ジョエルの勲章
ホバートはポケット中からごそごそと取り出し、白い布に包まれたものをテーブルの上に置く。
「これはナオちゃんがもってた方がいい」
ナオは机に置かれた包みをゆっくりと開ける。
「これは」
「ジョエルの勲章だ」
金色に縁取りされた真ん中に黒く光る竜の鱗がついていたその鱗にはナオが持っていた鱗と同じ文字が書かれていた。ナオは勲章をじっと見つめホバートが飾られた鱗を見る。
「これはジョエルが導いてくれたのかな」
ホバートは柔らかく微笑んだ。
(違うからそれ違うから、あんまり見ないでくれ)
店の端でナオの事を心配してエリーやカイルがいる前からルーファスはこっそりといた。
ピンと空気がはりつめ勲章を見ながら瞳孔が開きナオは動かなくなった。そしてこの店の人達の動きも止まった。
「ただいま~」
ナオが小等学校から帰るとその勲章は棚の一番見える所にあった。その勲章はナオにとって生まれた時からある当たり前にある日常だった。
その勲章がなくなった日がナオを日常から追い出したのだった。
リリィは美味しいおやつを作って待っていた。そしてジョエルも昼休憩になりナオと一緒に午後の休憩をとるために家に戻ってきていた。
荒々しく扉をあける音を聞いた。
そこに見た事のない客人がやってきた。貴族らしく男性にしてはあまり趣味の良くない派手な服を着ていた事をナオは覚えていた。ジョエルは心底嫌そうな顔をした。ナオの父としてみせたことのないジョエルの顔だった。
「もう、話す事はない。これはこの大陸の国々できめられた事であり立派な犯罪だ。上に報告する」
「ジョエル殿まってくれ」
「あなたにジョエルと言われる覚えはない」
「俺には家族がいる。ここ何代も私の家から竜騎士がでていない。このままでは領地と身分を剥奪されてしまう。だからたのむ言わないでくれ」
男はジョエルの前で深々と頭をさげる。その男は頭を下げてジョエルには顔が見えてないが身長の低いナオにはその顔が見えた、とても謝罪している顔には見えず醜く歪んでいた。
「だったらなおさらでしょう。あなたの犯罪に家族を巻き込むのですか?もともと竜騎士以前に領地経営もうまくいってない。まずそこから変えてくべきだった」
「どうしても駄目か?」
「報告しなければやり続けるでしょう」
返事をせず男はわなわなと震えはじめた、それがジョエル返した答えだった。
「人を殺した訳でもないのに、だだ他の大陸に竜の鱗を売っただけじゃないか、何が悪い」
学校から帰ってきて突然のぼーぜんとたってたナオに男は腰にあった剣を抜きこの中で一番弱いナオに切りかかってきた。
きゃぁとナオが悲鳴をあげるとリリィはナオの手を引き全身でナオをかばいジョエルは硬い作業用手袋を男の手をめがけてなげた。
男は「いたッ」声をあげて剣をはなし軌道がそれ床に剣がころがった。
「くそッ」と声を上げて男は逃げていった。
その男が出ていくとナオは力が抜けユナに座りこんだ。
なぜ忘れていたんだろうずきずきとナオは頭の奥が痛みだした。
そしてルーファスもずきずきとナオに呼応するように頭の奥が痛みはじめた。
大きな神殿の奥に大きく横たわる白い竜がいた。
「この女の子の記憶をなくして欲しいだと」
「はい。聖下」
10歳ぐらいのルーファスがそこにはいた。
白い竜はチラリと女の子を見る。幼い頃のナオだった。ナオは幼い子供がみせるぷっくりとした体形ではなく痩せこけて目のしたにはくぼみができてみていて痛々しい程だった。そのナオの姿を見ても聖下と呼ばれた竜は良いとは言えない答えをだす。
「無理だ」
「なぜです」
「竜の番でもない人間には私の力に耐えられない」
「番です。この子は僕の番です」
「まだ、本当の番にはなってないだろう」
ルーファスは真っ赤になって黙る。
「ですが、竜の番をなくせばどうなるか知っているでしょう?このままだと私の番は食べれずに死んでしまいます」
白い竜は少しの間うーん、うーんと唸りながら考える。
「お前を通してなら完全ではないが記憶を薄めることができる」
ルーファスの後ろに控えていたルーファスの両親が前にでてくる。
「何をいっているんですか、まだこの子達は子供です」
はあぁーとルーファスが吹き飛ばされるような声を白竜はあげる。
「変な勘違いをするな。こっちが恥ずかしくなるわ」
『え?』
両親は二人してはもった。
「口でほら、、、口でちゅっとすればいいだろう」
両親は胸をなでおろした。
白竜は手をルーファスにかざすそしてルーファスは照れながらちゅとナオの口にキスをした。
ルーファスのこの記憶がぼんやりととなって心の奥に行き、ナオはその日の夕食を美味しそうに食べた。
ルーファスは頭の痛みがとれた。
ナオは硬くなったまままだ動かない。そして店の人達もなにかに包まれたように動かない。
ナオのその姿を見るといてもたってもいられなくなり席をたちナオのそばまできてナオのほほにそっと触れる。
ナオからでた声はルシオン先生?とその一言だった。ルーファスはナオから手を放し店の人達もなにもなかった様に動き始める。
ルーファスは胸が締め付けられる思いにかられた。やっぱりルシオンかよ。
「お会計」とメグにに伝えてお金を払いそのまルーファスは店の外に出た。
店の外にも聞こえる。ナオの元気な声が聞こえてきた。
「懐かしい。ありがとうございます」
苦しいのにナオの元気な声をきいて嬉しくなりルーファスはその場所から離れた。




