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第三章 無秩序(じゆう)の末に生まれた正義1

 単独行動というのは、それだけで狙われやすい。

 街までは、木々に隠れながらの移動。街に入ってからは、息を殺して壁伝いに進んで、目的地である薬屋まで向かわなくてはならない。その間、換金の為、錬金術師の店を経由する必要がある。むしろ街に入ってからが勝負だ。浮浪者の集団がハイエナの如く目を光らせている。

 俺は先の戦いでレベルが上がり、ボーナスポイント35を手に入れている。この際、俊敏性に入れるべきか? 今朝、筋力に15突っ込んだが、鉄塊がなんとか振れるようになったくらいだった。残り5も、戦闘前に、防御力に2、体力に3入れていたが、なんら成長を感じなかった。ゴブリンに力負けして吹っ飛ばされる有様だ。それでもまぶたを閉じて視界をステータスウィンドに切り替えると、俊敏性に1ポイントを投入してみた。

 それは明らかに体感できる変化だった。

 明らかに他のステータスとは、成長度合いが違い過ぎた。軽く歩を進めただけなのに、一瞬で数メートル先に立っていた。まさに風を切る速さとは、このことを言うのだろう。一駆けで、景色が大きく変わる。もしかして、俺には『シーフ』や『忍者』といった属性があるのだろうか。残りのボーナスポイント35のうち、思い切って25を投入してみた。

 トン、トン、と二回つま先で地を蹴り、足を一歩前へと突き出した。

 なんだよ、これは! これはもはや、人間の出せるスピードではない。まるでマフラーを唸らせて派手にかっ飛ばしているオートバイのようだった。めまぐるしく景色が変わり、あっという間に錬金術師の店までやってきた。例の同じことしか言わない不気味な老婆の前に、金塊を並べる。換金してもらい受け取った額は、七百一リカになった。

 解毒剤まで、あと三百リカ足りない。

 ふと思った。これだけの速度があれば、もしかしたら……。

 店から出て、剣の柄を握り、素振りをしてみる。剣は以前のように重たい。剣を抜くモーションまでは早いのだが、振りきるまで時間がかかる。あきらかにこの武器は俺にあっていないようだ。そう言えばひなたを背負う時、彼女の持ち物を預かっていた。ひなたの持っていたダガーを振ってみる。

 なんと一呼吸に六連打も叩き込めたのだ。

 ゴブリンは恐ろしく速い。更に爪には毒まである。だがこのスピードがあれば、奴らに勝てるかもしれない。俺は三百リカ相当の金塊を手にするために、再び街の外へ急いだ。

 日は沈みかけている。徐々に視界が悪くなる。急がなければならない。月明かりだけで戦闘をするのは、今の俺には困難だ。

 木の陰から顔だけ乗り出して、草原をうろうろしているモンスターの様子をうかがう。

 基本的に、ゴブリンは群れで動いている。先ほどの二匹というのは稀で、大抵は四から八匹で行動している。オークは巨大な斧を持っており、頑丈な鎧で身を守っている。腹はでているが、肩の筋肉は異常に盛り上がっており、かなりの巨躯で二メートル近くもある。ゴブリンより断然強そうである。ロイの日記でも、『ゴブリンがまともに倒せないうちは、オークやスライムは絶対に相手にするな』とあった。

 場所を変え、とにかく単体のゴブリンを探した。

 探すこと、二十分弱――

 遂に見つけた。

 一匹のゴブリンが、夢中で冒険者の死体をむさぼっている。冒険者の(むくろ)は八つ。これほどの人数でも、ゴブリンに勝てなかったのか。外国人男性のようで、手には猟銃や、マグナムがある。外界の武器が通じないというのは本当らしい。ロイと出会っていたおかげで助かったことを改めて実感した。

 夢中でむさぼるゴブリンに向かって走り寄り、懐のダガーで斬りつけた。

 ゴブリンへの首筋へ俺の一撃がヒットする。ゴブリンはよろめきながら反転すると、棍棒で応戦してきた。全力で斬りつけたというのに、致命傷を与えることはできないというのか。

 横殴りに叩きつけてくる攻撃を、後方へ飛び退いてかわした。先ほどの戦いでは全く見えなかったゴブリンの攻撃を、今はハッキリと見切ることができる。一歩踏み込み、ゴブリンの腹部に六連突きを叩き込む。

 ゴブリンは地にうずくまりもがいている。

 ロングソードを叩きつけたときは、一撃で首を落とすことができたというのに、ダガーでは奴の肉体を貫くことができない。ダガーの攻撃力は、相当低いということか。

 背中のロングソードに切り替え、ゴブリンに向けて叩きつけた。

 首をはねる直前、「ギヤァァ」という奇妙な声で鳴いた。断末魔の雄叫びってやつか。だがその声の正体を、すぐに知る事になった。周りにはゴブリン六体と――さらに一体のオークまで集まってきたのだ。仲間を呼びやがったのか。完全に囲まれてしまった。嫌な汗を感じる。

 左右から同時に、二匹のゴブリンが襲いかかってくる。

 出し惜しみしている場合じゃない。瞳を閉じて、ボーナスポイントの残りをすべて高い成長率の望める俊敏性に突っ込んだ。突っ込んだ直後に気づいたのだが、残り15だったはずのボーナスポイントは、76になっていた。さっきのゴブリンを倒してレベルアップしていたのか。

 だけど与えられたボーナスポイントが大幅に上がっている。初期のボーナスポイントは20だった。レベル2で35。レベル3で61……。

 ――これはどういう計算になるのか? レベルが上がる度にボーナスポイントは1.75倍ずつ増加しているが、今後もそういう成長を辿るのだろうか? もしそうなら、レベルが上がる度に飛躍的に強くなれる。

 それにしても、俊敏性に76入れた恩恵は凄まじいものがあった。もはやゴブリンはすべて止まっているようにしか見えないのだ。俺の正面に躍り出たゴブリンは、完全に静止して見える。スゥ……ハァ……という敵の呼吸音でさえ、スローモーションに感じる。俺はゴブリンの間をかいくぐり、背後に立ち、ダガーで猛烈に突きまり、百発以上の突きを決めた。ゴブリンの肉片が少しずつ削れていき、その細切れになった肉塊はゆっくりと宙を舞っている。辺りには、まるで薄く削ったかつお節が風に吹かれるように飛散していく。

 二匹目のゴブリンの背後へと回り込み、ダガーで斬りつける。一呼吸で百五十連打以上叩き込むことができた。三匹目――四匹目――と、ダガーを叩き込む。そして六匹目のゴブリンにも、連打を浴びせる。俺が後方へ飛び抜いたと同時に、骨が見え隠れしている六体のゴブリンすべてが地へと突っ伏した。殺されたことさえ気付かなかったのだろう。うめきひとつ上げずに絶命した。

「ほぅ。シャドータイプか?」

 そう声を発したのは、一際図体のでかいモンスターだった。こいつ、しゃべれるのか!? そういえばロイは、オークには知能があると言っていた。ゴブリンを遥かに凌駕するスピードを見ても、丸い顔を嫌見たらしくほころばせニヤニヤと笑ってやがる。

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