射程距離
「傷は治っているはずだが・・・。」
ヒーラーの治療を受け毒も抜け傷も治ったが目を覚まさない浅田を見てマルク教授がつぶやいた。
「あらあら、大変」
ララは悪びれもせず笑っていた。
「教授、あれもってきましょうか?」
きれいなゴブリンのブブが提案した。
「そうだな、きっついやつを頼むぞ」
「わかりました。純粋なやつを取ってきます」
そう言うとブブはどこかに走っていった。
「さて、この異世界人の剣術はラミア族には通用しないかな?」
「さあ?ラミアと戦うのに剣で挑む愚か者はそういないからわからないわ。
弓か槍、魔術でくるのが普通じゃないかしら。」
「ふむ、人の身で剣では届かないということか」
しばらくするとブブが液体が入った瓶を持って帰ってきた。
「教授、戻りました。」
「ご苦労。それはおまえのじゃないよな?」
教授は黄色い液体の入った瓶を指さした。
「僕のじゃないですよ。僕は食事がいいからあなたたちと同じくらいですから。
ちゃんと飼育小屋の天然ものですよ」
「そうか。ならいい。じゃあ離れているから頼んだぞ」
ララが後ずさりしならが
「それはもしかして・・・」
と問いかけると
「はい。ゴブリンの小便です」
とブブは答えた。
「このブブは別としてゴブリンは劣悪な環境で生活しているから汚物のにおいがものすごく臭くてな。
気付けには最高なんだよ」
教授が答えた。
ブブが瓶のふたを取ると辺りに吐き気をもよおすほどのツンとした強力なアンモニア臭が漂って来た。
それを浅田の鼻に近づけていった。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「ゴフッ」
むせながら浅田が目を覚ました。
「なんだこの臭いは?」
鼻を押さえて辺りを見渡すと遠巻きに見守る教授とラミアがいた。
「気が付きましたか?」
ブブは問いかけながら瓶のふたを閉めた。
「俺は負けたんだな。それもなす術なく」
「そうね。ラミアに剣で挑むのは死にたがりの愚か者かよっぽど身体能力に自信のある英雄かしらね」
ララが配慮の欠片もなく答えた。
「なあ浅田君、弓や槍は使えんのか?」
「自分は剣か拳で戦う方法しか習っていないので弓や槍は使ったことがないです」
「そうか。君たちの世界では銃というものがあると聞くがそれはどうかな?」
「えっ銃があるのですか?」
思わず聞き返してしまった。
「いや、弓よりも遠くまで届く銃というものが異世界にあると聞いただけで実際に物はないよ」
教授は期待に沿えないことに申し訳なさそうな顔をしていた。
「すいません。そうですよね」
実際に銃があったとしても実銃を当てるには訓練が必要だ。昔ハワイの射撃場で撃ったことがあるが狙ったつもりでもほとんど的に当たらなかった。
頭部や胸など急所はかすめもしなかった。
「どうする?続ける?」
ララがこれで終わりじゃないよね、という表情で覗き込んできた。
「ああ、せめて一太刀浴びせて戦えるヒントをつかみたい」
「そう。今度は少しくらい楽しませてね」
そう言うとくねくねと立ち位置に戻っていった。
さてどうする。あのしっぽの射程外から攻撃するにはどうしたらいい?
こんなことなら剣術使いの手裏剣(鉄の針のようなもの)を習っておけばよかった。
そうなると二刀(柳生新陰流 天狗勝 二刀。小刀を相手に投げ牽制する)ぐらいしか思いつかない。
練習では使太刀に当たらないよに加減して投げていたからどうんるか?
不安を抱えながらララのもとに向かった。