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師弟関係

俺たちは副所長に呼ばれて陣幕に入った。


「残念だが2人が去ったので君たちは合格だ。おめでとう!

最下層ではあるが帝国兵士の一員となったことを誇りに思うがいい」


俺らたちは軽く会釈をした。


「どうするか、まだ明日1日あるが止めにするかね」

明日もやります!という答えを期待した眼でこちらを見つめている。


俺たちはお互いの顔を見て頷き

「やります!」

「明日も挑戦します!」

と答えた。


副所長はうんうんと頷き

「では累計一人当たり5匹倒したら戦奴の小隊長に任命しよう。

 10匹なら戦奴ではなく一般兵の身分を与えよう」

と目先の目標を提示してきた。


俺たちは戦奴候補のテントに戻り休むことにした。

だが、昼間の興奮が冷めず眠れないため体を動かすことにした。


さて、何をしようか?

とりあえず蔡李佛拳の型「家字拳」を復習することにした。蔡李佛拳は太平天国の乱のときに革命戦士が使った流派であり詠春拳時代のブルース・李が多人数戦に有効な流派として評したと言われている。そのあとは柳生新陰流の三学円之太刀を思い出しながら練習した。師事した先生曰く、三学円には新陰の要素が詰め込まれているで三学円を会得すればよいと言っていたな。一刀両断と斬釘截鉄ざんていせつてつが異なる江戸使いと尾張使いは覚えていたが永禄古伝はすっかり忘れていた。


すると剣道少女 白井が近づいてきた。


「浅田さんも眠れないのですね」


「ああ。ゴブリンといっても初めて人型の生き物を殺したんだからな。殺さなきゃこっちがやられるがそれでも・・・ね。斬った感触と被った血しぶきの臭いが鼻に残っていて眠れない」


「私もそう。殺した後味の悪さで眠れません。それに恐怖に飲まれて練習したことが全然でてこないなんて・・・」


「そうだよね。なんの苦労もしないで異世界に召喚されたからって何の感情もなくばっさばっさと魔物を斬るなんてありえないと思う。


だから、眠れるようにクタクタになるまで練習しようかと思ってね」


白井は黙って話を聞いていたが

「ねえ、私に剣術を教えてくれませんか?」

と思いつめた表情で頼んできた。


「それは構わないが明日使える保証はないぞ。むしろせっかく体得した剣道がバラバラになってしまうかもしれないぞ」


「ええ、それでもやらないといけないと感じています」

真剣な眼差しでこちらを見据えていた。


「・・・わかった。俺は達人ではないし、元の世界で習っていただけだから。それでもよければ教えよう」

彼女に教えることで俺も対人練習ができるようになるから一石二鳥だな。


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


「よし、では最初になにを教えようか」


・・・・・・。

・・・・・・。


「では今日は剣術の考え方を教えよう」


「はい先生!」


「君は剣道のとき面や小手を打つときどうしてる?」


「できるだけ早く、相手よりも早く打つようにしています」


「なるほど」


「俺が習っていた柳生新陰流は「後の先」つまり相手より少し遅れて斬ることを基本にしている。


うーん、実際にやってみればいいのだけれどここには刃引きした刀も木刀もないからなあ。お、あれがいいかな」


俺は2本の木の枝を拾ってきて1本を彼女に渡した。


「では、正眼に構えて真向を打ってきてください」


彼女が振り下ろす少しあとにこちらも同じく真向を斬ると彼女の剣が拳一つほどずれて俺には当たらず、逆に俺の剣は彼女の手首をとらえていた。


「これが合撃という技です。覚えれば何百回やっても同じく相手の上に乗ることができます」


実際に何度も同じ結果になり1本も取れないので彼女は目をぱちくりさせていた。新陰の基本である手を伸べること(左ひじを伸ばす)、膝を得ます(かかとで前に押しながら膝を少し曲げ張る)こと、足の指を上げ足裏の三角(親指と小指の付け根と踵)で地面を感じるようにすることを説明した。


「剣術の基本か・・・」

「竹刀から真剣に持ち帰るのだからどうしても斬られる恐怖から刀を見てしまいがちだと思う」


「はい」


「だが相手の拳を見るようにすれば刀に惑わされず相手の動きが見えるようになる」


「なるほど」


「拳は二星にせいと呼んでいて剣術の練習では二星を見るように言われる。柳生新陰流では柳生十兵衛先生が心の置き所として守るべき五つの教えとして敵の拳と自分の肩の高さを比べる事、自分の拳を盾にする事などと拳の置き所、意識するところについて説明している」



「すみません。よくわかりません」



「ん、ごほん。ここは今日はいいや。竹刀と比べると刀は重いでしょう」


「はい。重いです」


「柄を左手で押し上げると力を使わずに持ち上がります。振り下ろすときは必要以上に力まないこと。力任せに振ると刃がぶれて刃が相手に吸い込まなくなる。つまり斬れないということだ」


「なるほど。昼間のゴブリンがそうなのですね」


「そう。気が付いていたか」


「剣術は後ろに下がらず前に進むことが大事だ。相手の剣を越えて相手の懐まで踏み込めればもう相手は何もできない。こちらは喉元に剣を突き立てることができる」

「こちらが無刀の場合は相手の懐に踏み込んで相手の手首を十字受けすることで剣を止めることができる。そのまま手首をつかみ下に引き落とせば相手は顔面から落ちる」


「あとそうだな、刀は縦の動きは強いが横の動きには弱い。真剣白刃取りは有名だけどあんなことやる必要はない。振り下ろされる刀の横を軽くたたくだけで軌道はそれる。だから横から押すように刃を寝かせて横で受けるとある意味だれでも白刃取りができる。」


「ふんふん」


「このまま刀を引けば相手から奪うことができる。握っていても刀は引く力には弱いから簡単に奪うことができる」


「なるほど」


「そして大事なのは刀は打つではなく引き斬らないと斬れないということ。日本刀は反りがある反りに従って斬れるが引くことを意識するともっと斬れるようになる。斬るときは体を沈ませることが大事。あと剣道だと表面を叩くイメージだと思うが剣術の場合刃が抜けるところまで見て振らないと深く斬れない。自転車とかバイクで一本橋を渡るとき手前ではなく遠くのゴールを見ると落ちにくくなるだろう?あれと同じだと思えばいい」


「なんかいろいろあるんですね。大変だ」


「そう。大変なんですよ。だから面白いとも言える。「人に教えたことがないので説明がわかりにくいかもしれないもでここまでのことを実践してみましょう」


「はい。よろしくお願いします」

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