。


「良いの?でも、お金は払えないよ。」


良かった。

気持ち悪いとは思って無さそうだ。


「金なんて要らないし、俺は一人で食べるの苦手なんだよ

一緒に食ってくれると助かる。かな。」


初めてちゃんと顔を見た気がする。

10分?15分位は、話したりしてるはずなんだ。

俺も、ちゃんと見ようとしなかったけど。

こいつは、もっと何て言うか。

こう。遠くを見てる感じだったから。


今のこいつの目。

あの目だ。さっきの目。

希望が宿った目。

今のこいつの目は暗い所を見ていない。


こんな簡単な事なんだ。



カツ丼をあいつに渡した。


俺はビールを開けて、一口飲んだ。


あいつを見てみると。

カツ丼を持って固まってる。


なんだよ、嫌いだったか?

俺は、デカか?とか突っ込みながら

テンション高めで買ってきたから嫌いとか考えなかったよ。


「あ、嫌いだったか?」


「違う。どうやって開けたら良いの?これは、何?」


えっと。

「カツ丼だよ。知らない?」


「初めて見た」


無意識に、にやける俺。

知らないものを教えてやるってのは、

やっぱり少し気分がいい。


「待ってろ。開けてやる」


こいつに持たせたまま、外側のビニールをはずしてやる。

蓋をとって、ご飯の上にカツを乗せてやる。


フワッとカツの匂い。


「美味しそう。」

キラキラした笑顔で、俺を見た。


「旨いよ。」


スプーンを渡した。

勿論、袋からは出してやる。


食べ始めたこいつの顔は、

何だかずっと見てたくなる。


「美味しいよ。すごく美味しい。」

服の上にボロボロとこぼしては、それすらも手で口に入れて

夢中で食べてる。必死に生きてる。


不思議と、汚いとも思わなかった。

その必死さが、何て言うか 少し眩しかったんだ。


俺が持ってたときは、小さめなカツ丼に見えたけど。

こいつが抱えてると、大きく見える。


食べきれるのか?

そんなことを思いながら、達成感と充実感で

ビールが何時もより旨く感じた。










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