くまたんとうさたんとフェイクファー
くまたんとうさたんは大の仲良し、いつものように森の喫茶店で待ち合わせをしています。
先に着いたくまたんがたんぽぽコーヒーを飲みながらうさたんを待っていると、少し遅れてうさたんがやってきました。
「くまたんごめんよ。ニンジン畑の様子を見ていたら遅くなってしまったんだ」
「いや、気にしなくていいよ。僕もついさっき来たところだ」
「それならいいのだけど。ああ、店員さんボクにもコーヒーを一つ」
アライグマの店員さんに注文を済ますと、うさたんも席に座ります。
「それで近所にいいキャロットケーキを作るお店が出来てね。今度くまたんも一緒に連れて行きたいと思ってるんだ」
「それは楽しみだね。実は僕もいい木の実の駄菓子屋さんを見つけたんだ。今度、一緒にうさたんも行かないかい」
「それはいいね。ぜひ行こう」
「楽しみだね」
「ああ楽しみだ」
お話は弾みあっという間に時間が過ぎて行きました。
「そろそろ出ようか」
「そうだね。そろそろ出よう。実は今日うさたんを連れて行きたいお店があるんだ。きっと驚くよ」
「へぇ、それは楽しみだ」
「すごいお店だよ」
そう言ってくまたんがコートを羽織ってマフラーを首に巻いたでした。
「ちょっと待ってくれくまたん。君が首に巻いているそのマフラーだけど」
うさたんがマフラーに顔を近づけます。
「それはラビットファーのマフラーじゃないかい」
うさたんが訊ねるのにくまたんは頷くと言いました。
「そうなんだ。これはラビットファーのマフラーなんだ。すごくふわふわだろう。でもこれ実はね」
くまたんがいい終わる前にうさたんが怒って言いました。
「ラビットファーと言ったらうさぎの毛皮じゃないか。くまたん、ボクは失望したよ。キミがそんな奴だったなんてね。もう絶交だ」
「待っておくれようさたん。どうか話を最後まで聞いてくれないか。これはラビットファーだけどうさぎの毛皮じゃないんだよ」
「くまたん、何を言っているんだい。どこからどう見てもこれはうさぎの毛皮じゃないか」
うさたんが言うのにくまたんは首を振ります。
「実はこれはフェイクファーなんだ」
「フェイクファー、これが偽物の毛皮だって言うのかい」
「見えないだろう」
「見えないよ。本当なのかい? くまたん」
「本当だよ、うさたん。実は今日うさたんを連れて行こうと思っていたのはこのフェイクファーのお店なんだ」
くまたんが言うのにうさたんはまだ疑っている様子です。
「これがフェイクファーだなんて、フェイクファーもいつのまにかすごい事になっていたんだな」
「行ったらきっとびっくりするよ。本当に本物みたいなんだ。うさたん、びっくりさせようと思って内緒にしていたんだけどね」
くまたんはそう言うとラビットファーのフェイクファーのマフラーを摘みながら笑います。
「僕はずっとラビットファーのマフラーが欲しかったんだ。でも、本物を買ったらうさたんが怒るだろう。だからこのフェイクファーのお店を見つけた時は飛ぶようにに嬉しかったよ」
「へぇ、それはどうしてだい」
「ずっと、うさたんの事を感じていたくて」
「くまたん!!!」
くまたんが赤くなりながら言うのにうさたんも思わず赤くなります。
うさたんは伺うようにくまたんに視線をチラチラと向けながら言いました。
「実はボクのくまの毛皮コートがずっと欲しかったんだ。お店に売っているかな」
「売っていると思うけど、どうしてだい」
「ボクも、ずっとくまたんの事を感じていたくて」
「うさたん!!!」
それから二人はフェイクファーショップへと向かいました。
そしてお店から出てくると、うさぎの毛皮のマフラーを身につけたくまたんとくまの毛皮のコートを身につけたうさたんが仲良く手を繋ぎながら出てきました。
クリスマスの飾りつけがされた街には、お互いの毛皮を身に纏ったカップルの姿がたくさん歩いています。
どうやら、近年のフェイクファーの品質の向上によって、お互いの毛皮のフェイクファーを身につけるのが動物たちの間で流行っているみたいですね。