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第三章 無秩序(じゆう)の末に生まれた正義3

 ひなたの腕の包帯を取り換えると、ベッドに寝かせた。額にはたくさんの水泡を浮かべ、青い顔でうなされている。俺は医療について、特別な専門スキルを持っている訳ではない。昔、外科手術のシミュレーションゲームをやったことがある程度だ。問診から始まって、病状を予測し、レントゲンをとって、場合によってはオペに踏み切るといった流れだった。だけどここには、そういった最先端の機械などあるはずもない。

 今の俺にある確かな武器は、107のボーナスポイント。

 まぶたを閉じ、ステータスの項目を探していった。魔力や知力といった数値を増やすと、魔法を覚えるといったゲームもある。でもロイの日記には、魔法取得には『魔法のクスリ』を購入して、それを服用する必要があると書かれてあった。一定の魔力、知力があれば、魔法の習得に成功するが、満たない場合は失敗。さらに『魔法のクスリ』はかなりの高額である。安いものでも五十万円以上はする。今の俺に、手が届く代物ではない。

 昼間、マジックショップで見かけた魔法は、回復や攻撃魔法、毒治療といったオーソドックスなものはあったが、失った器官を取り戻せるものはなかったし、死んだものを蘇らせるといったRPGでは絶対にありそうなものもなかった。蘇生という言葉で、洋介の笑顔が脳裏に浮かんできた。とにかく今、魔法や知力を鍛えても、現状打破にはつながらない。他に何かないかと、必死にステータスを閲覧していく。

 次に俺が目をつけたのは『サバイバルスキル』だった。野営を始めとするアウトドア系なものから忍び足、罠感知や、敵察知といったものが連想できる。その中には応急処置だってありそうなものだ。あと察知能力関連であれば、俺のタイプ『シャドー』と相性がいい気がする。

 俺は『サバイバルスキル』に、まず1ポイントを投入してみた。

 すると、どうだろう。サバイバル能力の下部に欄ができて、ズラズラと半透明の文字が現れた。『罠解除 スキルレベル15』『方角感知 スキルレベル8』『暗視 スキルレベル5』『獲物捕獲 スキルレベル2』『応急手当 スキルレベル1』

 いきなりの急成長に驚く。おそらく『サバイバルスキル』との相性は、ピッタリだったということなのか。もう1ポイント投入してみる。それぞれのスキルレベルが激しく上昇していく。サバイバル能力に合計10ポイント投入した。

『罠解除 スキルレベル150』『方角感知 スキルレベル80』『暗視 スキルレベル50』『獲物捕獲 スキルレベル20』『応急手当 スキルレベル10』『アイテム感知 スキルレベル7』『アイテム鑑定 スキルレベル2』……項目はさらに更に続いている。この中で回復系は『応急手当 レベル10』のみのようだ。

 期待できる名称ではあるのだが、このスキル、どうやって使ったら良いのかまったく見当がつかない。ひなたの傷口に手をかざしても何も起きないし、治療法がパッとひらめくようなものでもない。どのように治療していけば良いのか、まったくイメージできない。

 顔色が青い。血が足りていない。輸血するべきなのだろう。分かるのはそれくらい。でもそれは、単に素人の勘ってやつだ。仕方ないので更に30ポイント投入してみる。合計40ポイントをサバイバルスキルに投入した訳なのだが、レベルが上昇していくだけで、何か特別な変化を感じることはできなかった。

 ステータスウィンドに書かれてある『応急手当 レベル40』という文言に指でタップしたままあたりを見渡してみて、ようやく分かった。ひなたの体に赤と青の斑点が浮き上がっているのだ。まるで接骨院の壁などに張ってあるツボの経絡図のようだった。赤いポイントにはDamage、青にはRecoveryと表記されている。つまり青いポイントを指で押すなり、針で刺すなりすれば、HPが回復するのだろう。

 ひなたの肩にある、青く点灯しているポイントを強く押してみた。

「うぅ……」

「お、おい、ひなた、大丈夫か!?」

 ひなたは穏やかな表情になっていった。どうやら効いたみたいだ。特別な道具が必要ではない分、助かった。

「……伊賀くん……」

「起きていたのか?」

「……ありがとう。ごめんね。迷惑ばかりかけて……」

「別にいい。そんな心配はいいから、早く寝ろ」

「……ねぇ。伊賀くん。好きな人、いるの?」

「え?」

 思わず黒瀬先輩の方に振り返ってしまった。

 先輩は細めた目で、静かにひなたを見つめている。

「あたしはいるよ。その人、ゲームしかしない人。だからいつか一緒にゲームの世界に入れたらな……って思っていたんだ。だけど本当に入れちゃうなんて……」

「そっか」

 ひなたが左手を伸ばしてきたので、俺は彼女の手を握った。しばらくして、スー、スーと穏やかな寝息を立て始めた。眠ったことを確認して、俺は応接間へ向かった。


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