去る者と残る者
「今日はここまでにしてベースキャンプに戻ったほうがいいね」
ロベルトは帰還を提案した。
「どうして!まだやれるわよ!」
白井がロベルトに突っかかるが
「君の友達は気を失っているし、渡辺は腰が抜けてる。夜になると魔物は凶暴化する。二人を連れ帰るなら今帰らないと間に合わない」
グレンが諭すように白井に告げた。
「わかった、帰ろう」
俺はその判断は正しいと思ったので同意した。白いはしぶしぶ同意した。
そもそも、初めての戦闘で以外と精神的に負担がかかっている。人型の生き物を殺すことはたとえ怪物でも慣れるのに時間がかかりそうだ。自分だけじゃない。白井の半狂乱の面打ちは同じ心境なのだろう。
帰り道がわからない俺たちをよそに
「ついてきて」
とロベルトが道案内を始めた。
30分ほどで海岸に出られた。どうも行きは道に迷ってぐるぐる森をまわっていたようだ。
海岸に戻ると副所長が待っていた。
「戦果はどうだ?」
「はっ、ゴブリンが3匹であります」
グレンが答えた。
「内訳は?」
「浅田が2匹、白井が1匹です」
「で、そっちの気絶してるやつと腰を抜かしたやつは戦果0か。
ん、ご苦労。チームでと話したから明日1匹仕留めれば全員合格だ。
まだ日が高いが明日に向けて休養をとるがいい」
そう告げるとロベルトを呼び寄せ陣幕に入っていた。
「と言うことで明日まで楽にしていていいですよ」
グレンがそう告げると戦奴候補者用のテントに案内された。
しばらくすると吉川が目を覚まし、渡辺さんも治癒の魔法で動けるようになった。
食事が用意されており奴隷たちのアルコールありのバーベキューとは異なり
栄養バランスを考えた低脂肪高タンパクなメニューだった。
白井も吉川も食事が進まない。当然だろう。俺もできれば食べたくないが体力を維持するためには無理にでも食べないといけない。
「あと1匹で全員合格だ。明日は全員行く必要はないから行けるものだけで行くのはどうだろうか?」
俺は渡辺さんと吉川を気遣って提案をした。
しばらくの沈黙の後で
「私はここでリタイヤします。今日は身の程を知りました。残念ながら私は一歩も動けませんでした。今皆さんの協力で戦奴になっても戦場ではまたたくまにやられてしまうでしょう」
渡辺さんがリタイアを宣言した。
「ちょっと、元の世界で待っている奥さんはどうするんですか?戻りたくないんですか?」
俺は思いとどまるように説得しようとした。
「妻は特別養護老人ホームに入所してますし、息子夫婦が面倒みてくてますから。私が死んでしまったら戻れる可能性が0になります。時間がかかっても戻れる方を選ぶことにしたのです」
そして吉川が泣き出した。
「佳ちゃんごめなんさい。私もリタイアする。あんな怖いのもう嫌!」
「ちょっちょっと待ってよ!一緒に元の世界に戻ろうって約束したじゃない!」
「ごめんなさい。でもこの先戦場にでるようになったらあんなのが何百何千といるんでしょ?無理だよ!」
「・・・・。」
白井はなにも言えなくなってしまった。
2人は副所長にリタイヤを告げ奴隷組に合流していった。もう会うこともないのかもしれない。
白井は涙を浮かべていた。
「彼女を悪く思うなよ。俺たちは抗えたがタイミングが悪ければだれでも心が折れてしまう」
「わ、わかっているわよ、そんなこと」
涙をぬぐいながら吉川の背中を見えなくなるまで見送り続けた。