魔の森の戦い~1日目~
森に入りどのくらいたっただろうか?1時間?2時間?変化のない風景が時間と方向感覚を麻痺させる。後ろからついてくるエスコート役の2人の兵士が焦る様子はないので恐らく位置がわかっているのだろう。まだ魔物との遭遇を果たしていない。
さらにしばらく歩くと森の中で開けた場所に出た。
「ねえ、ちょっと休憩しましょうよ」
剣道少女が休憩を提案してきた。
「わしも賛成だ。もう足が痛くて痛くて」
渡辺さんが続いた。
「私も休みたいです」
吉川さんもへばっていた。
「じゃあ、休みましょうか」
俺も正直疲れたので休むことに同意した。
だがここは敵の真っ只中だ。刀は降ろさないほうがいいだろう。
俺はロングソードとショートソードは外したが脇差は帯刀したままにした。
エスコートの兵士達をみるとなにやらニヤニヤしていた。
「なにか?」
俺が訪ねると
「いやね。こんな開けた場所で休憩とは。魔物たちは君たちをずっと襲うタイミングを狙ってついてきているのが気が付かなかったのかい?」
「なんだって!?なぜ教えてくれない?」
俺は驚き思わず叫んでしまった。
「命の危険あがるまで手を出さないといったよね?」
ロベルトはそう答えた。
「ちくしょう!みんな、ここが土壇場だ!奴らが来るぞ。剣を抜け!」
俺は脇差を抜いたがほかの連中は気を緩めているので状況が呑み込めていないらしい。
一瞬の静寂の後、3匹のゴブリンが茂みから襲い掛かってきた。それぞれ渡辺、白井、吉川に向かっている。
白井は自分で何とかするだろう。渡辺さんは遠すぎる。俺は一番近い吉川の方に走り出した。
吉川に向かったゴブリンがこん棒を振り上げた。
「きゃー」
吉川は身を縮め怯えている。
間に合うか?
俺はスライディングしながら吉川とゴブリンの間に割って入り、こん棒を持ったゴブリンの手首に、振り下ろす圧力に負けないように柄側を高めに剣先を低く手添えで合わせた。
「ギギャー!」
鮮血とともにゴブリンの右手首が落ちた。
俺はすぐさま後ろに引くゴブリンの喉元に剣先を入れた。
血しぶきが俺の顔にかかった。生臭く生暖かくとても嫌な気分になった。
「きゃー」
吉川はまた悲鳴を上げ気絶した。
次は?
俺は白井と渡辺さんの方を見た。渡辺さんには命の危険と判断したのかロベルトがカバーに入っていた。
白井はゴブリンと対峙していた。初手をかわせなかったのか額から血が出ていた。
「助けはいらない!こいつは私が倒す!」
そう叫ぶと白井は掛け声とともにゴブリンに向かっていった。
「メーン、メーン、メーン、メーン、メーン、メーン、メーン、メーン、メーン、メーン、メーン、メーン、メーン・・・・」
まさに滅多打ちだった。
ゴブリンは息絶えたがそれでも白井は打ち続けた。
「もうやめろ!死んでるぞ!」
俺は彼女の腕をつかみ止めさせた。
剣道の振り方では刃が吸い込まなかったのか斬られたのではなく撲殺された感じだった。
肩で息するほど呼吸が乱れていたが
「な、なんてことないわね。たいしたことない。やれるじゃない」
と自分の剣道が通じたことを確認していた。
そんな彼女もまた血まみれだった。
俺は示現流にやられるとこんな感じなのかとちょっと怖くなった。
「まだ1匹残っているぞ!誰がやる?」
ロベルトがそう言うと渡辺さんを襲ったゴブリンは距離を取り身構えている。
白井は興奮状態だからやらせないほうがいい。
「では俺が」
「じゃあ交代ね」
ロベルトは下がり俺はゴブリンと対峙した。
改めてゴブリンを見ると子供くらいに小さい。ゴブリンは知能があるという。ならば「誘い」が通用するかもしれない。
俺は左手首を見せ打ち込みやすいようにスキを作った。
さあ乗ってこい!
ゴブリンは考えた末誘いに乗ってきた。左手首めがけてこん棒を振り下ろした。
俺は柳生新陰流の半開半向で応じた。すなわち、相手の打ち込みが当たる直前に左手首を右に返すことで打ち込みをやり過ごし、一歩踏み込み相手の両腕を右方向に切り裂く。そして喉元剣先を突き立てた。
これで3匹。あと残り1匹で全員合格だ。
俺の剣術は十分通用する!これならやっていける!どことなく満足感と達成感に包まれていた。