時計
カチ…コチ…
カチ…コチ…
静かな部屋に時計の針の音が響く。
微かに聞こえる冷蔵庫の低いブゥーンという音と外から聞こえる車の音。
部屋の空気が重い。
このまま沈んでいってどこまでもどこまでも深く深く…
二度と戻って来られなければいいのに。
一人きりで部屋にいるとやけに時計の音が耳につく。
…寂しい。
…貴方に会いたい。
せめて声だけでも…と思ってスマホを手に取るけれど、私にはかける勇気はなかった。
早く来週になればいいのに。
今度の土曜日は貴方に会える。
知ってるよ。
…家族がいる事。
貴方は私が何も知らないと思ってるでしょう?
日曜日に絶対に会えない理由はそれ。
私から電話をかけては駄目。
そしていつも私と会う時は電源を切ってる事。
どんなに鈍感でも…どんなに貴方への気持ちで周りが見えていなくても…さすがにわかる。
もうやめたい。
でも、貴方への気持ちはやっぱり変わらない。
…苦しい。
わかってる。
こんなのは間違ってるって。
真っ暗な部屋で一人布団にくるまって目を閉じた。
眠りに落ちる時の体が沈む感覚が襲う。
フワフワと漂うように。
スルスルと下へ下へ堕ちていく。
底なし沼にハマったように抜け出せないのは何故?
これは貴方への愛?
違う。
これは可哀想な私の自己愛。
バチッと目を開き、スマホを手に取った。
時計を見ると時刻は夜中の1時。
きっと貴方は出ないだろう。
メッセージを打つ。
「さよなら。もう会いません。」
明日も仕事だ。
泣き腫らした目では会社へ行けない。
こんな時に思い切り泣けない自分の可愛げのなさに嫌気がさした。
「好きでした。でも…やっぱり嫌いよ。じゃなきゃ私が駄目になる。」
小さな声で呟いた時、頬に一筋涙が伝った。
声をあげて泣いた。
明日の事なんか頭になかった。
ただただ悲しくてツラくて。
好きだったのにな。
泣き腫らした目で床に蹲った。
やはり時計の音が耳につく。
けれど単調なリズムが今度はどこか心地よく私を包んだ。
明日の朝、起きたら会社へ連絡して休んでしまおう。
そうして二度寝をするんだ。
沢山寝てしまおう…だって私は自由だ。
もう…自由なんだよ。