戦斧vs新陰流②
正直なところ先手は得意ではない。練習では打太刀（練習で攻撃する側。指導側）を務めることが多かったが本気では打たず仕太刀（攻撃を受ける・返す側。学ぶ側）がやりやすいように加減していた。だが今日は本気で斬らねばこちらが危ない。
バノンはこちらの上段に対して斧を平にして突いてきた。斧の刃ではなく先端のスパイクで刺しに来たのだ。刀の身幅と違い戦斧は横方向に幅が広いので横に回り込めば斬られてしまう。下に逃げれば平で打たれる。後ろに下がればひと突き目はかわせるが追い突きが待っている。一瞬のうちに対応を考えたが雷刀の構えから対応が遅れてしまい刀身で受けるしかなかった。
バノンは体格通りのパワーで押してくるので手添え（左手を峰に添えることで両手で柄を保持するよりも強い攻撃を受けることができる。）で斧を受け突きを止めた。
「やるじゃねえか」
そう言いながらさらに強く押してくるのでその力を流すため左手を外し押される勢いで斧の下をくぐり右握り手を斬り抜け、その勢いのまま右脇を押し上げながら斬り抜けた。居合の一の太刀の奥の変用だ。今回のようなフルアーマーの状態では甲冑の隙間しか斬ることができない。古流では実戦を想定した技を奥と呼ぶそうだ。
今の攻撃でバノンの甲冑の右腕が肩から黒く変色した。どうやら有効なダメージを与えられたようだ。
「くそっ右腕が動かねえ！」
バノンの右手が斧から離れ左手1本で支えている。あの大きな戦斧を片手で持ち上げ振り回すのはさすがに無理だろう。
「勝負あったと思うがまだやるか？」
「へっぬかせ！異世界野郎に負けを認めるかよ」
何度も侮蔑のセリフを吐かれるとさすがにこちらも頭にくる。
「そうか。ならとどめを刺させてもらうか」
おれは正眼の構えで近づいて行った。バノンは動かない。一足一刀の間（お互い1歩踏み込み刀を振ると当たり距離）まで近づいた。
「うおぉー！」
バノンが大声を張り合上げ斧を片手で持ち上げようとしたので俺は踏み込み左手首を斬りに行った。
だが俺の剣は空を斬りその出来たスキで右肩を強く突かれてしまった。
バノンはしてやったりと満面の笑みでこちらを見て剣を構えている。
「仕込みか」
戦斧に刀を仕込んでいたのだ。まんまと演技に騙されてしまった。俺の右手は肩から黒くなり動かなくなった。
「バノン！お前仕込みはルール違反だぞ！恥ずかしくないのか！」
エルドアン中尉が叫ぶが
「戦場でルールもへったくれもあるかよ！兵士が学ぶ価値があるのは常に勝利する戦闘法だろ
」
と悪びれもしない。
「先生！」
佳子の悲痛な声が聞こえた。
お互い片腕を失い五分五分の勝負だ。本当に片腕を失った場合、腕一本分バランスを崩すため剣を振ることはおろか、まっすぐにも歩けもしないらしい。だが動かないだけで腕はついたままだ。まだ戦える。
