対人狼剣術①
エマーソン少将の言う通り俺の剣術は対人間用で魔族との闘いを想定していない。大型魔族や非人型魔族の戦い方を「工夫」すればいいだろうと甘く考えていたがそもそも人型でもパワーとスピードが段違いだ。新陰はいわゆる待ちの剣術だ。単純に待ち構えていては初動が遅くなる。ましてや相手の動きが読めない以上初動に合わせることもできない。
剣術・格闘術はある意味信仰の世界でもある。自分の流派・技、そしてそれを自分がそれを会得できていると信じ切ることができるか?答えは否だ。趣味でやっていただけでブランクもある。となると、工夫が必要だ。アインは両腕の爪で攻撃してくる。蹴りも噛みつきもある。だが武器は持っていない。そうなると攻撃のリーチは短い。剣術は懐にはいられてしまうととたんに弱くなる。そもそも剣を帯びていないから剣術の理である当跳越乗(とうはつえつじょう/当てて跳ねて越して乗る)の考えに当てはまらない。ならば、柄当てを初太刀とした組み立て方にしたほうがよいだろう。
俺は納刀し右手でかかってこいとの合図をした。
アインが踏み込んでくるが俺は大きくかわすことに専念した。まずは動きを見極める必要がある。大きくかわすことは剣術使いとしてはご法度である。斬って斬られる距離が剣術の間合いであり大きくかわすと切り込みが浅く、相手の反撃を許してしまう。故に最小の動きと無駄の無い動き、間合いが大事なのだ。だから致命傷にならない程度斬られることは想定内である。「肉を斬らせて骨を断つ」という言葉はリスクを負って勝負に勝つという意味ではなく本来は剣術の間合いから来た言葉だと俺は思う。
「どうした怖気づいたか人間」
攻撃をかわす一方の俺にアインが毒づいた。
「こりゃだめかな」
茜がつぶやくと
「よく見なさいよ。徐々にかわす距離が小さくなっているように見えるわ」
佳子が指摘した。
だんだん動きが見えるようになってきたような気がする。こちらが動き続けていれば狙いが定まらない以上アインの動きもワンテンポ遅れる。遅れた動きの初動で動きだせばかわすことはできる。だが攻撃しなければ倒すことはできない。




